第24話『記録庫と〈原初言語〉』
もうすぐゴールデンウィークだ...
がんばれ私...
帝国使節団の上陸から数時間。
俺たちはふたたび遺構内部に戻り、地下第2層にあるとされた“記録庫”へと向かっていた。
同行者には、新たにセルジュ書記官が加わり、さらに──
「ようこそ、“記憶の棺”へ。君たちにこそ、ふさわしいと考えていた」
先に探索していたというアスファ・グリーダが再び合流した。相変わらず整ってはいるが乱れた髪と、癖のある喋り方。そして、彼の目は、記録庫を前にして明らかに興奮で輝いていた。
「……ここに、何がある?」
問いかけに、アスファは指を鳴らす。
その瞬間、壁一面に文様が浮かび上がった。
幾重にも重なる曲線と、幾何学的な文型。それらが静かに発光し、空中に淡く輝く文字列を構築する。
《言語解析開始──未知構文。類似構造:銀河標準古層語族/原初セラ典──》
「これは……?」
ナビスが答える。
《原初言語群。現在の銀河文明が構築される遥か以前、“意志によって世界を書き換える”ための言語体系です》
「意志によって……書き換える?」
《はい。いわゆる“魔力”も、“言語による世界操作”の一形式に過ぎません。だが原初言語は、その根源であり、宇宙構造そのものを再定義できる力を持ちます》
空気が張りつめた。
言葉で、世界を変える──そんなことが、本当に?
「信じ難いなら、見せてやるよ」
アスファがそう言い、壁の一部に指を触れる。
すると、周囲の壁が機械的な音を立てて開き、内部から立方体状の端末が浮かび上がった。
「これは、“記憶端末”。この遺構で使用されていた原初インターフェースの一種だ」
アスファは自信満々に言う。
「これを起動させるには、主権者コード──お前のコードが必要らしい。つまり、君しかアクセスできない」
俺はナビスと視線を交わす。
《警告はありません。接続は可能です。……ただし、起動後の情報は“精神干渉”を伴う可能性が高い》
「つまり?」
《過去の“記憶そのもの”を、視覚・感覚・思考を含めて追体験させられる可能性があります》
危険な香りがした。
だが、俺は手を伸ばした。
次の瞬間、光が視界を覆う──
*
気がつくと、俺は見知らぬ景色の中にいた。
巨大な球状艦がいくつも並ぶ格納施設。白と青の制服に身を包んだ人々。そして、その中央で、誰かが演説している。
『……神格艦《アヴァロ=ラナ》。これを起動させうる者こそ、我らが“星界主”に他ならぬ』
その声は、明らかに俺の声ではなかった。
誰かの記憶──まるで“自分が彼だったかのような感覚”。
『星界の鍵はすでに揃った。残るはひとつ──最終言語《レクタ=エル》の解放』
周囲の空気が震え、空間が歪む。兵士たちが、ひとりひとり、膝をついた。
『我らは神を持たぬ。だが、神をつくることはできる』
視界が、割れた。
*
現実に戻る。
俺は膝をついて、肩で息をしていた。
「朔夜っ……!」
リィナが駆け寄り、肩を支える。全身が火照っていた。
「……大丈夫。……見たんだ。過去の……誰かの記憶」
アスファが呟く。
「やはり……この遺構、いやこの星系そのものが、“造られた神の実験場”だったというのか……」
セルジュが一歩前に出る。
「確認させてもらいたい。今、何を見た? 君が見た記録は、帝国にとっても非常に重要だ」
「……全て話すつもりはない。だが、ひとつ確かに言えることがある」
俺は立ち上がり、空間を見上げた。
「この星は、“ただの男爵領”ではない。ここには、“宇宙そのものの構造を握る技術”が眠っている」
沈黙。
だがその時、ナビスが警告を発する。
《外部宙域より未登録艦影接近。所属不明、推定出力──帝国戦艦クラス。識別信号、宙商族連合マーキング確認》
「……宙商族? このタイミングで?」
セルジュが静かに言った。
「情報が漏れた。……彼らは商人であると同時に、“情報と技術の収集者”だ」
アスファが口を開く。
「……となると、あれか。“レリックハンター”ってやつだな」
ナビスが続ける。
《交渉信号あり。“レリック管理者にしてアストラ・ヴェールの操艦者へ面会を希望”》
新たな訪問者。
それは、帝国でも宗教国家でもない、“第三の目”を持つ存在。
この星が、ついに銀河全域に注目され始めた瞬間だった。
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《次回座標、設定中……》