5話 BEWARE of the CIRCULER-SAW RAT
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外に出ると、エデンの街が広がっていた。廃墟と化したビル、錆びた廃車。ゴミや瓦礫が散乱している。この街では生き残るために強くならなければならない。
「なんか、トラムが呼んでる気がするの」
「って言ってるけどチルアウト大丈夫なのか?」
オレはチルアウトに尋ねる。
「まぁ、雰囲気大丈夫じゃないかな」
「なんかよくわかんねぇな」
どこにいくにしてもオレ一人でチェリーを守るのは難しいだろう。助っ人がいないと厳しいこともあるかもしれない。
レッド・エヴォルヴを飲む。高まっていくと意識、集中する。湧き上がってくるエネルギー。繊細な作業だ。電波を形成しReal-eyesに通信を繋ぐ。
「とりま、Real-eyesにボイメ送るわ。オレの能力めっちゃ便利じゃね?」
オレは能力を発動させてボイスメッセージを送信する。
「よう、さっきぶりでわりいなぁ。オレの声聞こえてるよな?」
『うん、めっちゃ聞こえる』
「オレの能力器用過ぎんだろ。めっちゃヤバいわ〜」
『マジそれな。ってか、今どこにいるん? 妹ちゃんがどうなったとか聞きたいし』
地図情報を送信。
『D地区の外れの診療所? めちゃ近じゃん。秒でそっちいくわ』
「了解。待ってるから来てくれ」
オレは通話を切った。
「お兄ちゃん、誰と電話してたの?」
「Real-eyesを呼び出した。アイツも手伝ってくれんだろ」
「うん!きっと助けてくれると思う」
微笑むチェリー。Real-eyesの到着を待つ。
「ヤッホヤッホ! Real-eyesとーちゃーくぅ」
「よう。早かったな」
「妹ちゃん、どーよ?」
「やっぱし、命に別状はないみてぇだな。ただ、これからどうなるかは分かんねぇ」
「そっか。オイラに何かできることある?……妹ちゃんどうすりゃいいん?」
チェリーは不安そうに目を伏せる。そのあと、顔を上げて、
「なんかね、さっきからトラムに呼ばれてるの」
「トラムねぇ。やっぱしレールギャングじゃん。オイラも手伝うから妹ちゃん連れてってよ」
「ちょっと、興味深いよ。遺伝子には利用するための乗り物が必要っていうのことかな」
Real-eyesの言葉にチルアウトは淡々と答える。
「どういう意味だよ。マジでわけわかんネェぞ? おい」
「生物は遺伝子が利用するための乗り物に過ぎないって言われているんだ。それは遺伝子を運んで拡散するから。だから、生物は遺伝子を運ぶために存在するって見方があるんだよ」
「でもさぁ、それレールギャング関係ないじゃん。アイツらはただトラムを乗り回してるだけだし」
「うーん、そうでもないよ。レールギャングは一種の信仰みたいなもんだから。人々が何かを再現することで成立する儀式は人々の信仰の中ではありふれたことなんだよね」
なんか難しくてよくわかんね。
「チルアウトくんって頭いいんだ」
チェリーは関心してる。お前も全然理解してねえだろ? チェリーは思いついたように、
「ねえ、チルくんて呼んでいい?」
「まぁ、別にいいけど。好きにすれば」
チルアウトは淡々と告げると彼が先行して降りていく。
道を抜けるとMのシンボルの看板。階段が地下に続いている。地下独特のカビ臭い匂い。
「お兄ちゃん、多分この先に未発見のトラムがあるよ」
「マジかよ、ココもぐんのかよ。ってか、チェリーなんでそんなことがわかるんだ?」
「えへへ。なんでだろ。呼ばれてるから?」
「呼ばれる?」
「うん、チルくん。なんか、トラムがこっちだって言ってる気がするの」
そう言ってチェリーは歩き出す。オレはその後をついて行く。しばらく階段を下っていくと明かりが見えてくる。どうやら電気は動いているようだ。プラットホーム。廃線、暗闇に続いている。煤で汚れてしまった壁と床。旧時代のグラフィティと呼ばれる壁画。挑発的な色使いが殺風景なホームに不釣りあいなアクセントを与えている。
「へえ、マジかよコレ。駅みたいだな」
オレが言うと二人は頷く。
「地下鉄の駅舎跡だね。多分旧時代はここで電車を乗り降りしてたと思うんだ」
「チカテツってなんだ?」
「まあ、昔は都市の地下にトンネル掘って電車を走らせていたってことかな」
「ちょっち待っちょ。ここってさぁ、丸ノコネズミがワイてんじゃね? めっちゃヤバいじゃん」
Real-eyesがチェリーを止める。
「でも、トラムもこの先にあるんだよ。行かなくっちゃ」
