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第33話『ゼロスの記憶と主権の系譜』

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読者の皆様ありがとうございます!

 空間の裂け目から進入したアストラ・ヴェールは、古代連合の遺産エルグラード・ノードの核心に到達していた。

 周囲は、かつて文明の中枢だったとは信じがたいほど静まり返っている。

 重力は制御され、温度も保たれていた。だが、そこに“人の気配”はなかった。


 艦橋に投影される映像は、数百キロにも及ぶ構造体の内部断面図。

 階層は多層に分かれ、中央核にはエネルギー波が収束していた。


「ここが……中枢制御塔か」


 朔夜は、モニター越しに揺れる光の柱を見つめていた。

 その横では、義眼から光のラインを伸ばすゼロスが、ナビスと同調しながら解析を続けている。


《確認:主制御コード“オメガ・シグナス”の照合一致。主権者認証継続中……。》


 ナビスの表示が切り替わると、画面には幾何学的な線形が展開され、その中心から光の球体が生成された。

 それは、記録映像──あるいは記憶の再生。



 空間に映し出されたのは、かつての“銀河の王朝”と呼ばれた古代銀河連合の記録だった。


 統治権を持つ主権者たちが、次代への継承権を備えた“主権コード”を用い、銀河中枢ネットワークを管理していた時代。


 記録のなかでは、ゼロスに似た存在が幾体も、主権者の側で行動していた。

 彼らは生体兵でありながら、戦術支援官、戦略アドバイザー、果ては個人秘書としても運用されていたという。


「ゼロス、お前も、こんなふうに……?」


「私は、旧主の補佐として、星系管理と記録保守にあたっていた」


 朔夜の問いに対し、ゼロスは淡々と答える。その声に、機械ではなく“記憶”が宿っているようだった。


 彼が仕えていたのは、第八継承者オルド・アリュシオン・セグリス。

 惑星行政を司り、銀河会議に臨むその姿──

 傍らに立つゼロスは、主の意志を代弁し、時に命を張ってその理念を護っていた。


 記録の再生に合わせて、ゼロスの言葉にも、熱が宿り始める。


「彼は主権者であると同時に、一人の思想家でもあった。最後の会議で『分権』を提唱し、銀河を特権階級ではなく全構成種族に開放する道を求めた。……だが、その志は“銀河の安定を乱す”として排除された」


 朔夜は静かに息を吐いた。

「……それでも、君は主に従った」


「はい。最期の命令は、こうでした──『ゼロスよ、いずれこの意志を継ぐ者が現れる。その時が来たら、迷わず力を貸せ』と」


 ゼロスの義眼に、青白い光が揺らめく。


「私はその言葉を記録と共に保持し、断層の彼方で再起動を待っていた。……そして今、あなたの言葉と行動が、私の判断基準を満たした」


 朔夜はしばし沈黙した。

 過去の自分なら、きっとこの話を“重すぎる”と感じていた。

 だが、もう迷いはなかった。

 中立領主として旗を掲げ、アステロニアを守ると決めた今、彼の視線はまっすぐ前を向いている。



 ブリーフィングルームにて、アスファが口を開いた。


「つまり、この施設──エルグラード・ノードは、銀河全域の“主権継承ネットワーク”の一部だった。

 ならば、ここを再起動できれば、古代の主権データと繋がる可能性がある」


「その情報があれば、銀河の今の“分断された秩序”に風穴を開けられるかもしれない」


「でも、再起動するにはエネルギーが足りません」


 リィナが言った。


《正確には、欠損しているエネルギーは“ヴォルカナイト”と“エキゾチックガス”による双方向反応コアの触媒部分です》


 ナビスが補足する。朔夜は眉を寄せた。


「ヴォルカナイト……高揮発性魔導触媒。爆縮的な魔力中和を起こすやっかいな代物だ」


「エキゾチックガスも、常温では安定しない幻相性粒子。うまく反応させるには特殊な調整が必要です」


「アステロニアで採掘できるか?」


《地下レベル6以下に該当鉱脈あり。ただし開発には小規模採掘拠点の建設が必要》


「やるしかないな」


 一度は誰かに従い、戦いに巻き込まれる側だった自分。

 だが今は違う。迷いを乗り越え、自らの足で道を選び、決断する。


「俺はこの星を守るって決めた。でも、それはただ戦うことじゃない。争いに巻き込まれて終わるんじゃなくて──俺たちの手で、未来を築き上げること。それが、きっと俺の役割なんだ。

 この銀河に何を残すか──それを選ぶことだ」


 その言葉に、ゼロスが小さく頷いた。


「ならば、あなたこそが、主に選ばれし“継承者”であると、私は断ずる」


 その言葉が放たれた瞬間、艦内に流れる空気が一変する。

 ナビスの情報ディスプレイには、古代コードの継承フラグが点灯し、周囲のクルーたち──アスファ、リィナ、そしてゼロスの視線が、静かに朔夜に集まる。


 誰もが理解していた。

 この瞬間が、彼ら全員の運命を変える“分岐点”なのだと。


 朔夜はゆっくりと拳を握り、己の中心に芽生えた熱を感じる。


「──俺がやる。誰かに与えられるのを待つんじゃない。俺自身が、この銀河に“答え”を示す」


 アストラ・ヴェールの艦内に、確かな覚悟と共鳴が広がっていく。


 朔夜の中には、もはや迷いはなかった。


 ──自らの名と意志をもって、銀河に“次なる時代”を示す。


 それこそが、主権者として選ばれた者の責任なのだ。



ヴォルカナイト


性質:極めて不安定な結晶性粉末。熱・魔力・圧力のいずれかに反応して爆発的な反応を起こす。


用途:エネルギー触媒、爆薬、魔力干渉反応の増幅剤。


備考:採掘には慎重な処理が必要。保存には魔力中和フィールドが必要。


エキゾチックガス


性質:高密度次元共鳴性を持つ揮発性気体。


用途:次元航行炉、浮遊都市の反重力制御装置、時空歪曲兵器など。


備考:天然生成はごく稀。惑星核付近の極限環境で採取可能。


《ログ:読了ありがとうございます》


感想やブックマークは、物語の“銀河航路”を確定させる大切な観測点です。

あなたの感じたことが、次の物語の推進力になります──ぜひ一言でも届けてください。


また、更新情報や制作の裏話はX(@hiragiyomi)でも発信中です。

フォローしてもらえると、ナビスも喜びます。


《次回座標、設定中……》

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