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第9話『記憶の狭間で視線が交わるとき』


 翌日。

 騎士試練の記録映像が帝都へ送信されたことで、朔夜の“存在”は本格的に帝国中枢に共有されることとなった。


 その影響か、アリヴェスの空気が一気に張り詰める。

 警備強化。通達の増加。物資搬入の見直し──すべては一人の異星者と一隻の艦のために。


「朔夜さん、帝都からの視察が予定より前倒しになるかもしれません」


 リィナは、いつにも増して書類と魔力報告端末に追われていた。

 その手は器用に動いていたが、指先は微かに震えていた。


「そんなにやばい?」


「ええ。貴族会議が“戦略的価値を持つ個体”という言い回しを使い始めた時点で……もう、単なる観測対象ではないんです」


 まるで、生物兵器のような扱い。

 俺は言葉を失いながらも、その現実を否応なく飲み込まされる。


 だが、俺はその前に確かめなければならないことがあった。



 アストラ・ヴェールの中枢制御室。

 ナビスに命じ、前日の試験場での録画映像を再生する。


 ──映っていた。


 訓練場、第三試験時。

 格納席の陰、わずかな隙間。

 少女。


 やはりあの目は“偶然”じゃなかった。


《該当人物の顔面解析完了。記録照合結果:該当なし。

 ただし、あなたの脳内記憶領域において、以下の異常反応が検出されています》


「異常反応……まだ言うか」


《はい。先ほども報告した通り、彼女を見るたびに記憶領域“第4区”が僅かに活性化します。

 これは通常、強い感情刺激によるものと考えられます》


「つまり……俺は、彼女を“忘れてる”ってことか?」


《あるいは、“忘れさせられている”可能性もあります》


 その言葉に、背筋が冷えた。

 誰が、なぜ、そんなことを──?

 そもそも、そんな芸当が可能なのか。


 ナビスによれば、魔力干渉による記憶封印は理論上可能だという。

 特定の記憶領域を対象に、魔力結晶を通じて“感情と連動した封鎖”を行う。

 つまり、その記憶に対して強い感情を抱いた瞬間だけ、封印が揺らぐ。


 あの少女──ユリシア。

 彼女を見た瞬間に心が動いたからこそ、封印がきしんだ。


 何がそこに隠されているのか。



 その夜。

 再び都市に出た。

 目的はひとつ。あの少女を探すためだ。


 艦のセンサーでは感知できなかった彼女の熱源。

 つまり、ナビスでも追跡できない特殊な遮蔽手段を持っている。

 ただの市民とは思えなかった。


 灯りが少なくなった旧市街へ。

 石畳の路地裏を進む。

 ひと気はないが、監視兵もいない。

 帝国の統治が行き届いていない“裏通り”。


 やがて、瓦礫に囲まれた広場へ出た。

 そこはかつて、旧魔導研究所があった場所だという。

 今では立入禁止区域に指定されている。


 ──そこに、気配。


 気づけば、彼女は目の前に立っていた。


 フードを深く被り、だが顔は見せている。

 昨日と同じ──いや、もっと強く、まっすぐに、俺を見ていた。


「天城朔夜」


 その声は、どこか懐かしかった。

 その響きに、心がかすかに震える。


「……俺の名前を、知ってるのか?」


「もちろん。あなたは……“呼ばれた”人間だから」


 少女の目が、わずかに揺れた。

 だがその声音は、確信に満ちていた。


「覚えてないんですね。私のこと」


「……すまない。どうしても、思い出せない」


「大丈夫。今はまだ、その時じゃない。でも……もうすぐです」


 風が吹く。

 ユリシアと名乗った少女のフードが揺れ、白銀の髪が覗く。

 その色に、見覚えがあった。


「……君は、誰なんだ?」


 その問いに、彼女は少しだけ沈黙し、答えた。


「私は“ユリシア”。

 あなたと同じ──いや、もっと深く、あなたに関わる存在」


 その言葉が何を意味するのか、すぐには理解できなかった。

 だが、ユリシア──彼女の名を聞いた瞬間、

 俺の中で何かが、ゆっくりと動き始めるのを感じた。


 記憶の底に眠っていた“何か”が、目を覚まそうとしている。

 感覚、映像、名前、想い。

 それは、渦のように重なり合いながら、まだ“核心”に届かない。


 だが、確かに言える。


 ──やはり、彼女は“再会”だったのだ。



最後まで読んでいただきありがとうございます!

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