「丸ノコネズミは危険だからね。気をつけていかないと」
「そこんとこは問題ねぇって。オレはどんな相手でも戦えるから」
オレはReal-eyesとチェリーの前に立って前に進む。
「マジで言ってる?」
「おう」
「まぁ、僕もついていくとしますかね。雰囲気心配だし」
オレは階段を駆け下りていく。ピンッピンッ。蛍光灯が音を立てながら明滅していた。人がほとんど入らないせいか床のタイルが煤で汚れ、壁側には蜘蛛の巣が貼っている。壁から染み出した地下水が床を這うように流れていた。
しばらく進むと、辺りから甲高いモーターのような音が反響して聞こえてくる。
「おい、これってもしかしてトラムのモーター音か?」
「いや、それにしては音が高すぎるよ。それに、この音……」
階段は終わり、広い空間に出る。そこには大きなトラムが鎮座していた。
「うわあ……コレめっちゃでけえな」
——ガコンッ。
オレが驚いていると突然明かりが消えた。
「おい、なんか真っ暗になったぞ」
「多分だけど、丸ノコネズミが電気ケーブルを切断させたんじゃないかな」
「マジかよ!?」
オレは懐中電灯を取り出して辺りを照らした。すると、甲高いモーター音が幾つもこちらに向かって迫ってきた。
「とりま浮いとけばおけまるじゃん」
Real-eyesはホバーボードを出して飛び乗る。
「ってか、何人まで行けるんだ? 全員乗れねーだろ」
「妹ちゃんはオイラと一緒ね」
Real-eyesはチェリーをボード上に引き上げる。
懐中電灯で照らされた姿。ドブネズミ。だが体の中心に丸ノコがある。丸ノコをタイヤがわりにして走っているようだ。甲高いモーター音とキリキリというアスファルトに金属が当たる音。この世界の人たちはこの害獣を恐れている。
「えっ、何? マジで丸ノコネズミじゃん」
「だから僕は言ったんだよ。こいつはサイボーグラットの一種だからね。雑食だから丸ノコでバラバラにされるよ」
「ビビってんのか?」
「誰が」
「じゃあ、オレとチルアウトで片付けるぞ。Real-eyesはお前は妹を守ってくれ」
「かしこまっ」
「まぁ、僕に任せてよ。こんなのぬるゲーだから。術式開始」
チルアウトは白衣をバサリと羽織って「メッツェ」と淡々と呟いた。懐から出した手には数本のメスがあった。アレで戦うのか……。マジで一本キレてんな。
チルアウトの手から放たれたメスが丸ノコネズミに当たる。メスは丸ノコネズミの脳に突き刺さった。コイツは敵に回したくねぇなあ。
「うわあ……めっちゃエグいじゃん」
Real-eyesも同意見のようだ。丸ノコネズミは痙攣しながら倒れていく。
「もし敵が迫って来たとしても大丈夫。変色」
「ま? アイツはどこいったんだ?」
「リンゴくん、ここだよ」
チルアウトはオレの肩に手を乗せて耳元で囁く。
「おいおい、ビビらせんなよ」
「僕はカメレオンのミュータントなんだ。だから、この透明化能力で敵を欺くことができるんだよ」
「へえ、お前の攻撃マジやべえわ」
オレは感心しながら周囲を見回す。まだいっぱい残ってんな。ヒリヒリするような殺気。街の喧嘩とは違う本物のヤツ。気ぃ張ってないと呑まれそうだ。
「負けてらんねぇな」
深呼吸一つ。オレはレッドエヴォルヴを煽った。そして、迫りくる丸ノコネズミたちを睨みつける。
「オルァ!」
丸ノコネズミに向かって電撃を飛ばした。電撃は命中し、丸ノコを吹き飛ばした。
「まあ、さすがだね。リンゴくんは強いんだね」
チルアウトが背後から声をかけてきた。
「なんつーか、そうストレートに褒められると照れるわ」
オレがこうして戦ってんのも妹を守るためだしな。
「ま、まあな。オリジンのオレだってフツーに戦えるってことよ」
「んじゃ、オイラも」
Real-eyesはホバーボードのヘリを使って何匹かのネズミたちのバランスを崩していく。
「おい、バカバカやめろって! チェリーの足が持ってかれたらどうすんだ。オイ!」
「めんごめんご。でも問題なかったじゃん。アイツらヨコ倒しにするだけで自分の肉がミンチになるみたいだし」
ヘラヘラと笑うReal-eyes。冷静なんだか自由なんだか。
「マジでやめろよな」
そう言うとプラットホームらしき場所を見渡す。付近に甲高いモーター音は聞こえない。どうやら全部倒し切ったみたいだな。オレはホームに隣接して停まっているトラムを見た。トラムは懐中電灯に照らされて輝いていた。
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