7話 Wolf Pack: Start Hunting under the moon
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トンネルを抜けると地上だった。もうすっかり夜だ。そこには複数の線路が並んでいる。月の光とトラフィックフライのライトのおかげで線路が反射している。留置線とどうやらいうらしい。その上にトラフィックフライのサナギがゴロゴロ。
「ここがトレインベースか」
オレがそう呟くとチェリーは驚いていた。
「えっ!? なに? これ全部トラフィックフライなの?」
「まぁ、ここがトラフィックフライの羽化場所ってわけだね」
チルアウトが説明すると、チェリーは目を輝かせる。
「うわぁ!なんか可愛いね!」
「うん、まぁキモいだけだけど」
Real-eyesがボソッと言った。
「ぶっちゃけ行き先間違えたくない? めっちゃヤバげな雰囲気じゃん。ここも大森林の中だから野生生物が出るし」
「うん。でもまあ、後続のイモムシを行かせようよ。サナギとサナギの間にハマると動けなくなりそうだから」
「ああ、そうだな」
オレたちは待避線に入った。トラフィックフライたちに線路を塞がれないように注意しながらやり過ごす。トラフィックフライは相変わらずお行儀良く線路の上を整列している。
ああ、見たくねぇ。そんなことを思ってる間にも、方向転換をしてオレらのいる待避線から離れて行った。
「けどよ、そんなにうまくいくのかよ?」
「まぁ、フィフティフィフティってところかな。向こう側が埋まった時点で埋まった線路にうまく動けるかが問題ってとこだね」
「電車イモムシの足止めはオレの役目か……。誰かお前ら代わりにビリビリやってくれよ」
「僕たちじゃムリだよね。電気なんて作り出せないしさ。
「そう言う意味じゃさ、リンゴってマジ神じゃん。発電能力のヤバみが極まってるよね」
「おう、もっと褒めろ」
「お兄ちゃん、頑張ってね」
オレは煽てられて結局誘導役を買って出ることになってしまった。
「トラフィックフライってどれくらいで成虫化するんだろうな?」
オレが尋ねるとチルアウトは即答した。
「うーん、さっき見た感じ数匹は成虫になりかけてたよ」
「マジで?早くねぇか?」
「まぁ、もういつもの花火の季節だしね。すぐ成虫になるんじゃないかな」
「そろそろ、日が傾いちゃったね。みて、あそこ。まん丸なお月様があるよ」
「そうか、今日は満月か。ちょっと……、いや、かなりスリリングな夜になるかもね」
チルアウトは相変わらず緊張感のない声でそう言う。
マジ? それって差し迫ってヤバい感じ?
「これ以上にスリリングってなんだよ。今度はゴキブリと船でも融合してるのかよ」
「うわぁ、想像しちゃった。アポカリプスレベルの悲劇じゃん」
「でも、リンゴ惜しいじゃん。ワーウルフが出るんだよ」
「全然惜しくねえだろ」
サイボーグやミュータントの中には都市に適応できずエデンを去ったものたちがいる。いわゆるエグザイラーと呼ばれる者たちだ。エデンの都市とは離れて暮らしている。
「ワーウルフは人がオオカミの遺伝子を獲得したミュータントなんだ。エグザイラーの中でも最もポピュラーな種族だよ」
「で、どんなヤツらなんだ?」
チルアウトはスマホを開くと『サイボーグ生物に関する研究』と言う電子書籍を開いた。
「ここの部分を見て欲しいんだけど……」
「わりい、オレもチェリーも文字は読めねえんだ」
「お兄ちゃん、ひどい。わたしは読めるよCherryって書いてチェリーって読むんだからね」
「それしか知らねえだろ? すまん、話の腰を折ったな」
「ごめん、僕としても想定外で配慮がなかったよ。ここには満月の夜になるとホルモンバランスが崩れて、オオカミに変化するって書かれてるんだ。理性まで失って暴走するってことなんだけど」
「さすがは医学のプロじゃん。多分その心配は当たりだよ。オオカミになったワーウルフは狩りをするから。絶対満月の夜はエデンの外にでちゃダメじゃん」
その時、「ワオーン!」と言う声が聞こえて来た。
オレたちは驚いて外を見る。そこにはオオカミの群れが走っていた。2本足で走ってるからワーウルフだろ。
「うわ、マジでワーウルフだよ。やっぱここにもいるんだな」
「やばいやばいやばい。オイラのホバボで逃げようじゃん」
「って、おい。置いてこうとすんなよ。チェリーをまず連れてけ!」
「って、二人しか乗らねー」
「お兄ちゃん、トラムの中にいれば大丈夫みたい。強力な結界が張れるみたいだから」
チェリーはコンソールに手をかざす。
するとトラムの周りに白い光の壁が現れた。しかし、結界が張れるなんてトラムって一体なんなんだろうな。チェリーもずっとトラムの声が聞こえるって言っているみたいだし。
「とにかくここにいれば安心ってことは分かったんだ。やり過ごしつつ通れるようになったら出ればいいだろ?」
オレはそう言いつつ、
