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第14話『仮面貴族の救助と静かな銀河』

 アリヴェス星の夜は、帝都よりはるかに暗い。

 都市光の少なさが、空を深く染め上げ、銀河のうねりをはっきりと見せてくれる。

 空気は冷たく乾き、艦の外装をなぞる風がかすかに金属を鳴らしていた。


 その晩、アストラ・ヴェールの通信端末に一本の救難信号が届いた。

 発信源はアリヴェスから小型艇で二時間圏内に位置する小惑星帯。惑星間航行中の小型艦が、海賊らしき存在に襲撃され、SOSを発信したという。


《コマンダー。信号発信元は帝国準貴族“サリディス家”に登録された旅客艇です。乗員は五名、うち一名は爵位保有者の可能性があります》


「帝国の貴族か……。今の俺が動いたら、また政治的に絡まれかねないな」


《ただし、現在アリヴェス管轄区域内に緊急対応可能な軍艦は存在しません。対応しなければ、おそらく彼らは……》


 ナビスの声がわずかに沈む。


「……救出に向かう。最短コースで接近し、非武装証明を取った上で収容する。状況によっては最小限の牽制射撃まで」


《了解。救出作戦を“シグナス作戦”として開始します》



 航行は滑らかだった。

 アストラ・ヴェールの機体は、本来であれば戦闘級の宙域対応戦艦──あまりに高性能なため、ナビスの干渉がなければ即座に帝国軍に奪われていただろう。


 小惑星帯に入った瞬間、空間に小さなゆらぎが走る。

 ナビスが即座に警告を発した。


《空間干渉を検出。重力トラップに類似。発信源は三点。海賊、あるいは民間偽装傭兵団と推定されます》


「奴らの動きは?」


《救難艇に向けて牽引ビームを放っています。貨物搬送の意図あり》


「先に動く」


 朔夜は即座に艦を旋回させ、レーザー砲台を三点照準。

 射出。


 轟音もなく、光が閃き、小惑星を跳ねた爆煙が襲撃艇の一つを飲み込んだ。

 他の二機は即座に退避行動に移るが、すでに遅い。

 アストラ・ヴェールの動きは惑星国家の常識を超えていた。


「警告。帝国籍旅客艇に対する攻撃を中止し、即座に撤退せよ」


 ナビスの拡声メッセージが宙域に響き、襲撃者たちは散り散りに退散していった。



 救難艇のハッチが開き、乗員が救助された。

 リィナの補佐と帝国側の衛生班が対応する中、貴族らしい若い男がゆっくりと姿を現した。

 仮面をつけていた。貴族階級に特有の、身元保護のための装飾だった。


「……お助けいただき、感謝の言葉もございません。朔夜・アマギ殿とお見受けする」


 穏やかな声。だがその背後には、慎重さと計算がにじんでいた。


「私はセルディオ・サリディス。帝都南方、セフィリア星系準男爵家の次男です」


 貴族らしい立ち振る舞い。

 そして、その場にいた帝国官吏がざわついた。


 このサリディス家、表向きには目立たないが、実は第三貴族連合と深い縁を持つ家門だった。


「このご恩、決して忘れません。……そして、個人的な興味として、後日あなたにお会いしたく存じます」


 そう言い残し、彼は仮面を直しながら再び艦内へと戻っていった。


 リィナが小声で言った。


「厄介な相手、ですね」


「でも……こういう“恩”は、いずれ道を作ることもある」


 救助が完了し、アストラ・ヴェールは静かに元の軌道へ戻っていった。

 救助任務の裏側で、また一つ、この銀河に新たな“縁”が生まれていた。



最後まで読んでいただきありがとうございます!


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