第十四話 現れた三人目
鎌首をもたげ、口を開いた蛇からは毒液が発射された。それは二人の足元に落ち、地面を溶かしていく。とても強力な酸性の毒だった。例えアンナの持つ旗であろうとも、触れれば溶かされ、跡形もなくなるであろう。そんな毒液が雨の様に襲ってくる。それも鋭い速度で襲ってくるのだ。さらに、その巨体も侮れない。押し潰されたら無論ひとたまりもないし、動いた時に掠ったとしても軽傷ではすまないだろう。二人の警戒を他所に、蛇が真っ先に狙われたのは戌亥であった。それは悪魔の魔力を全て貰った時に残った悪魔達の意思の現れだった。《アンドロマリウス》を妨害でき、自分達の知識が豊富な者はアンナや橙花ににも負けず劣らずの危険分子と判断されたのだ。蛇は襲いかかる。その強力な毒液が発射された。しかし、その毒液が戌亥を溶かす事はなかった。戌亥にはこの蛇がなんなのか分かる知識は終ぞ無かった。しかし、蛇に関する知識はあるのだ。大蛇の舌の動きと視線で自分が狙われているのを察知した戌亥は真っ先にその場を離脱していた。蛇は辺りを見回して戌亥を探すがどこにも見当たらない。ので、蛇は本来の仕事をかかった。それは二人の排除。蛇は勢いをつけて倒れかかる。いや、それは倒れかかると言うよりも頭を叩きつけると言った方が正しいだろう。強化される前でも校舎3階分あった頭が、5階分まで大きくなっているのだ。それほどの質量が重力に乗って凄まじい速度で迫ってくる。二人もこれをこれを受けてはならない事は理解している。未来を先読みしていたアンナは真っ先に動いた。その動きを見た橙花も動いた。それによって頭の直撃は避ける事ができた。頭が叩きつけられ、大地が揺れた。二人は揺さぶられながらなんとか作戦を考えていた。
「橙花先輩!アイツ魅了する事できませんか?!」
「すまない!何度も試しているんだが魅了にかかりそうない。蛇は魅了への抵抗がかなり高いらしくてな。さっきみたいに小さいのなら良かったが、ここまで大きい上に、悪魔の魔力まで持っているとすると、魅了にはかからないと見ていいだろう」
「と、言う事は・・・・・・魅了にかけずにただ普通に倒すしかない・・・て、事ですか・・・」
魅了にかからなかった以上、搦手で倒す事はできない。つまり正攻法、ただ普通に体力を削っていって倒すしかないのだ。だがこれほどの巨体なのでそう簡単には削れそうにない。即ち、強力な一撃を持って倒さなければならない。だが二人には必殺の威力足り得る攻撃がないのだ。二人は蛇の毒液とその体による攻撃を避けながら考えていた。必殺の攻撃を持たない自分たちが如何にこの蛇を倒すかを。しかしそう上手くいくことばかりではないのが人生である。着地した時に足元の石に躓き、よろけたアンナを目掛けて大口を開けて突っ込んで来た。残り15m。橙花は全速力で駆けた。剣を手に最短コースを走った。残り10m。戌亥は駆け出した。橙花よりもアンナに近い位置にいた戌亥は鋭く磨がれた石を持っていた。残り5m。アンナは目を閉じた。残り3m。蛇の息があたった。しかし、アンナは飲み込まれなかった。橙花と戌亥は驚いて立ち止まってしまった。アンナも驚いて目を開けるとそこには一人の人影が立っていた。左手を前へ出し、蛇の鼻を押さえ込んでいたのだ。蛇を見ると拘束具で口を縛られおり、なんとか開けようとしていたが、ものすごい力で抑えられているのだろう。全く開く気配がしなかった。その人影は右手を握り込み、大きく振りかぶった。
「てめぇ・・・ウチの大事な生徒に・・・・・・」
一歩踏み出し、右手が前へ出た。その拳は蛇の鼻を直撃させ、その巨体を20mばかり吹っ飛ばした。
「何しやがんだ!!!!!!!」
3人はその人影に見覚えがあった。その人影は真紅の衣服を纏っていた。どっちかと言うと男性が着るであろう正装の様な衣服だった。その人影の正体は、2年1組担任であり歴史研究部顧問の、朱子崎響子だった。