「なぁ、コイツらって満月の夜は狩をするんだよな。その獲物ってのはなんだ? もし、仮にだぞ。トラフィックフライのサナギを狙っているとして、アイツらってオレたちのトラムが通れるようにお行儀良くキレイに残さず食べんのかよ?」
「ふふ、そんなわけないじゃん。オオカミ状態のワーウルフは理性のない獣だよ?」
「それに、たぶん機械部分は彼らは食べられないからね。金属はその辺にほったらかしにするはずだ。つまり君はトラフィックフライが食い荒らされたらトンネルに戻れなくなることを気にしてたんだね」
「まあ、な……。でも、とりまやるべきことは見えたよな? オレたちは後ろでサナギになったヤツさえ守れれば帰り道を確保出来るってことだろ」
「なあ、チル。いい方法ないかな」
「うーん。ってかチルって……。まあいいけどさ」
「オイラのホバボで撹乱しようか? 素早く動けるし」
「じゃあ、それを中心に据えて考えるよ。リンゴくんはトラム内で待機。Real-eyesくんはトラムに戻って補給。僕は結界の中からメスを投げて、サナギを食い荒らされないように守る。それでどうかな?」
「それ、採用で」
「かしこまっ」
Real-eyesは「ウェーイ!」と言いながら外へ出た。そして、ホバーボードで空中を駆け上がる。サナギの周りを旋回。ワーウルフを翻弄し始めた。
「やれやれ。大暴れだねReal-eyesくん」
チルアウトはそう言いながらも、メスを取り出してトラムから降りた。
「ヒャッホー! カットバックドロップターン!」
Real-eyesはご機嫌にサーフィンの技を決めて、ワーウルフを翻弄しながら飛び回る。ホバーボードはその風圧を切ったり入れたりすればサーフィンの技もスケボーの技も両方できるらしい。
「僕のメス捌きもなかなかじゃない? そろそろいい頃合いじゃない?」
チルアウトが投擲する。すると、数匹のワーウルフが動かなくなった。どうやら、メスが刺さったらしい。
「僕の攻撃はReal-eyesくんに比べて地味なんだよね。でも透明化能力と合わせるとニンジャみたいに倒せるって言う」
チルアウトは結界内で消えてまた別の場所で姿を現す。
「いや、十分派手だろ? やべえな、マジで。もうオオカミの数が減ってきたじゃん」
そんな話をしているが、その間にもワーウルフたちはサナギを次々と引き裂いて食べていった。
「うわ、マジで気持ち悪いじゃん。コイツらどんだけ食うんだよ」
「まぁ、満月の夜は特別だからね。オオカミは狩りをすることでストレスを発散するんだよ。それに、サナギは栄養価が高いからね」
チルアウトとReal-eyesは軽いノリで話している。オレはそれでも気分が悪かった。
ってか、コイツらってマジで理性を失ってるのか? なんか、組織的に動いてるように見えるんだけど。
「ねえ、多分あの体のデカいのが群れのチーフじゃん」
Real-eyesが指差した方向には一際大きなオオカミ。他のワーウルフよりも一回りほど大きい。
「うわぁ、でっけぇな」
オレがそう呟くとチルアウトがオレに話しかける。
「というかさ、あのホバーボードの効果時間ってこんな長かったけ?」
オレはそう思ってReal-eyesを探した。すると、彼はチーフに追い回されて逃げ回っている。
「ち、チル! 助けてよー! あいつ、オイラのことを追い詰めようとして来るんだって。トラムに近づかせてくれないんだよ。エグすぎじゃん」
Real-eyesのホバーボードの噴射が段々と弱まって来ている。
「クソっ。アイツ何やってんだ? 早く逃げろよ」
「ホバーボードの燃料切れだね。エネルギー残量が少ないみたいだ」
「大丈夫か?オレがレールガンをブッパするからとっとと逃げろ」
「ありがとう! レールガン助かるよ」
Real-eyesはチーフから逃げるためにホバーボードを操縦する。
「じゃあ、やるぞ。チェリー、トラムの結界を開けてくれ」
オレはそう言って、指でピストルの形を作る。レールガンは電磁力で弾丸を発射する銃だ。
「いくぜ! レールガン!」
オレの指が発射装置となり、銃弾がわりのボルトが放たれる。すると、弾丸が飛んで行きレールガンが炸裂した。
「これで倒せたか?」
オレがそう言うとReal-eyesの ホバーボードが飛んでくる。
「危ねぇな!もう少しで巻き込まれるところだったじゃん」
だが、ワーウルフのチーフは……。ヒラリ。弾丸を交わしていたらしい。普通避けられるか? 高速の弾丸なんか……。
「マジ? あれ、避けるのかよ。最強じゃん」
チルアウトがこう言う。
「いや、違うね。アイツは避けたわけじゃないよ。君が撃つのを予測して、あらかじめ当たらないように距離を取っていたんだ。あのチーフは頭がいいみたいだね」
チルアウトが冷静に分析する。
でもこれでReal-eyesは逃げられただろう。そう思ったのだが、
「ヤバい、もう完全にバッテリー切れ」
Real-eyesは走りながらサナギの影に逃げ込んだ。
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