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第十一話


「3体ともソロモン72柱だな。序列72位の《アンドロマリウス》は伯爵だ。盗みを行うことも、盗まれた物を見つけることもできる。62位の《ヴォラク》は総統。蛇の現れる場所を示すと言う。54位の《ムルムル》は公爵であり伯爵だ。降霊術を使ってくるぞ」


戌亥の言葉を聞いて二人は前に出る。お互いに頷き、アンナは十字架を握りしめ、橙花は髪飾りに手を当てる。二人を光が覆っていく。


  「信託の乙女」      「傾城傾国」

  《オルレアン》      《国墜とし》


光が晴れ、二人の制服姿は消え、臨戦体制へと変わっていた。軽鎧に剣と旗を持つアンナと、髪を結い、金の簪でまとめ、橙のチャイナドレスを纏う橙花。二人の姿を見て、戌亥は数歩程下がる。その様子を見て、悪魔達はほくそ笑む。一瞬の静寂。最初に仕掛けたのは《ヴォラク》だった。手をかざし、地面から大量の毒蛇を呼び出した。続いて《ムルムル》が手をかざし、空から半透明の人間が現れる。それらは名もなき戦士達の亡霊、歴史に名を残さず散っていった者達の魂。まず、最初に襲ってきたのは亡霊達だった。馬に乗って駆け、剣を振り翳し、槍を持って突っ込んで来る。亡霊故に声こそは聞こえないがこれが生きているのならば大声を吼えながら向かってきているのだろう。最初に届いたのは馬に乗った騎士の亡霊だった。振り下ろされた剣をアンナは旗の柄で受け流し、返す手で旗を薙ぐ。旗の穂先は確かに亡霊を切り払った。が、手ごたえがない。見ると亡霊の体を通り抜けていた。


「な・・・え・・・!?」


困惑した一瞬の内に、剣を持った亡霊が襲った。首筋を狙った剣をかろうじて避ける。それでも避けきることはできず、首の皮を切られていた。


「コイツら、攻撃は実体があるのにこっちからの攻撃が通らない!」


と、橙花に叫ぶのと、橙花が駆け出したタイミングはほぼ同じだった。自身へ叫ばれた言葉を聞いたのと、今のを見ていた橙花は真っ先に《ムルムル》を狙いに行ったのだ。その足を阻む様に蛇達が動き出す。全ての蛇が橙花目掛けて突き進む。橙花と蛇との距離はみるみる短くなり、蛇達は飛びかかる。蛇達によって橙花が覆われる。事はなく、飛びかかった蛇達は橙花を襲わず、そのまま地面に着地した。蛇が飛びかかってくる時、蛇達の視線は橙花に集まる。その一瞬の内に全ての蛇を魅了したのだ。これを駆けながらやったのだから恐ろしいものである。駆けたまま止まらない橙花と《ムルムル》との距離が縮まっていく。


「ほぅ。この俺に向かってくるか。良い良い。戦いとはこうでなくてはな!」


己に対し向かって来るのを喜び、悪魔は動き出した。一歩、前に踏み出しと思われた瞬間、悪魔の姿は橙花の目の前に迫っていた。振り下ろされた槍を橙花は剣で受け止めた。その剣は先程、駆けてきている時には持っていなかった剣である。どこからか突然現れた剣に悪魔も驚くが、それも一瞬の事。すぐに次の攻撃を仕掛けてきた。悪魔は飛び下がり、突っ込んで来た。ただの突進ではない。それは空を滑る様に向かって来た。真っ直ぐ来る槍を剣の刃で受け、それを右へと流す。そのまま左足を軸に左回転し、悪魔の首、鎧と兜の隙間を狙って左手の剣が襲う。剣は悪魔の首を斬り落とす。事はなかった。橙花の左手から剣が消えたのだ。流石に驚いた、その一瞬に、槍が橙花を吹っ飛ばした。地面を跳ねて後ろへ飛ばされるも、何とか両足で着地する。よく見ると、《ムルムル》の背後、左側。手に大蛇を持っていた悪魔、《アンドロマリウス》の手には先程まで橙花が持っていた剣が握られていた。


「そういえば、戌亥君が言っていたな。『盗みを行うことができる』と。ようするに、私の剣を盗んだのか」


素直に納得した橙花は、再び《ムルムル》へ駆け出した。


「おぉい!《アンドロマリウス》!俺の戦いに余計な手を出すな!」


そう叫び、再び向かってくる橙花と打ち合い始めた。今の光景を後ろで見ていた戌亥は一つの疑問が浮かんでいた。


(なんであいつは姫夜麻先輩の剣を一つしか盗まなかったんだ?どうせ盗むなら二つとも盗めば良いのに・・・まさか・・・)


戌亥は足元に転がる石を拾い始め、ポケットに詰めていく。その動きを見ていた悪魔は気にしなかった。


(アイツは所詮ただの人間。何かできるわけでもない)


そう考えているからだ。悪魔と打ち合う橙花の後ろでは、アンナが亡霊達に囲まれていた。未来を見て、動きを最小限に抑えながらも、防戦に回っていた。《アンドロマリウス》は右手に持っていた橙花の剣を地面に突き立て、アンナへ向けて翳した。その掌には足元の紋様が刻まれていた。紋様が光る。亡霊の剣がアンナへ振り下ろされ、旗で受け止めようとしたアンナへ掌は向けられていた。掌よ輝きが強くなり、その手には、旗が握られ、剣がアンナを両断した。事はなかった。アンナは剣を側で受け止めていた。悪魔の手の中には大粒の石が握られていた。

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