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第2話『墜ちた惑星と初交戦』

本日2話目です

 戦闘が終わっても、手足の震えは止まらなかった。


 アストラ・ヴェールの中は静まり返っていたが、外では何やら騒ぎになっているようだ。センサーに映し出された数十の赤点が、その全てが武装勢力であることを示していた。


 少し遅れてやって来た地上部隊が、俺の乗る機体を取り囲み始めている。パネルには「魔導歩兵」「拘束部隊」「分析班」などと自動でラベル付けされており、完全に捕獲前提の動きだ。


《外部からの接触反応あり。武装は解除されていますが、複数の魔力反応を感知》


「降伏するしかないよな……」


 俺は正直、まだこの状況を飲み込めていない。

 だけど、これ以上余計なことをして相手を刺激するのもまずい。ナビスに言って、艦の出入口を開かせた。


 タラップが展開され、冷たい外気が入り込むと同時に、鋭い叫び声が響く。


「武器を下ろせ! 中の人間を確保する!」


 魔導甲冑をまとった兵士たちが銃のような武器を構えて取り囲む。俺は両手を挙げ、ゆっくりとタラップを降りた。

 まるで映画のワンシーンのようだったが、緊張で喉が渇くリアルな感覚が、それが現実だと突きつけてきた。


「お前がこの艦の操縦者か」


「え、えっと……そう、だけど」


「その技術、どこで学んだ。帝国製の機体ではない。見たこともない構造だ」


「それは俺が一番聞きたいんだけど……」


 俺の返答に、兵士たちはざわつく。けれど、何かを言う前に、俺はそのまま拘束され、連行されることになった。



 連れてこられたのは、男爵家の本拠地と思われる要塞都市の一角。

 無機質な金属と石材でできた建物の中、監視カメラのような魔力球が天井でゆっくり回転している。

 俺は手枷を外され、一つの部屋に押し込まれた。


 そこは、審問室というよりも詰所に近い印象の小部屋だった。壁には装飾もなく、ただ冷たく機能的で、居心地が良いとは言えない。


 しばらくすると、一人の男が現れた。背筋を伸ばした軍服姿の中年男。鋭い目をしていて、無駄な言葉を使わないタイプに見える。


「名を名乗れ」


「……天城朔夜。所属は……日本の大学」


「日本? 帝国の星図にはない名だ。惑星名か?」


「地球って星の国……いや、もうその説明通じないかもな」


 男はしばらく黙ったあと、端末を操作して部屋の壁にあるモニターを起動した。

 そこに映し出されたのは、俺の艦の内部記録データだった。


《本艦は“アストラ・ヴェール”。登録情報:不明。製造国:不明。操縦者:天城朔夜。資格:なし。強制的に操縦権を割り当てました》


「……なんだこの機体は。本当に帝国製じゃないのか」


《確認しましたが、帝国技術体系には該当しません。おそらく、現存のいかなる星間文明にも一致しない構造です》


 男は目を細めた。驚きというより、やはりそうかという反応。


「では、なぜそのような機体が我々の領域に現れた?」


《さあ。わたくしにもわかりかねますが、彼が乗っていたので、とりあえず動きました》


「“とりあえず”? 技術兵器がそんなことでいいのか?」


《本艦はシステム上の“人格判断”機能を搭載しており、搭乗者の意志と記録に応じて自己起動します。なお、この判断基準は……私にも説明できません》


「つまり──貴様が、この艦の動力と“条件”を満たしたというわけか」


 男の視線が鋭くなる。その瞳には、単なる尋問以上の何かが宿っていた。警戒か、好奇か、あるいは──畏怖か。


 俺はただ、困惑するばかりだった。


「待ってくれ、俺自身が何でここにいるのかも、まるで分かってないんだ」


「その言い訳が通用すると思っているのか。帝国軍の眼前に未登録艦で現れたという事実は、たとえ事故であっても無視できん」


 男は腕を組んで俺を見下ろすように立ち、深く吐息を吐いた。


「……この件、男爵家当主に報告する。貴様の扱いは、令嬢殿に委ねる」


「令嬢?」


 俺が聞き返す間もなく、男は何も答えずに部屋を後にした。

 俺は一人、無機質な部屋に取り残される。



 静かになった部屋で、俺はようやく“実感”を得始めていた。

 ここは本当に、ゲームの中でも夢の中でもない。

 異世界か、あるいは宇宙のどこか。確かなのは、俺が元いた地球とは全く異なる文明体系の場所だということ。


「ナビス。お前、本当に……俺の艦か?」


《コマンダー、あなたがいなければ本艦は起動しません。お忘れですか? あなたが私をカスタムしたんですよ》


「ゲームで、な」


《記録上では、ここは“現実”です。あなたの脳波、筋力反応、生命情報、すべてがリアルタイムで取得されています。仮想空間では説明がつきません》


 ナビスの声は、どこか他人事のようでいて、でも確実に“俺の知っているナビス”だった。

 この違和感こそが、逆に“現実”であることの証明のように感じられた。


 ドアの外では、兵士たちが何やら交代しているような気配がある。

 きっと、次に来るのが“その令嬢”という人なんだろう。


 正体も、ここがどこなのかも分からないまま、俺はただ、静かに椅子に座り続けていた。


 でも──ひとつだけ、確かなことがある。


 俺は、自分が作った“艦”と一緒に、この世界に現れてしまった。

 その艦は、この世界の常識を超えている。


 つまり──俺の存在も、もう常識の外側にあるってことだ。



お読みいただきありがとうございました!

第2話では、主人公と帝国側の初めての“対面”が描かれました。

まだ何も分からない状態のまま、次回はいよいよ男爵家の“令嬢”が登場します。

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最強艦で一方的に勝ってたのに降伏って流れがよくわからなかったです 戦うなら勝ってる勢いで押してイケイケどんどん交渉って手もあったような バリア的なのあるなら耐えて通信や拡声機とかで対話も出来るでしょ…
ドアを開けて外に出た瞬間に撃たれるかどうか分からないのに降伏するのは合理的ではないように思える。
機体、艦など呼び方は統一したほうがいい
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