第30話『虚空より来たるもの』
毎日7:00 20:00 投稿すると言っていましたが予約投稿を忘れて寝落ちしてしまいました..
読者の方々心配をかけました
二日前、アステロニア=ゼロの軌道上で、ナビスは極めて微細な空間歪曲波を検出していた。
それは銀河標準の観測網にすら登録されていない、未知の波長──
定義不能な、しかし“確実に意図された存在”の接近を示す兆候だった。
《干渉波の位相変動率が上昇。次元構造解析中。推定:ボイドクラウド類似体、もしくは観測不能級生命体》
その時点では誤検出として処理され、帝国も連合も動かなかった。
だがナビスは、アストラ・ヴェールの中枢に記録を残していた──
《特異反応として観測ログへ保存。後続波の蓄積を監視対象へ移行》
そして、予兆は現実となる。
*
アステロニア=ゼロの軌道上に現れたのは──虚無だった。
空間の概念が崩れるような、星の光すら吸い込まれる闇の塊。
それは確かに“存在していた”。だがその存在は、通常の物理法則を逸脱していた。
その挙動は霧か、波か、あるいは記憶そのものか。
視認する者の心象によって、その像が揺らぐ。
──ナビスが最初に下した定義は、“ボイドクラウド類似生命体”。
だが、朔夜は直感していた。
これは“違う”。それ以上の何かだ。
「ナビス、波長解析。精神波あるか?」
《高密度の意志波反応を検出。言語化不可能な信号帯で、直接的に“存在の記録”を投げかけてきています》
それはまるで、銀河の外からやって来た“誰か”が、自分を覗き込んでいるかのような錯覚。
──虚空の意志。
*
仮設基地では緊急対策会議が行われていた。
リィナ、アスファ、トレイス、そして宙商族の観測士までもが出席している。
「現在、軌道上の観測衛星群が軒並み沈黙。ナノネットワークも分散障害状態に入りつつあります」
リィナが淡々と報告するが、その声には微かな緊張があった。
「精神波か……侵略じゃなく、“意志圧”ってところか?」
トレイスが軽口を叩くも、その表情は険しい。
「対話の余地があるなら──賭けてみる価値はある」
アスファが言う。
「この存在は、アストラ・ヴェールの主権コードに強く反応している。ならば、コードを通して接触できるかもしれない」
「それは……俺自身の意志で、向き合うってことか」
朔夜は決意を込めて、命じた。
「ナビス、“主権者コード”を介した意志通信を構築。俺のコードでアクセスを試みろ」
《了解。構築開始──接続まで、25秒》
*
その瞬間、空が震えた。
まるで、銀河そのものが問いを返してきたかのように。
ボイド生命体は、“返答”を始めた。
それは言語ではない。だが、意味は確かに“心に届いた”。
──我ハ記録者。存在ノ裂け目ヨリ現レシ、神ノ遺物ヲ観測スル者ナリ。
──主権者ヨ、汝ハ再演ヲ欲スル者カ?
──過去ニ滅ビシ神々ノ器、再ビ起動セシ理由ヲ述ベヨ。
「……再演なんかじゃない。俺は、俺自身としてこの星に立ってる」
──汝ノ意志、確認セリ。
──我ラハ、見届け人トナロウ。
──未来ニ於ケル選択ノ果テ、銀河ヲ導クハ汝自身ノ決断ナリ。
そして、虚無の存在は静かに空へと退いた。
その残滓を残して。
*
静寂。
だがその場にいた全員が、何かが変わったと感じていた。
目に見えぬ、だが確かな“岐路”が現れたことを。
「……あれは、敵じゃなかった」
リィナの声が、夜風に乗って届いた。
「違う。“問いかけ”だ。俺が、本当に旗を掲げる資格があるのか──それを見に来たんだ」
朔夜は空を見上げ、静かに呟いた。
「ここからだ。ここから先は、俺の物語が“神の遺産”と交わる。選ばれたんじゃない。俺が、選ぶんだ」
そして遠く、銀河の果て。
何処かの時空の裂け目で──
もう一つの“器”が、目を覚ました。
物語は分岐を始める。
銀河は、選ばれた存在たちの“意志”によって形を変えようとしていた。
それは、創世か。それとも終焉か──
全ては、次なる選択に委ねられていた。
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《次回座標、設定中……》