第10話『封印記憶と禁書の回廊』
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翌朝。
ユリシアとの再会が頭から離れなかった。
記憶の揺れ。感情の高鳴り。ナビスの報告した“空白領域の活性”。
そして、彼女の言葉──「もうすぐです」。
俺はその“すぐ”が何を意味するのか、理解したい衝動に駆られていた。
*
要塞都市中央区、帝国調査局の地下三階。
そこには、“禁書庫”と呼ばれる機密資料の保管室が存在する。
表向きは古文書や研究記録の保存施設だが、実際は帝国が封印した魔力災害、異星因子、そして未公開の実験記録が収められていた。
「ここまで案内するのは、本来ならばあり得ません。ですが、あなたの存在が既に貴族会議に影響を及ぼしている以上、例外も許容されると判断しました」
案内を務めたのは、調査局の中級官アリステアという女性研究官だった。
軍服ではなく、深緑の研究ローブをまとい、額には魔力干渉用の補助装置を埋め込んでいる。
「“ユリシア”という名前の記録を調べたい」
俺の言葉に、アリステアは数秒の沈黙ののち、端末を操作した。
「個人記録としては照合されませんでした。ただし──“ユリシア計画”という廃止済みプロジェクトが存在します」
俺はその記録の閲覧を求めた。しばらくして出てきたのは、記録水晶と紙媒体の報告書。
どちらも黄ばんでおり、あきらかに長年放置されていたものだった。
水晶を魔導台座に乗せると、淡い光と共に古い映像が再生される。
実験室。隔離された部屋。
白衣を着た研究者たち。その中央には、あの白銀の髪を持つ少女がいた。
「……ユリシア」
間違いなかった。俺が出会った少女と、映像に映る少女は同一人物だ。
《記録注釈:第七次実験時、被験体ユリシアにおいて“記憶封鎖型共鳴現象”を確認。以後、追跡不能》
その文面に、思わず手が震えた。
「彼女は……実験体だったのか?」
「はい。異星由来因子を持つ個体の“観測定着”実験。
それがユリシア計画の目的です。ですが、実験は数年で打ち切られ、彼女の存在も以降は記録から消えました」
「でも、彼女は生きている」
「それこそが問題なのです。理論上、あの魔力融合に耐えた個体は“人類ではない”という判断になっていました」
ユリシアは、“人間”としての存在を否定された。
それが彼女の過去──封印の始まりだったのだ。
*
夜。俺は再びユリシアのもとを訪れた。
旧市街の瓦礫地帯。人気のない広場。
彼女はそこにいた。
月光の下で、静かに佇む姿は、まるで彫刻のように美しかった。
「ユリシア」
俺が名を呼ぶと、彼女はゆっくりと振り向いた。
「来てくれると思ってた」
「思い出した。少しだけ。でも……確かに、君と会ってた」
「ええ。それで充分。最初の扉が開いたんです」
「君は……俺の何だったんだ?」
その問いに、彼女は少しだけ微笑んで答えた。
「私は、あなたの“記憶に帰る場所”。
あなたが誰にもなれなかったとき、誰よりもあなたを知っていた存在」
その言葉に、胸の奥が強く締め付けられた。
たしかに、どこかでそう感じていた。
地球にいた頃、孤独だったあの空白の時間に──俺は彼女と、繋がっていた。
ふと、ナビスの声が耳に入った。
《コマンダー。帝都より高速艦、五分以内に到達予定。視察団に加え、第三貴族連合の使節が同乗しています》
「来たか……」
空を見上げると、夜空に五つの光が縦に並びながら降下していた。
帝国は、俺に“決断”を迫りに来る。
「ユリシア。これからどうなるんだ?」
「あなたが選ぶの。世界に従うか、逆らうか。それとも──変えるか」
その言葉に、俺は息をのんだ。
彼女の瞳は静かだったが、そこには確かな意志が宿っていた。
「私は、あなたの盾にも刃にもなれる。
でも……それは、あなたが“記憶をすべて取り戻したとき”だけ」
記憶。
それが鍵だ。
ユリシアは、ただの少女でも、被験体でもない。
俺とこの世界を繋ぐ“証明”だった。
「わかった。なら、全部取り戻す。俺の意思で、俺の足で」
夜風が吹く。
高空には、帝都の艦艇が光を落としながら近づいていた。
その光が、俺たちの足元を照らしていた。
──ここからが、本当の“始まり”だ。
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