表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/65

第28話『星の眠る遺構』

連載開始から、ついに1週間目です!

ここまで読んでくださっている皆さん、本当にありがとうございます!



 薄暗い空が、アステロニアの朝を告げていた。

 その空を背に、朔夜たちの調査隊を乗せた二台の多脚地上輸送車が、惑星地表をゆっくりと進んでいく。目的地は、前文明の遺構が眠るとされる“磁場異常地帯”──昨日ナビスが解析したデータにより割り出された地点だ。


「フィールドノイズ値、上昇中。地磁気の振れ幅が……これは尋常じゃないわね」


 助手席のリィナが、モニターに映し出されたグラフを見つめながら呟いた。


「予想以上か」


「ええ、ここまで強い精神波干渉が自然発生しているなら……おそらく、これは“何か”が意図的に発している」


 “何か”──その言葉の重みを、朔夜は静かに受け止める。


 帝国でも、セラフィエルでもない存在。

 この星の地中深くで、いまもなお、呼吸を続けるものがある。


 車列が停止した。

 眼前には、まるで巨大な噴火孔のように口を開いた裂け目。周囲の岩盤は焼け焦げて変色し、空気すらも歪んで見える。大気の震え、わずかな振動、そして足元から感じる異様な重さ。


「ここが……入口か」


 朔夜は車を降りると、携帯型フィールドシールドを展開して全身を覆う。


 調査隊のメンバーたちも次々と装備を整え、ドローンと共に裂け目の内部へと歩を進めた。



 内部は広大だった。

 まるで逆さにくり抜かれた巨大なドームのように、地底の空洞が広がっている。岩肌には無数の線刻や模様が走り、どれも既知の言語や記号とは一致しない。


「これ、銀河古層語と似てるけど、配列が……逆転してる?」


 リィナが壁面を指差す。


 その一角に刻まれていたのは、まるで“警告”のような赤黒い碑文。そして、その中心に円環状の図形──まるで何かの“回路”を模したような構造が刻まれていた。


 朔夜がナビスを通じて碑文の解析を試みるが、翻訳率はわずか14%。ただし、強い魔力干渉がこの構造体全体に満ちていることが確認された。


「ナビス、精神波の変動は?」


《上昇中……警告。調査隊員三名に軽度の意識混濁反応。幻覚の兆候あり》


「撤退準備。無理はさせない」


 朔夜が指示を出した瞬間、空間そのものがぐにゃりと歪んだ。


 次の瞬間──


「……!?」


 全員の視界が暗転し、耳鳴りのような重低音が空間に響く。


 映像記録では説明できない光の渦。時間が引き延ばされるような感覚。

 だがそれは、ほんの数秒の出来事だった。


 ──気づけば、朔夜たちは裂け目の外へと押し出されていた。


 装備は無事。記録も取れていた。

 だが、誰もが言葉を失っていた。


「……あれは」


「中に、何か“意志”があった」


 誰かがぽつりと呟いた。


 朔夜もまた、内心でそれを否定できなかった。



 基地への帰還後、ナビスが回収したデータを解析しはじめた。

 可視化されたエネルギーパターンは、人の精神波に極めて類似していた。


《仮説:遺構内には、情報場としての“意識残留体”が存在する可能性》


「……つまり、意思を持った空間、か」


 その存在が何を意味するのか。

 この惑星が“中立交易拠点”どころか、銀河文明史にすら影響を及ぼす場所なのではないかという仮説が、朔夜の胸中で静かに芽吹き始めていた。



 翌朝。

 セラフィエル神聖使節団の艦影が、アステロニアの軌道上に出現したとの報が届いた。

 全長200メートル級の主宰艦『聖光イシュ・ザアリ』──その名は帝国記録にも載る“巡礼級艦艇”であり、外交と布教の両面で活動する存在だ。


「本格的に来たな」


 朔夜は、モニターに映るその艦影を見つめながら静かに言った。


 だが、彼の視線はただの軍事的脅威を見るものではない。

 その奥にある“意図”、そして背後にある“神話の構造”を読み取ろうとしていた。


「ナビス。彼らの通信チャンネルを受信しつつ、解読率を上げろ」


《了解。暗号鍵“神託三一式”を解析中。内部通信断片を取得──》


 ナビスの報告が続く中、朔夜はふと、胸ポケットに収めた小型デバイスを取り出す。


 それは──遺構内で回収された“共鳴片”。


 触れるたびに微弱な脈動を感じる、金属でも石でもない、未知の構造物。


 その中心に微かに浮かぶ、銀河古語に酷似した文字列。


 それが意味するもの。

 それが引き寄せるもの。


 朔夜は小さく息を吐くと、ナビスに一言だけ告げた。


「すべて記録してくれ」


《記録開始──コードネーム:星の心臓(Heart of the Star)》


 そしてその時、ナビスの警報音が低く鳴った。


《警告:第2磁場波動が断続的に接近中──座標、遺構上空》


「……新しい干渉?」


 モニターに映し出されたのは、地表から伸びる薄青い柱状のエネルギー。

 その上空に、未知の構造体──球体に似た、金属とも生体とも判別不能な物体が浮かんでいた。


 まるで、見下ろしているかのように。


 セラフィエルの艦影も、帝国の衛星も、一瞬その反応に沈黙した。


 誰もが気づいた。

 この惑星には、まだ“誰も知らない支配者”がいるということを。


 朔夜は、静かにモニターを閉じ、ひとつ深く息を吸い込んだ。

 思考の渦は止まらない。


「この星は、銀河に問いを投げかけている。そして答えるのは……俺だ」



《ログ:読了ありがとうございます》


感想やブックマークは、物語の“銀河航路”を確定させる大切な観測点です。

あなたの感じたことが、次の物語の推進力になります──ぜひ一言でも届けてください。


また、更新情報や制作の裏話はX(@hiragiyomi)でも発信中です。

フォローしてもらえると、ナビスも喜びます。


《次回座標、設定中……》

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