表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/65

第26話『神性の侵攻と自由の契約』

 アステロニアの空が、黄金に染まった。


 帝国の艦艇が築いた警戒網をあざ笑うかのように、神殿を模した巨大艦──セラフィエル聖制帝国の“天語機アルミエル・スヴァリエ”が、静かに降下してくる。


 動力波が空気を圧縮し、熱が発生しないはずの高度でも、皮膚がじりじりと焼ける感覚に包まれる。


 その圧は、“艦”ではなく“信仰”の存在感だった。


 ──神の顕現。


「ナビス、セラフィエル艦の武装状態は?」

《主砲・副砲ともに非稼働。聖域拡張フィールドを展開中。強制干渉ではなく、“空間の書き換え”が目的のようです》


 俺は一歩前に出た。


 雲が割れ、光の柱が地上へと貫かれる。その中心から、3人の人物が降り立った。


 最前に立つのは、純白の法衣をまとった長身の青年。

 中性的な顔立ちに金の瞳、薄く微笑みを浮かべるその姿は、美しさよりも“無垢”という言葉が似合う。


「我が名はルフェリウス・メイル・セラフィエル──この銀河において、神の声を代弁する者である」


 その視線が、まっすぐに俺を射抜いた。


「天城朔夜。貴殿は“神の器”であり、アステロニアは聖性の地として認定された。我らは貴殿の保護を行使する」


「……保護、ね」


 リィナが俺の隣で言う。


「神託に基づいて帝国領へ侵入することを、セラフィエルは外交的に正当化できると?」


 ルフェリウスは視線すら動かさず、答えた。


「この星は、すでに神のもの。人の法など通じぬ」


 まるで決まりきった祈りの詠唱のように、迷いがない。


「あなたたちの神は、俺の“意志”をどう扱うつもりだ」


「神の器に意志は不要。ただ、神の声を伝え、神の力を導くための“通路”であればよい」


 俺は唇を噛んだ。


 そのとき、


「──話が通じているようで、まったく通じていませんね」


 トレイス・ヴァッカの姿が背後から現れた。彼の態度はいつも通り優雅だが、その声には微かな鋼が含まれていた。


「私は宙商族連合“星廻りの道”、外交交渉代表として、天城朔夜氏への干渉に抗議します」


「商人風情が神の計画に口を出すな」


 ルフェリウスの声が淡く冷たい。


「“神の器”は我らの導きに従うべきであり、その周囲で踊る者はすべて“外敵”と見なす」


「なるほど。ならば私たちは、“外敵”であるという立場を明確にしましょう」


 トレイスが懐から、金属の契約符を取り出す。


「朔夜氏。これは“中立交易領主”契約の証書です。銀河商業法第21条により、あなたの星系は中立圏として登録される──」


「それを使えば、帝国にも宗教にも属さずに済む。だが、それは同時に“味方”も失うことになる」


 リィナがぽつりと呟く。


 俺は──沈黙の中でその金属符を見つめた。


 そして、決めた。


「俺は誰の器にもならない。俺は“俺自身”として、この星を守る」


 俺は契約符を受け取り、ナビスが即座に認証を走らせた。


《確認:中立交易領主“天城朔夜”の仮登録を完了。帝国・連合・セラフィエルに通知信号送信》


 ルフェリウスの目が静かに細められる。


「……ならば、神は貴殿を“試練”にかけるだろう」


「試練でも、戦争でも、上等だ。俺は俺の旗の下で、生きる」


 その言葉を最後に、神官兵たちは光の柱とともに再上昇していった。


 空には、帝国の艦、セラフィエルの天語機、連合の艦が三方向に睨み合っていた。


 けれど、その中心にあるこの星だけは、

 俺の意志で、動き出した。

《ログ:読了ありがとうございます》


感想やブックマークは、物語の“銀河航路”を確定させる大切な観測点です。

あなたの感じたことが、次の物語の推進力になります──ぜひ一言でも届けてください。


また、更新情報や制作の裏話はX(@hiragiyomi)でも発信中です。

フォローしてもらえると、ナビスも喜びます。


《次回座標、設定中……》

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