第32話『ゼロスの目覚めと遺産の鍵』
リアクションいっぱいで嬉しいです:)
翌朝──
アストラ・ヴェールは、外縁宙域にて不明艦の漂着座標へと進路をとっていた。
夜明け直前、星光がまだ地平を照らす前。指定された座標には、無骨な艦影が静止していた。
その外装は時間と空間に削られたように劣化し、風化と損傷の痕が至るところに走っている。
艦体の側面には、見覚えのある“紋章”があった。
「……古代銀河連合の標章だ」
かつて、ゲーム内でしか知らなかった象徴。それが、ここに実在していた。
朔夜とリィナは艦体の裂け目から慎重に侵入し、艦内の主中枢へと歩を進めた。
無重力と化した艦内にはかすかな残響だけが漂い、時間が止まったような静けさが満ちていた。
そして、艦の心臓部。
焦げついた金属と、崩れたフレームの中から──それは、現れた。
機械と融合した外骨格。
青白い光を宿した義眼。
全身を覆う生体金属の装甲。
「……きこえるか」
電子ノイズ混じりの声が、静寂を破る。
「主権コード……確認……アマギ……サクヤ……」
ナビスの声が緊迫する。
《解析結果──古代銀河連合の戦術中枢AI搭載生体兵。“サーヴァント・ゼロス”に該当》
リィナが息を呑んだ。
「生きてるの……?」
「いいや……これは、再起動中だ」
その場に立つゼロスは、まるで時を超えた遺物。だが確かに、意志を宿していた。
*
ゼロスはアストラ・ヴェール艦内の医療ブロックへと回収された。
生体安定カプセルの中で、自己修復と記憶層の再構築が並行して進む。
《神経融合率:68%。中枢AIとの同期安定。刺激反応あり》
アスファがディスプレイ越しに呟く。
「ただの遺物じゃない……これは、記憶する兵器だ」
再生されていくゼロスの組織。
それは過去の記録そのものが、いま生き返ろうとしている証だった。
やがて、ゼロスは静かに膝をついた姿勢で言葉を発する。
「コード:オメガ・シグナス……主権者認証……照合完了」
*
翌朝。
ブリーフィングルームでは、ゼロスの記憶層の一部がナビスにより開示されていた。
《断片記録の再生に成功。ゼロスはかつて、主権者コード保持者の補佐として行動していた。記録内には《オメガ・シグナス・キー》の起動ログが確認されている》
アスファが強く反応する。
「それって……伝説級の星系管理システムの制御キーじゃないか!」
「その座標、あるのか?」
《はい。アステロニア星系北端の未探査領域に一致。通常の航行ログには記載なし》
「案内してくれるってことだな、ゼロス」
その問いかけに、ゼロスは静かに頷いた。
*
アストラ・ヴェールは新たな航路へと進む。
ゼロスの導きのもと、未知宙域への突入準備が整う。
目的地は、重力断層に包まれた“封印宙域”。
通常航行では侵入不可能な危険地帯だった。
《重力透過ゲートを展開。ナノシールド最大出力。空間干渉波の位相を同調》
艦がゆっくりとゲートをくぐる。
空間が沈黙し、音が消える。
──そして現れたのは。
星々の墓標のように浮かぶ巨大構造物。
直径数百キロにも及ぶ、空中都市のような制御塔群。
「……ここが、連合中枢か」
ゼロスの義眼が光り、光の網が放たれる。
「コード:オメガ・シグナス。アクセス認証──開始」
空間が震える。
星々が瞬きを止めるように、すべてが静止する。
巨大構造体が目を覚まし、螺旋状の光が空間に広がった。
忘れ去られた古代の記憶。
神話の残響。
そのすべてが、いま再起動されようとしている。
*
「サクヤ……これ以上進めば、本当に戻れないかもしれません」
リィナの声に、朔夜は短く頷いた。
「でも、俺は選んだ。この銀河で旗を掲げると決めたから」
ゼロスのコアが光を放ち、静かに扉が開かれる。
遺産の鍵は、いま確かに朔夜の手の中にあった。
──そして、次なる“目覚め”が始まろうとしていた。
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《次回座標、設定中……》