第十八話 近づいてくる悪魔
一つの部屋に男子一人と女子が一人向かい合って座っていた。その男子の名は戌亥涼介と言った。女子の名は黄咲アンナと言った。そして二人がいるのは戌亥の部屋だった。何故こんな事になったのか?話は5日ほど前に遡る。色々あった体育祭が無事に終わり、その翌週の部活の事。3人の特性を把握し終えた後の朱子崎響子の一言によってそれまでの空気は一変してしまったのだ。その内容とは、
「あ、そう言やもうすぐ期末だがお前ら・・・ま、姫夜麻は大丈夫として、そこ二人。下手な点数取んなよ?」
だった。そして、見事に指名された「そこ二人」が本日、戌亥の部屋に集まって勉強会をしているのだった。勉強会はおよそ一時間前には始まっているのだが進展の見込みがなかった。戌亥は平均的であるため、教えると言ってもそこまで詳しく教えられず、アンナは何と絶望的だったのだ。かろうじて戌亥が教えてはいたがそれも限界に近い。そんな中、戌亥によって助っ人が召喚された。それは生徒会長、姫夜麻橙花・・・ではなく、クラス委員の「青柳 灰薇」だった。青柳灰薇は青柳財閥のご令嬢。プライドが高く、金遣いがとても荒いことで有名だが根は優しいことでも有名であったりもする。生成も良く、テストの順位は基本上位に君臨しており、学級委員の委員長も勤めている、橙花とは似て非なるタイプの才子なのだ。今回はその優しに漬け込・・・もとい、快く協力してもらったのだ。その際、プライドを刺激するのも忘れていなかった。と、言う訳でこの部屋。戌亥涼介の寝室に来てもらったのだった。
「まったく・・・この私をあんな物言いで呼び出したのですから、それ相応の対価が用意されているのでしょうね?戌亥涼介?」
「ハハハハハ・・・モチロンデスヨ、灰薇サマ・・・」
「言葉がカタコトになっていますわよ?」
そして始まる勉強会第二幕。先程とは打って変わって順調に進んだ。学年トップの成績を誇るためか、戌亥よりも説明がわかりやすく、戌亥までお世話になる始末だった。そしてあっという間に3時間後。丁度ひと段落ついたので昼食になった。作るのは戌亥、ではなくアンナである。最初は戌亥が作ろうとしたのだが、
「戌亥君?どうせカップ麺かインスタントなんでしょうが、灰薇さんにも食べてもらう以上下手な物は出せないよね?私が作るから」
と、言う鶴の一声によって現在、戌亥家のキッキンにはアンナが立って調理を行っていた。その一方、寝室では灰薇による一対一のスパルタ教室が行われていた。スパルタ教室によって戌亥の気が飛びそうになったころ、キッチンからのアンナの声により救われたのだった。そして昼食後。再び始まる灰薇のスパルタ教室。今度はアンナも巻き込まれている。ちなみに、アンナの手料理に対する灰薇の評価とは、
「あら、良い腕ですわね。貴女、私の専属料理人になりませんこと?」
だった。そうして勉強会も無事終わり、各自が帰宅準備をしていた頃、灰薇が口を開いた。
「そう言えば貴方達、最近生徒会長や朱子崎先生とやけに一緒にいますけど、何かしていらっしゃるんですの?」
二人の動きが一瞬止まった。目を泳がせてはいるものの、冷静な口調で答えた。
「い、いや別に?たまたま同じ部活に入っただけだし、先生も顧問になってくれたから、それで一緒にいるだけで・・・・・・」
「・・・・・・はぁ、わかったわ。そう言う事にしておきますわ。他人のしている事に口を出すのは良くない事ですものね」
なんとなく納得した様な様子を見せたので、二人は胸を撫で下ろしたところで解散となった。期末テストは、再来週から。