38話 Keno's KENO game!
「キノちゃーん、お客様ですよ」
777はそう言って1人のスタッフに声を掛けた。どうやら彼女が案内してくれるらしい。
「やっほー、お客様。ボクはキノ・グース。ギャンブラーズのメンバーだよ」
そう言って少女は手を振る。水色のポニーテールでジト目。あまり変わらない表情。スレンダーな体型だ。黒いベストとタイトスカートというサービススタッフの制服を着ているようだ。胸元に鉛筆のピンズがあるので彼女の仕事はキノライターだと分かる。
ちなみにバーテンダーはボトル、ディーラーはトランプのピンズをつけるらしい。
「オレは、リンゴ」
「で、ウチはアリスなワケ。コレがうちの執事のサイラスよ!」
「お嬢様、よくできました。ご自身で自己紹介できて偉いですよ」
サイラスはアリスを褒めた。
「キノちゃんはキノの部屋でキノライターをしております。他にもキノの部屋はありますがキノちゃんの抽選会は盛り上がりますよ」
「へぇ、どんなゲームなんだ?」
「ざっくりと説明するとキノは宝くじとビンゴを合わせたようなゲームだよ。お客様は1〜80数字を一つ選んだらベット額を支払ってチケットを購入するんだ」
なんか、この子すごい棒読みだな。もしかして人見知りなのか?
「ボクが活躍するのは抽選会だよ。本番で一気入魂するからこうやってテンションを抑えて体力温存してるんだ」
「抽選会まで時間がありますからその間他の場所をゆっくり見て回れますよ」
「それ、すごくいいワケ! ウチ、いっぱいカジノ見てみたいワケ」
アリスは乗り気みたいだな。
「それ、いいな。オレちょっと買ってみようかな?」
「じゃあ、10個まで数字を選んで。10個当たれば100万倍、3個選んで3個なら16倍だよ」
「うむ、選んだ数字の個数で倍率が変わるのか」
オレは37番、45番、80番を選んだ。
「だったら私は全部選ぶワケぇ。8枚頂戴!」
「アリス様、一人一枚までだよ」
「なんでよ!」
「アリス様、そちらは他のお客様の分でございます。10個数字を選んでもよろしいですので1枚で我慢なされませ」
アリスは参加して10種類目一杯数字を選んだみたいだ
「当たるといいね。あ、この3枚で最後だったみたい。ソールドアウトだよ」
そう言うとカウンターを閉めてキノがカウンターから出て来る。
「ナナちゃん、時間じゃない?レースゲームの実況に行かないと」
「そうですね。では、お客様。楽しんでいってくださいね」
「あ、ありがとうな」
777は一礼すると去って行った。レースゲームか。ちょっと楽しみかもしれないな。
「んだごら!テメェ、俺様にぶつかっておいて謝罪もねぇだのんか! ぶちころすぞ!」
オレたちがカジノの中を見学している時、ロビーの方から大きな怒鳴り声が聞こえて来た。どうやらトラブルみたいだ。オレ達は急いでロビーに向かった。するとそこには人だかりができていた。中心では2人の男がケンカをしている。片方は金髪で細身で眉毛がない男でもう片方は白いスーツと赤いネクタイをした小太りの男。どうやら金髪の方がスーツの男に因縁をつけているみたいだな。
「お客様、他のお客様の迷惑になりますのでおやめください」
ディーラーが2人をなだめようと声をかけるが金髪は聞く耳を持たずに白スーツを殴りつけている。ディーラーは困っている様子だったのでオレ達は仕方なく止めに入ろうとした瞬間キノに止められる。
「リンゴさま、気持ちは嬉しいけどここはボクに任せて。リンゴさまはお客様だから座っててよ」
キノはそう言うとスタスタと歩いて行く。そして2人の間に割り込むとスーツの男に声をかける。
「お客様、他のお客様の迷惑になるからやめてください」
「あぁん?なんだこのガキ! すっこんでろ!」
スーツの男はキノに食ってかかるがキノは気にせず続ける。
「じゃあ、ボクと勝負しようよ。勝負は3本勝負。ボクはキノ・グース。コレで遊んでくれる? ボクが勝ったらこのカジノから出てってね」
そう言ってキノがダーツを取り出すとスーツの男はニヤリと笑って言う。
「いいだろう、お嬢ちゃん。お前バカだな。ダーツはオレが最も得意とするゲームだぜ。お前が負けたらその時は裸でダンスだ」
「いいよ、ボクが負けたらね。ディーラーさん、決闘マニュアルに従って観客たちのベットを受け付けてよ」
「かしこまりました」
ディーラーはその場でベットを取り仕切り始める。
