3話 catalyst of change
よろしくお願いします。
「なあ、せっかくだしウチ来いよ。歓迎だぜ」
オレの家は近い。つっても廃ビルに不法滞在してるわけだが。この街イコール無法地帯即ち自由と退廃の世界。そんな世界の楽しみは唯一。
「一緒にレッドエヴォルヴ開けてアガろうぜ!」
「いーねぇ。但しオイラはレッドエヴォルブじゃなくて電気だけど」
「それでもいーって」
この世界は現在進行形で進化の波に晒されている。この世界の種族の食事は多種多様同じ種族でもオリジン寄りとかサイボーグよりと言ったグラデーションがあるらしい。同一種族でも進化度合いは千差万別だ。
Real-eyesは電気食タイプのサイボーグで食事は不要だと言う。てか、よく考えたらReal-eyesはレッドエヴォルヴ飲めねえじゃん。サイボーグやミュータントとレッドエヴォルヴは相性が悪い。サイボーグのなのマシーンやミュータント遺伝子の活動を止めてしまうのだ。
つまりはオレみたいなオリジンもいれば、Real-eyesやアリスみたいなサイボーグもいて食えるものも全然変わってくるんだよな。
つまり何が言いたいかというとハチャメチャ世紀末ワールド乙ってわけだ。
オレらは階段を降りて地上に出る。このビルの彼方はB地区、此方はE地区となっておりこのビルは抜け道になっている。こっち側にはレールギャングがいない。というかトラムの線路が走っていないのだ。
「ここはオレの庭だ。ここはレールギャングがいねえから安心して暮らせんぞ」
「オイラもあんまし好きじゃないんだよね。レールギャング」
Real-eyesはそう言うとポケットの中から一個の飴玉を取り出してオレに渡してきた。コイツ意外と気づかいができんのな。舌の上で転がす。
「んで?お前の家ってどこ?」
「あそこだよ」
家を指さす。廃ビル、割れ目から滝のような水。ツタの葉が絡みついて自然のグリーンウォールになっている。
「ふぅん。おしゃれだね。んじゃ、早速行こうじゃん?」
「外見だけな」
穿って見ればそうかもな。
クソッタレな家で1階と3階は壁がない。1階は住む場所じゃないし3階は水道が漏れている。まあ、野生のミュータント生物やサイボーグ生物の侵入が怖くて今日日1階で寝るヤツなんていないよな。
軋む金属製の螺旋階段を登り錆びついたドアを開ける。
「ただいま」
「お兄ちゃんおかえりなさい」
妹。チェリーは今年で14歳。見た目はオレよりちょっと幼いくらい。茶色い鋭角的ツインテール、くりっとした瞳。オレの唯一の家族だ。めっちゃ可愛い妹だろ?
親父も母さんも物心ついた頃からいないんだよな。オレらを育ててくれたのはばあちゃんのみ。
「お兄ちゃんのお友達? あっ、またケンカしたんでしょ? そのキズ!」
「大丈夫だって。一人対多数じゃなかったからな」
Real-eyesの背中をポンと叩く。苦笑いのReal-eyes、めっちゃいいヤツだよな。
「もう、ホントにお兄ちゃんバカなんだから。待ってて。今、絆創膏貼ってあげるから」
「悪いな」
「妹ちゃん、めっちゃいい子じゃん」
「そうか?」
ヒソヒソ話。Real-eyesがオレの耳元に口を寄せて来る。
「ああ、オイラが言えた義理じゃないけどさ。やっぱ家族ってのは大事にしないとじゃん?」
「確かにそうだな」
チェリーが救急箱を抱えて来る。呆れたような怒ったような表情。
それにしても救急セット様様だよな。ガワだけのショッボイ救急セットだ。だがしかし、これがあるのとないのとでは全然違う……ってかオレケンカばっかだからお世話になりっぱなしだ。
「お兄ちゃん。怪我したところ見せて」
「はいよ」
「チェリー、サンキュな」
傷口を消毒して絆創膏を貼ってくれた。めっちゃ笑顔で「うん」って言われた。天使かよ。
「なあ、Real-eyes。折角だしなんか食ってけよ。チェリーの料理の腕はちょっとしたもんなんだぜ?」
「マジで?じゃあ、お言葉に甘えて」
「やったぁ。腕によりをかけて作るからね」
そうしてオレたちの夜は更けて行った。
「なあ、Real-eyes。シャワー浴びるか?」
オレの指を差した先には破裂した水道管。落ちて来る水。オレたち兄妹はそれをシャワーと呼んでいる。
「え?めっちゃ気持ちよさそうじゃん」
「そうだろ? 見りゃわかると思うが、お湯は出ねえ。欲しけりゃ投げ込みヒーター用意するか?」
「いいよ、そこまでは悪いじゃん。」
Real-eyesはそう言うと服を脱いでReal-eyesがシャワーに入ったようだった。
チェリーがオレのところに駆け寄ってきた。頃合いを見計らってたみたいだ。
「ねえ、お兄ちゃんちょっと見て欲しいものがあるんだけど……」
チェリーの深刻な顔。真面目な話っぽいな。
「どうした?チェリー」
「実はね、背中がものすごく熱くって。何か病気じゃないかって。だから確かめて欲しいの」
チェリーはそう言うと、着ていたオレのお下がりのシャツをたくし上げた。
「コレってマジかよ。運命様バカじゃねえの?」
心の中で渦巻く驚きと怒り。
「お兄ちゃん、どう……したの」
チェリーの肩がびくんと跳ねる。マジでキレそうになった、あぶねえなあ。
オレは奥歯を強く噛んで感情を抑える。
チェリーの小さな背中。時計のような紋章がある。特殊な運命なんて妹に背負わせたくねぇ。フツーに自由がいいに決まってんだろ?
