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「あらマリア、水浴びしてたのね」


 水浴びを終えて部屋を出ると、同僚のナミアと出会した。ナミアは水の使い手で、川や海などの大きな流れから生活用水に至るまでの水の流れを操ることができる。その影響なのか、肌艶がいつも良い。食べているものは同じはずなのに自分の乾燥気味な肌と比べるとどうしても気になってしまうところだ。



「そっちは外回り終わり?」


「ええ、今日も特に異常はなかったわ。天気が荒れたりしない限り問題はないと思う」


「じゃあ大丈夫だね」



 王都の天候は、別の「聖女」が管理している。雲を散らして晴れにしたり、時には曇りや雨、雪を降らせると歓声が上がったりと、割と人気の能力だ。ナミアもそうだが、水に関わる「聖女」はとても血色が良い。朝起きた時にむくみなど気にしたことがないだろうな、と少し羨ましかったりもする。



「マリアは訓練場で?」


「うん、そう。土の性質を変える練習してたとこ。なんとか理想の範囲までいけそうかな〜って感じ」


「それはお疲れ様。貴女の力は強力だから、みんな楽ができるわ」


「そうかな」


「そうよ!自信持って!!」



 ナミアは迷いのない笑顔で背中を押してくれる。土いじりなんて地味な力、「聖女」らしくないと何度言われただろう。故郷では「聖女」と知るまでは畑の手伝いができると嬉しかったものだが、今となってはそんな気も起きない。

 それでも、ナミアを始め「聖女」のみんなは誰の能力も貶さないし受け入れてくれる。馴れ合いもあるだろうが、今はそれが心の支えにもなっている。



「今日のご飯、何かな?」


「もう晩御飯の話?まだ夕方にもなっていないわよ」


「それでは、軽い食事を用意いたします。マリアさまは相当のお力を使われましたから」


「ありがとう。よければナミアも一緒にどう?」


「あら、嬉しい。なら、私も何か用意してくるわね。後でテラスで会いましょう」



 食い意地があるわけではないが、重労働をすると食事まで体力がもたないことが多々ある。戦時中はそうも言ってられないが、こうした訓練の後は少しお腹を満たしたくなる。気の利く侍女のおかげで今日はおやつを食べることができそうだ。












「お待たせ」


「全然待ってないよ、こっちも今来たとこ」



 私の姿を見つけたナミアが小走りで寄ってくる。揺れる白髪は日に煌めき、白っぽい制服と相待って差し詰め天使が来たようだった。



「これ、一緒に飲みましょう?」



 そう言って差し出してくれたのは、ナミアの好きな紅茶だった。街へ視察に出たときに買ってきたらしい。

 ナミアの侍女が手際よくカップに注ぎ、あたりはたちまち暖かい空気に包まれた。このほっとするひとときが、何よりも癒しだ。



「じゃあ、サンドイッチ用意したから一緒に食べよう」



 メイの作るサンドイッチも絶品だ。疲れた体に染み渡る美味しさは自分が生きていることを実感させてくれる。3口くらいで食べられる大きさなのもまた良い。

 それぞれの皿に盛り付け、穏やかなアフタヌーンティーを楽しんだ。













「あ!なんか良い匂いすると思ったら!」


「お疲れ〜」


「なになに〜?」



 しばらくすると、他の「聖女」たちもそれぞれ仕事を終えてテラスへ集まってきた。年齢も出自も様々なので、ここでは特にあいさつの取り決めなどはない。全員が気軽に話しかけている。

 先に休憩をしていた私とナミアの周りには、時間が経つにつれ人が集まり、そのうちグループができて噂話や仕事の話などに花を咲かせていた。

 暑すぎない日差しの中で、仲間と気兼ねなく話し合う。外を見れば中庭に植えられた植物を見ることもできる。視力の良い人は城外のずっと遠くの景色まで見ることができるそうだ。

 話が一段落ついた私は、テラスの手すりから中庭の植物を眺めていた。能力柄、植物の成長には多少の覚えがある。少し元気のない葉や花を見ると土壌改良をせずにはいられない。大きく見回しながら、中庭の手入れをしていった。



「あら嫌だ、なんだか猿臭くありません?」


「本当、騒がしい声が聞こえると思ったら」



 そんな中、煩わしげな声を聞き逃さなかった。視線を植物から足元の方へ寄越すと、テラスの真下、先ほどアリアドネ王女に会った付近でこちらを見る2人の女性を見つけた。王女と同じく少し派手なドレスを見に纏い、口元を扇子で覆いヒソヒソとこちらに聞こえる声で話をしていた。



「こうなるから、特に平民出は入ってほしくなかったのよ。陛下もなぜ城内に入れてしまわれるのかしら」


「そうよ。どうせ勝手に死なないのだもの、外に適当な小屋でも作って差し上げたらよろしかったのに」


「いっそ、見世物小屋にして差し上げたら喜ぶのではなくて?」


「あら、それではあんまりよ」



 全員が口を閉ざすと2人の声がよく響いた。あちらだって私たちが聞いているのをわかって言っているのだ。これはお互い様だろう。



「ねぇスザンナ。今日ってこれから陛下への報告があったよね」


「そうね。あと半刻ほどかしら」



 スザンナは眼鏡を直し、手元の資料を見た。それを確認した私は更に問いを重ねた。



「今日はなんだか大事な話があるって聞いたけど、もしかして私たち、見世物小屋に移動になるってことなのかな」


「それは大変だわ。荷物をまとめなくちゃいけないじゃない」


「元々ない荷物だけど、陛下に言われちゃ仕方ないよね。だって、ザント財務大臣のご令嬢とマリトン外務大臣のご令嬢が言うことだもの。きっと間違いなんてないよね」


「そうね。陛下にしっかり確認を取らないといけないわね」



 スザンナが「しっかりと」を強調して言うと、下にいた2人はびくりと肩を震わせて足早に去っていった。私とスザンナはそれを見送ると、どちらともなく、ぷ、と息を漏らした。




「あははははは!!見た!?あれ!!」


「もー!マリアったら急に話を振るんだもの!焦ったじゃない!」


「後半刻で謁見だったら、こんなとこにいないってーの」


「ホントホント、これだからご令嬢ってのはからかいがいがあるのよねー!」



 後で見ていた全員が、手すりに寄って2人が去った後を見た。陰口はよくあることだが、私たちは誰も気にしていない。国王の召集に応えた者の集まりなので、それを否定すると言うことは国王を否定することになる。貴族風に言えばそう言うらしい。なのでより大きな権力をちらつかせれば小物はあっという間にいなくなってくれる。

 スカッとした気持ちになった私たちは、夕食までそれぞれの時間を過ごすため解散した。

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