第31話『揺らぐ旗と異端の声』
いつも思う1話1話短いなって..
虚空より現れた“存在”──それは、観測外の超常生命体に酷似していた。
銀河記録では数例の遭遇例があり、いずれも艦隊規模の通信障害や物理的構造破壊を引き起こす“情報破砕型存在”として認識されている。数百年単位で姿を現すこの存在は、恒星間に漂うプラズマ帯と融合したエネルギー意識体とも言われ、その本質はいまだ謎に包まれている。
だが、今回アステロニア宙域に出現したボイドクラウドは、従来の攻撃性を示すことなく、アマギ・サクヤの意志に呼応し、まるで“観測”を終えたかのように静かに去っていった。
それは静寂ではなかった。
この出来事は即座に銀河中へと波紋を広げ、各勢力の情報網に記録され、拡散されていく。
そして、それに最初に反応を示したのは──予想外の宙域に潜む、ある勢力だった。
*
アステロニア=ゼロ、仮設指令塔内。
夜明けの気配が薄明の空を照らす中、朔夜は連合の通信ラインを通じて一人の人物と接触していた。
その男の名は、ユラニス・ヴォル・エルネスト。
名目上は中立商業評議会の“特別外交監察官”──だが、真の正体は連合内に潜む急進的異端派《軌道秩序回帰運動体(O.R.O.)》の指導的立場にある人物。
長身痩躯、冷たい灰緑の瞳。白銀に近い金髪を後ろに流し、端正な顔立ちに似合わぬ黒衣の軍装を身に着けていた。
「アマギ・サクヤ殿。あなたの演説と、その後の“接触”──大変興味深く拝見させてもらいました」
「……貴方は、どこから俺の接続を監視していた?」
「銀河の“裏側”からです。我々は常に、歴史が繰り返す“逸脱”を監視している」
ユラニスの言葉には、警告とも共鳴とも取れる独特の色があった。
「あなたが示した“自由意志”──それは我々《O.R.O.》にとって、古き銀河秩序の“歪み”を修正し得る唯一の可能性でもある」
「言ってる意味がわからない」
「ならば、あなたが立つべき舞台を一つ紹介しましょう。数日後、“断星会議”が開催されます。銀河辺境の紛争宙域《ヴァスト=メルシア》にて、連合・帝国・無所属各派の代表者が集まる非公式サミットです」
ナビスが即座に反応する。
《確認:ヴァスト=メルシア宙域は、数度の銀河小規模戦争が起きた“紛争星域”。治安レベルD。現地勢力との事前交渉を要します》
「そこで何を望む?」
「あなたに、“もう一つの選択肢”を見せたいのです。信仰でも国家でもない、意志の集約体としての銀河のあり方を」
電波が揺らぎ、ユラニスの姿が消える直前、彼は囁くように言った。
「……あなたこそが、世界の“輪郭”を塗り替える者になるかもしれない」
*
通話が切れた後、リィナが無言で朔夜にカップを差し出す。
いつもの、少し濃いめのコーヒー。
「……また変な奴が出てきましたね」
「ああ。だが、全員が敵ってわけでもない。選ばれたわけじゃないにせよ、見られてることには意味がある」
「あなたの言葉、あなたの旗。それは……もうあなただけのものじゃないのかもしれません」
リィナの瞳には、懸念と信頼が同居していた。
*
その夜、ナビスが低く警告音を鳴らした。
《新たな宙域より航行ログの乱れを検出──不明艦、アステロニア星系外縁に突入》
外部投影画面に映し出されたのは、無骨な艦影。
その外装は風化と損傷に満ち、まるで時空の狭間から現れた“忘れ去られた軍艦”のようだった。
「識別不能。所属不明。搭載波長:極古型。推定:時空断層を経由して出現」
「……またかよ」
だが、その艦体に描かれていたのは、朔夜にとって見覚えのある“記号”だった。
──かつて、ゲーム内で見た“古代銀河連合”の紋章。
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