「なあ、チェリー。よく聞いてくれ。お前は伝説の存在ミトコンドリア・イヴになったみたいだ」
「ミトコンドリア・イヴ……」
チェリーの混乱したような顔。オレは落ち着かせるために強く抱きしめてやる。
「心配するなって。オレが守ってやるから」
そう言うとチェリーはコクリとうなずいた。
「おい、Real-eyes! 大変だ!」
オレは慌ててReal-eyesを風呂場に呼びに行く。
「どったの?そんな血相変えちゃってさ」
「チェリーがミトコンドリア・イヴになっちまった。わっけわかんねぇよ。オレはどうしたらいい?」
Real-eyesは少し考える素振りを見せるとこう言った。
「めっちゃテンパってんじゃん。まずは、深呼吸して。オイラの母ちゃんはメヴィウスの科学にハマってたからさ。実は色々知ってんだ」
「早く話せ!知ってること全部吐け。キリキリ吐け」
オレはReal-eyesの体を揺らす。Real-eyesは少しだけ困ったように笑うと
「ウェイウェイ。タンマ! 多分、オイラこのままだと鞭打ちで死ぬと思うんだよね。それと妹ちゃんも本人だし聞いたほうがいいじゃんか」
Real-eyesの言葉を聞いてハッとする。オレはチェリーのことを全く考えていなかった。
「悪い……。取り乱しちまってた。チェリー呼ぶわ。チェリーちょっと来てくれ!」
「何?」
「大事な話があるんだ」
「分かった」
チェリーはそう言うとオレについて来た。
「あのな、チェリー。Real-eyesがミトコンドリア・イヴについて話してくれるって」
「Real-eyesさん。お願いします」
「うん。オイラは母ちゃんから聞かされた話しか知らないんだけど、いい?」
「はい」
「じゃあ、話すね」
Real-eyesの話はこんな感じだった。
この世界では昔、人類が進化するための実験が行われていた。人類を超越した存在になるためにナノマシーンや遺伝子組み換え、そして人類の可能性を高めるエナジードリンク。
「で、進化への追求の果てに生まれたのがミトコンドリア・イヴの遺伝子なわけ」
「でも、なんでチェリーの体に……」
どうやら、人類のほとんどはその因子を持ってるらしい。この遺伝子は限られた女性にしかはつどうせず、発動したミトコンドリア・イヴの遺伝子を持つ人間は新人類の始祖になることができるとか。
「そうなんですか……」
チェリーは混乱した顔でその話を聞いていた。
「確かレールギャングってミトコンドリア・イヴを中心に据えて構成された集団なんだろ?オレたちもレールギャング始めなきゃなのか」
「うーん。それも楽しそうでアリアリだけど、まず妹ちゃんの健康が一番じゃね?」
Real-eyesの言う通りだ。チェリーが元気でいてくれないと意味がない。
「そうだよな。医者に診てもらうのが先だよな」
「うんうん。じゃあ、オイラは帰るわ。オイラはD地区の端っこに住んでるからまたなんかあったら言ってよ。ほんじゃマイカー」
「ああ、ありがとな」
Real-eyesは手を振ってホバーボードに飛び乗った。風を切って走って帰って行った。
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をしたうえで、本作を読み進めていただけると幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします!
今回はチェリーのキャラクターソングの歌詞は掲載しません。
用意していますので後日お楽しみに!