第十話 体育祭
「えー、本日はお日柄も良く、晴天に恵まれ絶好の体育祭日和となりまして・・・」
と、言う言葉から始まって早10分。学校恒例の長い長い校長先生の挨拶に生徒一同参っていた。
「ふわぁぁっ・・・相変わらず校長は話長ーなー」
「校長先生の話が長いのって、何処も同じなのね。ちょっと安心できるかも」
足元の砂を蹴りながら戌亥とアンナは小声で会話していた。すでに至る所で小さな会話が始まっており、小声ではあるものの、大きな騒めきとなっていた。そして5分後。約15分にも及ぶ校長先生の挨拶が終わり、いよいよ種目へと移った。第一種目は、綱引き。合図と同時に一斉に綱を引き始める。それを自軍の観客席で眺めながら応援していると、後ろから声をかけられた。
「よぉ、お二人さん。相変わらず仲がよろしいようで何よりだ」
二人が振り返ると、そこには東軍の服を着ており、同じクラスの数少ない庶民仲間、一松栄太が立っており、麦茶の入ったペットボトルを差し出していた。二人はペットボトルを受け取りながら戌亥が面倒くさそうにあしらった。
「何だよ一松。東軍のお前が何でここに?て言うか、お前次の種目だろ?行かなくていいのか?」
「あぁ。まだ時間には余裕があるし、今は先生の手伝いで麦茶配りしてるところなんだ。ほれ」
そう言うと教師待機席を指差す。そこには朱子崎が座っており、生徒達に指示を出していた。ふと校庭に目をやると、すでに綱引きは決着がついていた。綱の中央の印は西軍側にあった。
「あら、西軍が勝ったわね。面子の体格的に負けるのかと思ったのだけれど」
「あれは力の使い方だな。東の連中は綱を力任せに引いてただけだったからな。それに比べて西軍はコツを上手く掴んでるな」
「・・・・・・お前、どっちの味方なんだ?」
綱引きのコツを話す一松を呆れた目で見ていた戌亥は腕時計を見る。時間的にもそろそろ次の種目が始まる時間だった。
「一松。お前早く行かないと怒られるぞ。次の監督鬼村だったろ」
「や、やべぇ!じゃ、じゃあな!そっちも頑張れよーー!!」
顔を真っ青にして集合ゲートへ走って行く。鬼村とは、本名を鬼村厳導と言い、寮優高校の体育教師であり、生徒指導担当。そのガタイの良さと顔の怖さ、そして性格の厳しさから、「獄卒鬼村」と呼ばれているほど、生徒達から恐れられている存在である。ちなみに、戌亥の出場する騎馬戦と、アンナの出場する応援合戦は午後の部である。さらに、学年別徒競走と組対抗全学年選抜リレーも午後の部であるため、歴史研究部の面々は絶賛暇を持て余しているのである。否、面々と言ったが、生徒会長である姫夜麻橙花だけは忙しく働いている。なので暇を持て余しているのは2年二人組だけなのだ。こうしてのんびり過ごして午前の部が終わった。昼食のために生徒達が校舎に戻る中、二人の元に橙花が駆け寄ってきた。
「二人ともお疲れ様。と言っても、二人は何もやってなかったがな」
「酷いですよ、橙花先輩。まぁ、否定はできないのですけれど・・・」
「全くだ。否定できないのが悲しいな。あ、そうそう。パン食い競争1発取りからの早食いして圧倒的一位おめでとうございます。もはや流石としか言いようがないっすね」
「まぁまぁ、そう褒めるな。さ、昼食の時間ぞ。腹が減っては戦はできぬ。しっかりと食べなければn・・・」
瞬間、周囲の音が消える。空は赤く染まり、校庭の中央には黒いモヤが出現していた。
「二人とも、これって・・・」
「はい。悪魔の現れる前触れ、悪魔達の結界の様なものですね」
「っ!あそこだ!」
戌亥の指さす場所には黒いモヤ。そこには紋様が浮かび上がっていた。それも一つではない。3つ。3つの紋様が浮かび上がっていた。モヤは形を帯び、実体と化していく。
左の紋様からは人影が現れる。手には大蛇を持っていた。
「私の名は《アンドロマリウス》」
右の紋様からは二つ首の竜に乗った天使の子供の姿をしていた。
「僕の名は《ヴォラク》」
真ん中の紋様からは鷲の上半身にライオンの体を持つ獣に跨った戦士の姿をしていた。
「俺の名は《ムルムル》」
三体の悪魔が自身の名を名乗り上げ、それぞれ構え、同時に叫んだ。
「貴女達の」
「二人の」
「貴様らの」
「「「命と能力、」」」
「いただきます」
「貰うよ」
「奪ってやろう」