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第10話『封印記憶と禁書の回廊』

初めて評価もいただきとても嬉しいです。

ありがとうございます♪


 翌朝。

 ユリシアとの再会が頭から離れなかった。

 記憶の揺れ。感情の高鳴り。ナビスの報告した“空白領域の活性”。

 そして、彼女の言葉──「もうすぐです」。


 俺はその“すぐ”が何を意味するのか、理解したい衝動に駆られていた。



 要塞都市中央区、帝国調査局の地下三階。

 そこには、“禁書庫”と呼ばれる機密資料の保管室が存在する。

 表向きは古文書や研究記録の保存施設だが、実際は帝国が封印した魔力災害、異星因子、そして未公開の実験記録が収められていた。


「ここまで案内するのは、本来ならばあり得ません。ですが、あなたの存在が既に貴族会議に影響を及ぼしている以上、例外も許容されると判断しました」


 案内を務めたのは、調査局の中級官アリステアという女性研究官だった。

 軍服ではなく、深緑の研究ローブをまとい、額には魔力干渉用の補助装置を埋め込んでいる。


「“ユリシア”という名前の記録を調べたい」


 俺の言葉に、アリステアは数秒の沈黙ののち、端末を操作した。


「個人記録としては照合されませんでした。ただし──“ユリシア計画”という廃止済みプロジェクトが存在します」


 俺はその記録の閲覧を求めた。しばらくして出てきたのは、記録水晶と紙媒体の報告書。

 どちらも黄ばんでおり、あきらかに長年放置されていたものだった。


 水晶を魔導台座に乗せると、淡い光と共に古い映像が再生される。


 実験室。隔離された部屋。

 白衣を着た研究者たち。その中央には、あの白銀の髪を持つ少女がいた。


「……ユリシア」


 間違いなかった。俺が出会った少女と、映像に映る少女は同一人物だ。


《記録注釈:第七次実験時、被験体ユリシアにおいて“記憶封鎖型共鳴現象”を確認。以後、追跡不能》


 その文面に、思わず手が震えた。


「彼女は……実験体だったのか?」


「はい。異星由来因子を持つ個体の“観測定着”実験。

 それがユリシア計画の目的です。ですが、実験は数年で打ち切られ、彼女の存在も以降は記録から消えました」


「でも、彼女は生きている」


「それこそが問題なのです。理論上、あの魔力融合に耐えた個体は“人類ではない”という判断になっていました」


 ユリシアは、“人間”としての存在を否定された。

 それが彼女の過去──封印の始まりだったのだ。



 夜。俺は再びユリシアのもとを訪れた。

 旧市街の瓦礫地帯。人気のない広場。


 彼女はそこにいた。

 月光の下で、静かに佇む姿は、まるで彫刻のように美しかった。


「ユリシア」


 俺が名を呼ぶと、彼女はゆっくりと振り向いた。


「来てくれると思ってた」


「思い出した。少しだけ。でも……確かに、君と会ってた」


「ええ。それで充分。最初の扉が開いたんです」


「君は……俺の何だったんだ?」


 その問いに、彼女は少しだけ微笑んで答えた。


「私は、あなたの“記憶に帰る場所”。

 あなたが誰にもなれなかったとき、誰よりもあなたを知っていた存在」


 その言葉に、胸の奥が強く締め付けられた。

 たしかに、どこかでそう感じていた。

 地球にいた頃、孤独だったあの空白の時間に──俺は彼女と、繋がっていた。


 ふと、ナビスの声が耳に入った。


《コマンダー。帝都より高速艦、五分以内に到達予定。視察団に加え、第三貴族連合の使節が同乗しています》


「来たか……」


 空を見上げると、夜空に五つの光が縦に並びながら降下していた。

 帝国は、俺に“決断”を迫りに来る。


「ユリシア。これからどうなるんだ?」


「あなたが選ぶの。世界に従うか、逆らうか。それとも──変えるか」


 その言葉に、俺は息をのんだ。

 彼女の瞳は静かだったが、そこには確かな意志が宿っていた。


「私は、あなたの盾にも刃にもなれる。

 でも……それは、あなたが“記憶をすべて取り戻したとき”だけ」


 記憶。

 それが鍵だ。

 ユリシアは、ただの少女でも、被験体でもない。

 俺とこの世界を繋ぐ“証明”だった。


「わかった。なら、全部取り戻す。俺の意思で、俺の足で」


 夜風が吹く。

 高空には、帝都の艦艇が光を落としながら近づいていた。

 その光が、俺たちの足元を照らしていた。


 ──ここからが、本当の“始まり”だ。


最後まで読んでいただきありがとうございます!

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