「お客様のみんな。お騒がせしました。僕キノ・グースと……」
「ダライアスだ!」
「お騒がせなダライアスさんとのダーツ勝負をします。皆さん僕かダライアスさんにかけてね」
キノの表情が変わった。爽やかな笑顔を浮かべている。まるで別人みたいだな。
「おいおい、早くしろよ! オレは遊びに来てんだぜ」
観客たちはキノの呼びかけに答え、次々とベットをしていく。
「観客への賭け金の支払いはカジノが持ちましょう」
キノがそうダライアスに言うと
「ノーモアベット!」
とディーラーがコールする。
それと同時にバーテンダーが一杯づつ飲み物を持って来る。金色に光る飲み物だ。
「なんだ、コレは?」
「幸運を呼ぶカクテル。ゴールデンシャワーだよ。みんなバーテンダーのベガスちゃんが作ってるから良かったら買ってね!」
キノはグラスを手にとってクイッと飲み干した。周りの客たちが一気に歓声をあげる。
どうやら、こうやって自分のところの飲み物を宣伝してるらしいな。カジノって怖え。
「んなもん、いらねえんだよ。いちいちイライラする女だぜ!」
ダライアスはそう怒鳴っている。
「手を出したらルール違反で負けだからね」
「うるせえ! そんなの分かってらぁ」
「それじゃあ、ダライアスさん。一投目をお願い」
ダライアスは三歩前に出て投球フォームに入る。そして勢いよく投げると、真っ直ぐ飛んでいったダーツの矢は10のトリプルに刺さる。
「よっしゃ!」
ダライアスがガッツポーズを決めたその時だった。
キノは大きく振りかぶって投げた。その矢も綺麗に刺さり、今度は20のトリプルに刺さっている。
「やべえ! なんなんだこのガキ!」
「それじゃ、次はダライアスさんの番だよ」
キノは動揺するダライアスに笑顔で呼びかける。
「うるせえ! こんなんイカサマに決まってんだろ!」
キノの言葉にダライアスは歯ぎしりをしていた。
ディーラーから矢を受け取ると投げる。矢は真っ直ぐ飛んだが、30のダブルにも刺さってしまう。
これで通算60ポイント目だ。
キノは一投しただけで60ポイントだから、次外しても並ぶと言う状況だ。
「じゃあ、2投目行くね」
キノはそう言うと三歩前に出て投球フォームに入る。大きく振りかぶって投げた矢は少し落ちてシングルの10に当たった。
「よし!」
キノは小さくガッツポーズを決める。これで通算70ポイント目だ。
「ざまあみやがれ、今回は10ポイントしか取れなかったぜ?最初の20トリプルはまぐれだぜ!」
ダライアスはそう言って笑いながらその剛腕でビュンっとダーツを投げた。
ダライアスの三投目は?
その結果はなんと、ダブルブルに刺さっている。
「ウウォー! 50ポイントゲットだ! おいおいどうしたよお前が勝つにはおんなじか20トリプルかしかないぜ!」
だが、キノは笑っていた。キノが3投目を投げると20トリプルに当たった。「キャー!」「すごーい!」
観客たちが一斉に騒ぎだす。これで通算130ポイント目。キノはダライアスに対して20ポイントの差をつけて勝ったことになる。
「さて、ダライアスさん。約束は守ってもらえるよね?」
「ぐぬぬ……」
ダライアスは歯を食いしばり、キノを睨みつけていたがやがてセキュリティロボがやって来てダライアスを連れて行こうとする。
「くそ、覚えてろよ!このガキ!」
「ボクはキノ・グースだよ」
キノは冷静にそう言い返す。オレは思わずキノに拍手をしていた。周りもそれに釣られて拍手をする。
「リンゴ様、ごめんね。ワルモノ退治で案内時間が潰れちゃった」
キノはそう言ってオレに謝ってくる。
「いや、構わないよ。それよりそこにお礼を言いたそうにしている人がいるけど?」
キノの目はジト目に戻っていた。
キノが振り返るとそこには白スーツの男がいる。
「ありがとうございます!キノさん!おかげで助かりました!」
その男は深々とお辞儀をする。
「どういたしまして」
「あの、失礼ですがお名前を聞かせていただいてよろしいでしょうか?私はアーセーン・ベッカーと言います」
「ボクはキノ・グースだよ」
「キノさん。あなたは素晴らしい方だ」
「そんなに褒めなくていいよ」
「いえいえ、とんでもございません、是非感謝の印に食事でも……」
アーセインがそこまで言うとリンゴが食い気味に言いはなつ。
