第28話『星の眠る遺構』
連載開始から、ついに1週間目です!
ここまで読んでくださっている皆さん、本当にありがとうございます!
薄暗い空が、アステロニアの朝を告げていた。
その空を背に、朔夜たちの調査隊を乗せた二台の多脚地上輸送車が、惑星地表をゆっくりと進んでいく。目的地は、前文明の遺構が眠るとされる“磁場異常地帯”──昨日ナビスが解析したデータにより割り出された地点だ。
「フィールドノイズ値、上昇中。地磁気の振れ幅が……これは尋常じゃないわね」
助手席のリィナが、モニターに映し出されたグラフを見つめながら呟いた。
「予想以上か」
「ええ、ここまで強い精神波干渉が自然発生しているなら……おそらく、これは“何か”が意図的に発している」
“何か”──その言葉の重みを、朔夜は静かに受け止める。
帝国でも、セラフィエルでもない存在。
この星の地中深くで、いまもなお、呼吸を続けるものがある。
車列が停止した。
眼前には、まるで巨大な噴火孔のように口を開いた裂け目。周囲の岩盤は焼け焦げて変色し、空気すらも歪んで見える。大気の震え、わずかな振動、そして足元から感じる異様な重さ。
「ここが……入口か」
朔夜は車を降りると、携帯型フィールドシールドを展開して全身を覆う。
調査隊のメンバーたちも次々と装備を整え、ドローンと共に裂け目の内部へと歩を進めた。
*
内部は広大だった。
まるで逆さにくり抜かれた巨大なドームのように、地底の空洞が広がっている。岩肌には無数の線刻や模様が走り、どれも既知の言語や記号とは一致しない。
「これ、銀河古層語と似てるけど、配列が……逆転してる?」
リィナが壁面を指差す。
その一角に刻まれていたのは、まるで“警告”のような赤黒い碑文。そして、その中心に円環状の図形──まるで何かの“回路”を模したような構造が刻まれていた。
朔夜がナビスを通じて碑文の解析を試みるが、翻訳率はわずか14%。ただし、強い魔力干渉がこの構造体全体に満ちていることが確認された。
「ナビス、精神波の変動は?」
《上昇中……警告。調査隊員三名に軽度の意識混濁反応。幻覚の兆候あり》
「撤退準備。無理はさせない」
朔夜が指示を出した瞬間、空間そのものがぐにゃりと歪んだ。
次の瞬間──
「……!?」
全員の視界が暗転し、耳鳴りのような重低音が空間に響く。
映像記録では説明できない光の渦。時間が引き延ばされるような感覚。
だがそれは、ほんの数秒の出来事だった。
──気づけば、朔夜たちは裂け目の外へと押し出されていた。
装備は無事。記録も取れていた。
だが、誰もが言葉を失っていた。
「……あれは」
「中に、何か“意志”があった」
誰かがぽつりと呟いた。
朔夜もまた、内心でそれを否定できなかった。
*
基地への帰還後、ナビスが回収したデータを解析しはじめた。
可視化されたエネルギーパターンは、人の精神波に極めて類似していた。
《仮説:遺構内には、情報場としての“意識残留体”が存在する可能性》
「……つまり、意思を持った空間、か」
その存在が何を意味するのか。
この惑星が“中立交易拠点”どころか、銀河文明史にすら影響を及ぼす場所なのではないかという仮説が、朔夜の胸中で静かに芽吹き始めていた。
*
翌朝。
セラフィエル神聖使節団の艦影が、アステロニアの軌道上に出現したとの報が届いた。
全長200メートル級の主宰艦『聖光イシュ・ザアリ』──その名は帝国記録にも載る“巡礼級艦艇”であり、外交と布教の両面で活動する存在だ。
「本格的に来たな」
朔夜は、モニターに映るその艦影を見つめながら静かに言った。
だが、彼の視線はただの軍事的脅威を見るものではない。
その奥にある“意図”、そして背後にある“神話の構造”を読み取ろうとしていた。
「ナビス。彼らの通信チャンネルを受信しつつ、解読率を上げろ」
《了解。暗号鍵“神託三一式”を解析中。内部通信断片を取得──》
ナビスの報告が続く中、朔夜はふと、胸ポケットに収めた小型デバイスを取り出す。
それは──遺構内で回収された“共鳴片”。
触れるたびに微弱な脈動を感じる、金属でも石でもない、未知の構造物。
その中心に微かに浮かぶ、銀河古語に酷似した文字列。
それが意味するもの。
それが引き寄せるもの。
朔夜は小さく息を吐くと、ナビスに一言だけ告げた。
「すべて記録してくれ」
《記録開始──コードネーム:星の心臓(Heart of the Star)》
そしてその時、ナビスの警報音が低く鳴った。
《警告:第2磁場波動が断続的に接近中──座標、遺構上空》
「……新しい干渉?」
モニターに映し出されたのは、地表から伸びる薄青い柱状のエネルギー。
その上空に、未知の構造体──球体に似た、金属とも生体とも判別不能な物体が浮かんでいた。
まるで、見下ろしているかのように。
セラフィエルの艦影も、帝国の衛星も、一瞬その反応に沈黙した。
誰もが気づいた。
この惑星には、まだ“誰も知らない支配者”がいるということを。
朔夜は、静かにモニターを閉じ、ひとつ深く息を吸い込んだ。
思考の渦は止まらない。
「この星は、銀河に問いを投げかけている。そして答えるのは……俺だ」
《ログ:読了ありがとうございます》
感想やブックマークは、物語の“銀河航路”を確定させる大切な観測点です。
あなたの感じたことが、次の物語の推進力になります──ぜひ一言でも届けてください。
また、更新情報や制作の裏話はX(@hiragiyomi)でも発信中です。
フォローしてもらえると、ナビスも喜びます。
《次回座標、設定中……》