第21話『銀河に潜む祈りと敵意』
ナビスの報告によれば、セラフィエル聖制帝国からの“神託使”による接触は、
すでに帝国および第三貴族連合の外交ルートにも情報として流れていた。
翌朝、カレルス星環の連絡ステーションには、二通の書状が同時に届いていた。
一通は帝国本庁より。
一通は第三貴族連合議会から。
そのどちらも、内容はほぼ同一だった。
《昨夜の訪問者について、貴殿の安全と外交的立場の確認を求める》
《セラフィエル聖制帝国による非公式接触は、銀河外交秩序を揺るがす事態である》
俺はそれらを読み終え、リィナに渡した。
「……どこも、情報を“共有”しただけで、助ける気はないってことか」
「逆に言えば、“どこもまだ動けない”とも取れます」
ナビスが補足する。
《セラフィエルは銀河外交において公式な関係を持たず、“聖域”として自治と不可侵を保ってきました。今回の非公式接触は、その秩序の外からの“圧”と見るべきです》
「つまり……“神の声”という名前で、銀河法の外から俺に圧をかけてきたってことか」
俺は苦笑した。
戦艦で戦う相手ではない。だが、明確に“敵意”は示された。
*
その日の午後。
イレーナが個人的に連絡を寄越してきた。
《会いたい。できれば、正式な席ではなく、私的に》
場所は、カレルス星環の市民区にある小さな園庭だった。
中立星の空気の中に、ゆるやかな花の香りが漂っていた。
「私の知る限り、セラフィエルが“神託使”を表に出すのは、ここ三十年で初めてよ」
ベンチに座ったイレーナは、いつになく真剣な目で俺を見ていた。
「あなたを脅すためじゃない。彼らは“啓示を確かめる”ために動いたの」
「啓示?」
「そう。“神の名を騙る存在が銀河に現れる”──それが数年前から、一部の巫女の間で語られていた預言」
「……俺がそれに該当する、ってわけか」
「あなたが“偽りの神”なのか、それとも“本物の奇跡”なのか──セラフィエルは、まだ判断を下していない。でも、少なくとも“選別”の対象には入った」
俺は静かに息を吐いた。
「それで、あなたはどう思ってる?」
イレーナは少し笑って、立ち上がる。
「私は──あなたが何者であっても、“自分の意志で選んでくれる”限り、信じるわ」
それは、どんな支援よりも重たい言葉だった。
*
アストラ・ヴェールに戻った俺は、ひとつの決断を下していた。
「ナビス、俺たちの領地候補。あの“アステロニア星系”に、調査艦を出してくれ」
《了解。周辺航路の再確認とスキャンを開始します》
「誰かに守られるんじゃなく、自分の地を、自分の手で築く。そのために、まずは……旗を立てる場所を決めなきゃならない」
宗教国家の視線。
帝国と連合の静かな圧力。
だが、俺は今ようやく、この銀河に“自分の始まり”を選ぶところまで来たのだ。
それは、誰にも預けない意志の証。
俺は──俺の旗を掲げる。
読んでくださりありがとうございました!
この物語を楽しんでいただけたなら、
「お気に入り登録」「ブックマーク」「感想」などで応援していただけると励みになります。
X(旧Twitter)では、更新情報やちょっとした裏話なども投稿しています。
▶ @hiragiyomi
引き続き『宇宙艦で異世界に転移したら、俺の愛機が神機扱いされてる件』をよろしくお願いします!