6話 Traffic Jamed by the Worms
よろしくお願いします。
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合わせてご覧ください。
トラムは黄色い車体だった。
「これがトラムか。なんかカッコいいな」
前面には「E-01」という番号が書かれている。横面にはレッドエヴォルヴのような飲み物を美味しそうに飲む金髪の女性が描かれている。レッドエヴォルヴじゃなくてよく読めないけどコカとか書かれてるみたいだな。窓もメッチャオシャレなんだよな。窓枠がメッチャイカすというか……。
「リンゴ立ち止まってるんだよ。中に入ってみようじゃん」
オレはトラムに近づいてドアを開ける。中は暗くひんやりとしている。オレは懐中電灯で辺りを照らした。中に入ると古くて汚れた座席がある。
窓からホームが見える。丸ノコネズミがキリキリ音を立てて走っている。 だが、どうやらこちらを襲って来る様子はないようだ。
「うわあ……めちゃボロじゃん」
「旧時代の遺物だからね。さすが遺伝子を乗せて運ぶ乗り物って感じだよね」
「これが運転台じゃん?」
そこには色々なボタンやレバーがある。
「ああ、これでトラムを走らせるんだと思うぜ?とりあえずさ、動かしてみようぜ」
「これ……操作パネルじゃねえか?」
オレが言うとチェリーは頷く。
「でも、どれを押せばいいんだよ?全然わかんねえぞ」
「だったら、適当に押してみたらいいじゃん」
「うーん。それはちょっとやめた方がいいと思うよ」
チルアウトがオレを止める。
「ほら、旧時代の技術だからね。爆発したらどうするつもり。それにさぁ。丸ノコネズミに電線ヤられたから動かないんじゃないかって思うんだけど?」
トラムはうんともすんとも言わない。
「動かないじゃん」
Real-eyesのため息にチルアウトはやっぱりねと言う表情で返した。
「うんん。ここに私が手を置けば動くって言ってる気がする」
チェリーは運転台にあるコンソールに手を乗せた。すると、システムが起動、駆動音が響き渡る。
「まじ?妹ちゃん動いたじゃん」
「え、すげぇ。チェリー、分かるのかよ」
「なんか、声が聞こえた気がして……」
「はあ、まあそんな雰囲気か」
チルアウトは何か納得したようだ。
「トラムを動かせるのがミトコンドリア・イヴだけで、それでレールギャングの中心にはミトコンドリア・イヴがいるのかもしれないね」
「へぇ、そっかー。ミトコンドリア・イヴと言えばさ、レールギャングってイメージだったけどそんな関係性があるんだね」
Real-eyesは感心したように頷く。
「まあ、あくまで僕の推測だけど。じゃあ、走らせるよ」
「ああ、頼む」
チルアウトはそう言ってハンドルを回す。トラムはゆっくりと動き出した。
窓の外ではトンネルの壁が後ろに向かって動いている。LEDの光が通り過ぎて行った。
「うわあ……コレめっちゃスピード出るじゃん」
「まぁ、旧時代の技術はすごいってことだね」
トラムはみるみるスピードを上げる。
「なあ、今って地上だとどの辺だろう?結構下ってきたけど」
「うーん、どうだろ。地上での距離はわからないな」
チルアウトが答えるとReal-eyesはスマホを取り出して何かを起動する。すると周囲の風景が映し出された。それは広大な森林だ。
「もしかして丘向こうの大森林か?」
「多分そうじゃん? オイラさ、ジャンクハンターやってるんだよね。大森林は結構行っててさ。あの辺の森はサイボーグ植物がメインじゃん。ネジの木とかソーラーの花とか咲いてるわけ」
「へぇ、そんな名前の植物もあるんだ?」
チェリーは興味深そうに呟く。
「確か森の真ん中に開けたとこがあって線路があったような……。確かトレインベースって呼んでる場所だったような」
「へぇ、トレインベースか」
チルアウトは考え込む。
「もしかしたら、この線路はトレインベースに行くのかもしれない。トレインベースって古典で車両基地って意味だし。まぁ、行ってみればわかるよ」
チルアウトの言葉を頼りにオレたちはトレインベースを目指す。しかし、電車は急停止する。
「どうした?」
「分かんないけど……」
チェリーが運転席に近づく。すると、急に車両が大きく揺れた。オレはチェリーを抱きかかえて床に倒れる。どうやらタイヤに何かが当たったらしい。オレたちのすぐ横で火花が飛び散っていた。
「おいおい、コレやべえんじゃねぇのか」
オレが呟くと車両が大きく揺れる。金属の音。列車が何か巨大な金属質の生物にぶつかっていることに気がついた。
