第19話『開かれた交渉の扉』
翌朝、カレルス星環の東側に位置する外交会館にて、俺は新たな会談の席へと臨んでいた。
招いたのは、第三貴族連合の使節団。そして、招かれたのは俺──臨時男爵アマギ・サクヤ。
長円形の透明テーブルを挟み、会議室には十名近くの人物が着席していた。彼らはいずれも、各地の辺境領主や特使たち。帝国とは一線を画す“自由連合圏”の代表だ。
イレーナ・フローヴェルは、その中央に立ち、銀灰のスーツに身を包んでいた。
「では、正式に始めましょう。これは“連合との未来”について語る場です。あなたが、銀河のどこに旗を立てるのか──その意思を聞かせてください」
柔らかいが逃げ場のない視線。俺は短く息を吐き、立ち上がる。
「……俺はまだ、自分の旗を誰かに預けるつもりはない。ただ、俺が築く星があって、その星を守るために共に立つ者がいるなら──その時は、手を取り合える相手を探したい」
数人が頷いた。だが、静かに不満を顔に出す者もいた。
「曖昧ですね。つまり、“様子見”ということでしょうか?」
声の主は、オルネス星域の代表者、カリス=ヴェンツェ子爵。彼は書類をめくりながら皮肉交じりに言う。
「我々は、あなたの力を“信じたい”のです。あの艦がただの兵器でないことを、信じたい。だが、それにはあなた自身の覚悟が必要だ」
「覚悟、か……」
俺はふと、リィナの視線を感じた。彼女は何も言わず、ただ、静かに頷いていた。
「俺の艦は、アストラ・ヴェールは、地球という星で開発され、数百の戦闘と護衛任務をこなした。だがそれ以上に、人を運び、人を救ってきた。その“目的”を否定するような戦いなら、俺は誰とも組まない」
静寂。
だが、次に立ち上がったのは意外な人物だった。帝都から来た監査官──ノルティス・レーン。
「アマギ男爵。帝国もまた、あなたの意志を“注視”しています。だからこそ、我々はあなたに対して提案を持ってきました」
「帝国が、俺に?」
彼は一枚のパネルを提示する。
《帝都議会案──辺境共同開発区画設立計画》
「帝国法下で独立した自治領を設ける。この提案により、あなたは“中立域”としての正当性を得ることができる。連合とも、帝国とも、一線を引いたままで」
空気がざわめいた。
イレーナが一歩前に出る。
「つまり、帝国は“彼を囲い込む”のではなく、“彼の手綱を逃がす”ことで懐柔しようとしている。違うかしら?」
「あなたの解釈は自由です。だが事実として──我々は戦争を望んでいない」
その言葉に、場の空気が沈黙する。
俺は、両方の視線を受け止めながら言った。
「どちらの提案も、今すぐには答えられない。だが俺は、俺の星を築く。そこに必要なのは、強さでも忠誠でもなく、“意志”だ。その意志を分かち合える相手がいれば、いつか──その時には、答えを出す」
それが、俺の今の限界。
けれど、銀河のどこかで、誰かがそれを聞いていたはずだ。
*
会談後、部屋を出るとリィナが隣に立っていた。
「上出来です。……けれど、これで“誰もがあなたを狙う理由”ができましたね」
「ま、望んだ道だ」
遠く、星環の外縁で信号灯がまたたく。そこに、誰かがいる。
敵か、味方か──それすら分からない。けれど、交渉の扉は、確かに開かれたのだった。
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引き続き『宇宙艦で異世界に転移したら、俺の愛機が神機扱いされてる件』をよろしくお願いします!