第22話『第一調査任務:アステロニア星系』
星図に刻まれた未踏の座標──アステロニア星系。
俺が新たに領地として申請したこの宙域は、銀河中央から遠く離れた辺境、魔力異常地帯“レル・ヴォルカ断層”の外縁に接していた。
それは銀河でも有数の危険地帯だった。
だが同時に、未探査の惑星群が多く、複数の資源帯が予測される希少な星域でもある。
そこに、帝国は暫定的な男爵領の可能性を示唆した。
「ナビス。偵察機《イクリス-3》の状況は?」
《進入角度調整完了。現在、第一惑星“アステロニア=ゼロ”の軌道上にて周回中》
「レーダー異常は?」
《魔力干渉値C+。周囲の重力歪曲値が平均より11.2%高く、地下活動反応あり。地表には人工構造物の痕跡──》
その報告に、リィナが画面越しに眉をひそめた。
「……人工構造物? こんな場所に?」
「帝国の前文明か……それとも、もっと古い何かだ」
映像が切り替わる。
鉛色の地表に、円形にくり抜かれた巨大なクレーター。
中心には、半ば埋もれた巨大な黒い柱が突き立っていた。
《分析中……構成物質:不明。魔力干渉に対する反応は“無”》
「……ズィロか?」
《可能性:高。ただし純度が高すぎる。天然由来とは思えません》
「人工的なズィロ。神罰の器どころの話じゃないな」
ズィロ──魔力そのものを打ち消す鉱石。
セラフィエルではそれを“神に背く遺物”とし、接触を禁じる宗教法がある。
そのズィロが、ここには埋もれている。しかも人工精製されたかのような純度で。
「帝国に報告する?」
リィナが尋ねた。
「いや。まだ早い。連中の“査察団”が来る前に、俺たちの目で確かめる」
その時、ナビスの警報が鳴る。
《アステロニア=ゼロ地表にて、未知構造体からの微弱なパルス検出。波形:古代通信プロトコル──》
「通信……?」
《いいえ。これは“呼びかけ”です。認証信号を伴う一方向性波動》
「誰に向けて?」
《……“神格艦船コード:Astra-Ver.”──》
全身に戦慄が走った。
俺の艦、アストラ・ヴェールのコードが──古代の構造体に、既に登録されている?
だがそんなはずはない。
この艦は地球のゲーム内に存在した“俺だけの専用機”だ。
なのに、なぜ……?
「出るぞ。直接見てくる」
「同行します」
リィナが迷いなく応じた。
*
着陸船はゆっくりと地表に降りる。
装備を整え、俺とリィナは灰色の地に足を下ろした。
風はない。ただ、鉱石の振動音のような低い共鳴が空気を伝って響いていた。
クレーターの縁に立つ。
その底に眠る柱は、ズィロよりさらに黒く、光すら飲み込むように不気味だった。
「ここから先は、魔力が通じません」
リィナが言い、手にしていた魔力探知機が沈黙した。
ズィロの圏内。魔法も結界も、全てが意味を失う場所。
だが、柱の根元に設けられた小さな台座。
そこには、金属製のリング状端末が置かれていた。
「……これ、何かに似てる」
「何か?」
「地球の……昔のゲーム機みたいな。セーブ端末の形状だ」
手に取る。
すると、空間に淡く青い光の文字列が浮かび上がった。
> “認証完了──個体認識コード:天城朔夜。アクセス権限レベル:主権者”
ナビスが言葉を失う。
《朔夜様、これは──銀河文明全体で失われた“主権コード”……》
何かが始まる──そう、肌が告げていた。
読んでくださりありがとうございました!
ついに調査任務が始まりました。アステロニア星系、そして“主権コード”──物語はまた一段と深くなってきました。
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