「なあ、コイツはなんだ?」
オレは少しだけビビってしまった。尻尾部分の2本の角が刺さりそう。
「ああ、これはトラフィックフライの幼虫だよ。そろそろ蛹になるんじゃないかな?」
「どういう生き物なんだ?」
「うーん、電車とイモムシの融合したサイボーグかな。でも、成虫化するとジェット戦闘機みたいになるんだよね。お師匠様の集めた本に書いてあったよ」
うえ……デカいイモムシかよ。ケツしか見えないが確かにイモムシらしいな。電車ほどの大きさでその緑の体には窓や扉がある。けど窓の中は筋肉が蠢いていて……ウエっ。グロすぎんだろ。
「マジで? コイツらは肉食なのか?」
「え、何? ビビってんの? マジでウケるわ。コイツらは基本電気食なんだけど。走行中に前に飛び出さない限り安全じゃん」
Real-eyes、ケラケラと笑いやがって覚えとけよ。
「じゃ、じゃあさ、このイモムシ……成虫になったらどうなるんだよ」
「襲われたらミサイルかますかもね。あとはたまに街の空で花火があがるでしょ?アレもコイツらのミサイルじゃん」
「へえ、見た目によらず風流なやつだな。じゃあ、先進めないならバックするか?」
「いや、この状態でバックはできないよ。ほら後ろ」
後ろの窓にはトラフィックフライの電車顔。黄色い顔で窓ガラスの中に二つのライトの目が並んでいる。
「マジか。チカテツ大渋滞サンドかよ」
オレは苦笑いするしかない。
「まぁ、待ってればいいんじゃない?」
チルアウトは呑気なことを言ってやがる。
「お、おい!大丈夫なのかよ!」
オレは思わず叫ぶ。すると、窓越しにトラフィックフライが顔を近づけてきた。
オレたちは緊張してトラフィックフライを見つめ返す。その巨大な虫の目は、まるで古い鉄道のヘッドライト。
「うわ、ちょ、近すぎだろ」
「でも、ちょっとだけかわいいかも」
チェリーが呟いた。
「はぁ?マジかよ」
かわいいってマジか? 行き先表示の脇から触角が出てるし、キモさしかねえんだけど。勘弁してくれよ。
トラフィックフライはオレたちの方をじっと見ている。なんだかコイツは敵意がなさそうだ。だが、キモい……。
チェリーはトラムを降りるとゆっくりと手を伸ばし、その冷たく滑らかな外殻を撫でる。
トラフィックフライは触覚を動かしていた。まるでオレたちの様子を確かめているかのようだ。
「ねえ、トラフィックフライの中にイスがあるじゃん。普通に人が乗れるのかな?」
Real-eyesがそう言うのでオレはトラフィックフライの中をみてみた。
トラフィックフライには人が座れる座席があった。
「オレは嫌だぜ。イモムシの腹の中なんて」
「うん、やめたほうがいいよ。生き物の生態機能と融合してるせいで何があるかわからないから」
チルアウトは警戒する。
トラフィックフライは触覚を優しく彼女の手の上に乗せた。
「ねえ、これって…友好的なのかな?」
チェリーが小声で尋ねる。
「さっ、さあな。でも攻撃的じゃなくても勘弁だ」
オレはマジ、トラウマになりそう。
「ねえ、お兄ちゃんご飯あげてみてよ」
「はあ? な……なんでだよ。嫌だぜ」
思わず上擦った声をあげてしまった。イモムシは触覚でこちらの様子をチロチロと探っている。おい、こっち来んな……。無理無理無理……マジでムリ!
「だって、この子お腹すいてるように見えるよ」
ギュルル〜。
トラフィックフライの腹の音。なるほど、コイツは空腹なようだ。電気食だからオレの雷光の能力は最高のご馳走なんだろう。
「そんなこと言ってもよ……」
オレは一応レッドエヴォルヴを飲む。すると誰かが背中をポンと押して来た。後ろを振り返るとReal-eyesだった。
「クソッ、Real-eyes覚えてやがれ!もうこうなったらやるしかねえ!」
電流を纏い、接触する。トラフィックフライは触覚で触れて来る。
「すごい勢いで……。食ってるのかこれは?」
「うん、これはすごい食欲旺盛じゃん。オイラも食べてみたいなリンゴの電気」
「チェリーちゃん。なんか、リンゴがチビりそうだからそばに行って来るじゃん」
「どうにでもなれだ、クソッタレ!」
オレはReal-eyesにも電流を流す。
すると、彼は痙攣しながら喜んでいた。サイボーグの一部は電気を食事として摂取する。
「ウェーイ、マジでおいしいじゃん! ビリビリに野生味があってがたまらないよ」
オレたちはレールベースに向かって牛歩のように進んで行った。
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