「いえ、ボクは業務の一環でやってるだけだから。もしよかったら今度の回に遊びに来てよ。ボクはキノライターでパフォーマーだからさ。ボクはお客様が自分のゲームに遊びに来てくれるのが一番嬉しいから」
「そ、そうですか……。それは残念です。キノさん、今度ぜひ遊びに行きます」
アーセインは残念そうにそう言う。
「うん、待ってるよ!あと一つ注意があってさ……ボクに惚れたりしたらダメだよ?」
キノはそう言っていたずらっぽくウィンクをした。その時の表情は凄く爽やかだった。この子はオンとオフの差が大きいみたいだった。
オレたちがキノの部屋に戻るとキノが入場の準備をしてくれる。
——ピンポンパンポン。
『お客様にご連絡をいたします。14時のキノの抽選会に参加される方はキノの部屋までお越しください。もう一度ご連絡いたします。14時のキノの抽選会に参加される方は、キノの部屋までお越し下さい』
キノがそう放送すると入り口にチケットを確認する係員が立った。
「それじゃあ、チケットを拝見します」
オレはチケットを係員に見せると中に通してくれた。購入した他の人たちも続々とやって来て席に座り始めた。
「なあ、なんかすげえ充実してるな。楽しくて刺激的なことがいっぱいだ」
「ご満足、いただけて何よりです」
アリスはどうやら飽きてきたらしい
「ウチはカジノの中よりもキッズコーナーのお馬さんロボの方がいいワケ」
「やはりお嬢様にはカジノは早かったですか……」
「そんなこと……ないワケ!ウチは三日月茶会のリーダーなワケ!」
そんなやりとりをしているといきなりブラスの聞いた音楽が流れ出した。
「Welcome to the Keno's Show!」
キノが舞台に現れて優雅に一礼をする。水色のショートパンツと丈の短いジャケットとワイシャツでボーイッシュな雰囲気だ。髪の毛はさっきと違ってショートヘア風にまとめられている。爽やかな笑顔を浮かべて折り目はぱっちりしている。
どうやらショーをしながら抽選をするらしい。
音楽に合わせてポールに腕を絡ませると、ポーズを取りながら踊り始めた。
その状態からダーツを投げてランダムに数字が変化する的に当てる。ダーツが的に当たると数字が止まった。
一つ目の数字は2だ。
「「2番を選ばれた方おめでとうございます!」」
スタッフたちの声に合わせて手前の大きな画面に2の数字が表示された。
さて次の数字はなんだろう?オレは45、37、80を選んだから80だといいな。そう思いながら期待を胸にショーの続きを見る。どうやらゲームを楽しむためにキノをやってる人とショーを楽しむためにキノを買ってるキノのファンがいるみたいだな。
「キノきゅーん! かわいいよー!!」
どうやらキノはボーイッシュキャラで売り出し中っぽいな。
ファンっぽい人にキノのダンスについて聞いてみたがポールダンスというらしい。ポールを使いながら体全身を使ってアクロバティックに踊るダンスなのだが、ポールダンスを踊っている状態でダーツを百発百中させるという。確かにみてるだけでハラハラドキドキするし、オレの広告塔時代のパフォーマンスなんて霞んで見えるぐらいよく作り込まれている。
キノはバーを一回転しながら次のダーツを投げていく。その度にスクリーンに数字が表示され、観客たちは歓声や落胆の声を上げる。
「じゃあ今度はカードだよ!」
キノはそういうとテーブルの上のカードをとるとポールを一回転しながらシャッフルして見せた。そこから一枚カードを選んで数字がランダムに数字が変わる的に投げつける。
カードの番号は80番で的の番号は25だ。
「「おめでとうございます!80番、25番を選ばれた方おめでとうございます!」」
キノはそう言ってスクリーンに80番と25番を表示する。オレは驚いてチケットを見ると、本当に80番を選んでいた。やった!オレは当たった!
オレは思わず立ち上がってガッツポーズをした。アリスも25番を選んでいたらしく、サイラスと一緒に祝福してくれる。
20個の数字が選ばれたところでキノが恭しく礼をしてショーは終わった。
オレは嬉しくてキノに感謝の言葉を投げかける。
「キノ、ありがとう!おかげで当たったよ!」
「いえいえ、リンゴ様。おめでとうございます。ボクはただ数字を選んでるだけだから。当たるかどうかは運次第だよ」
キノはそう言って笑顔で返事をする。オレはキノの謙虚さに感心する。キノは本当に素晴らしいキノライターだと思った。オレはこうしてキノのゲームを満喫したのだった。




