22話 LOCK DOWN
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オレたちはエデンに向かうハイウェイを歩いていた。道路には車の残骸。
都市を隔てる壁が見える。エデンに近いように思えるが実際はまだ離れているようだった。
Y3Kはバイクを押しながら歩いている。
「ごめん……」
「いきなり、どうしたんだ?」
「あんたたちが日暮れまでに街に着けなくなったから」
「あんまり背負い込むなよ。オレたちは気にしてねえから」
「うん……」
「責任感じなくていいが友達として一緒に考えてくれよ」
「そうだよ、Y3Kちゃん。こうして話し合っていればいいアイディアが出るかもしれないよ」
チェリーは後ろ歩きをしながらイタズラっぽく微笑んだ。
「そうだね……」
「おい、チェリー前見ろよ。道路がひび割れてて危ないぞ」
「へーきだって。うわっ」
チェリーは道路のひび割れに足を取られる。つんのめった。RAPID-BOYの方に倒れ込んでくる。
「大丈夫?チェリーちゃん?」
「う、うん。RAPID-BOYくんこそごめんね」
チェリーとRAPID-BOYは見つめ合っている。
「でもそんなところを手で押されると僕、すごい苦しいから」
チェリーはRAPID-BOYの胸の辺りに手をついていた。
「ごめん。でも、RAPID-BOYくんって12歳なのに結構胸筋鍛えているんだね」
チェリーは驚いたように手を眺め始めた。
「えっ……あっ」
RAPID-BOYの表情は焦りが浮かんでいる。
(^_^;)
「どうした?」
「な、なんでもない!」
RAPID-BOYは慌てた様子だった。
「ね、ねえ。暗くなって来てない?」
「そろそろ懐中電灯の電気をつけようじゃん」
「うん」
リンゴたちは懐中電灯を点ける。辺りは夜の闇に覆われ始めた。辺りは開けた一本道。ハイウェイは都市の東側の入り口まで続いていた。
「なあ、Real-eyes。夜ってこの辺りは何が出るんだ?」
「確かこの辺りは夜、ウェンディゴが出るじゃん」
「ウェンディゴ?」
「まあ、彼らは微妙な存在だよ。人間であるエグザイラーに分類するかミュータント生物に分類するか定説がないんだよね」
「おい、チル。なんでそんなこと知ってんだよ? てかなんだそれ?」
「ウェンディゴって言うのはいわゆる人食い鬼なんだけど……」
「ああ、あの昔話に出てくる化け物みたいなヤツか?」
「うん。でもあれはフィクションだよ。僕の言ってるウェンディゴはミュータントの方。彼らは元人間だけど、人間とは違う価値観やコミュニケーション、知能を持っているんだ。さっき言ったエグザイラーに分類するかミュータント生物に分類するかって言うのは人間性を失った彼らを人間とするかと言うことだね」
ウェンディゴのようなミュータントはどうやらいくつかいるらしい。ミュータント同士は基本、同族同士で命を繋いでいく。本能的にそうさせるのだろうとチルアウトが語ってくれた。
だが、中には混血を望む人もいたらしい。これもどうやら生物としての本能らしい。
彼らは、混血するたびに獣性を強めていきついに人間性を失った。彼らは獣になった子どもたちを抱えて都市の外に逃げ出した。次第に人間を襲うようになっていったと言う。
「なんか難しそうな話をしてんじゃん。オイラはミュータント生物派かな。だって言葉が通じなくて動物並みの知能だったら人間とはいえないじゃん」
「あら、私はエグザイラーの方を推すわ。だって彼らは人間の子孫だもの。他のミュータントと変わることなく都市に馴染めない人たちだと思うわよ」
Real-eyesはウェンディゴ生物派、TAKE-THR3Eはウェンディゴ援護派のようだ。
「まっ、よくわかんねけど外野がとやかく言っても仕方なくね?当事者がオレは人間っとかオレは動物っとか決めればいいんだよ」
「まぁ、それを本人たちに聞くことができないから意見が分かれてるんだけどね」
オレはチルアウトに突っ込まれてしまった。
しばらく歩くと都市の入り口にたどり着いた。入り口は封鎖されており、誰もこの門に人がいない。
「うぅぅ」
唸るような声が聞こえて来る。ウェンディゴだ。赤い目、鋭い爪、小さな触覚。彼らは服を着ておらず人間よりも大柄だった。
「おい、とにかく廃棄された車の陰に隠れるぞ」
オレはみんなに声をかけて廃車の陰に隠れて息を凝らす。
「なあ、なんで都市のすぐ外側にアイツがいるんだよ」
「多分だけど僕たちみたいに門限までに帰ることができなかった人間を襲ってるんじゃないかな?」
「その推測はあたっているみたいじゃん。結構門限までに帰れず外にいるジャンクハンターも多いみたいだし」
Real-eyesが指差した先に目を向ける。そこにはジャンクハンターが自分達と同じように息を潜めて隠れている。
「声かけて一緒に行動するか?」
「やめましょ。大人数の方が目立つわ」
「正直、7人でも大所帯だもんな」
「ねえ、どうしてエデンって夜中はロックダウンするのかな?」
チェリーがつまらなさそうに聞いて来る。
「僕は中の人たちの安全を守るためだと思うな」
RAPID-BOYはそヘルメットのうさ耳が車の陰から出ないように必死に頭を低くしていた。
その時、子供が無邪気に笑うような声が聞こえて来た。
突然、辺りの霧が晴れて月の光に照らされて見えたのは幼い4人の子供たち。赤い目、鋭い爪と牙、短い触覚、青い肌。様々な肉食動物の特徴が少しづつ混ざっているが基本的には人間と変わらない姿だ。
「ウェンディゴの子どもよ」
TAKE-THR3Eはそう叫ぶと拳を構えて辺りを警戒している。
「ウェンディゴって、あんまり人間と変わらないんだね。かわいい」
チェリーはウェンディゴの子どもたちに手を振る。
「ダメよ。刺激しないで! お友達が例えば蠍ライオンと一緒にいたらどうする?」
「えっと、危険だから助けるけど……」
「同じよ。親が殺しにくるわ」
先程までウェンディゴを擁護していたTAKE-THR3Eが張り詰めた声でチェリーを止める。
「僕も一緒に遊びたかったのに……残念」
(。•́ - •̀。)
RAPID-BOYの顔文字はさびしそうに輝いている。
だが、チェリーの軽率な行動で子どもたちは近づいて来てしまった。ウェンディゴの子どもたちはオレたちの服に戯れて遊んでいる。
「まずいわね。子どもが親を呼ぶかもしれないし」
「どうする、追い払うか?」
オレはレッドエヴォルヴ片手に言った。
「追い払うのは危険よ。音や光で大人のウェンディゴを呼び寄せるかもしれないわ」
「Real-eyesは何かできるか?」
「今はオイラはムリ!レールベースの時は満月だったしトラムのライトもあったから大丈夫だったけど、今はほら真っ黒で危ないじゃん」
「まあ、なんにしても子どもをびっくりさせて泣かせるような方法は良くないよね。子供の泣き声って一番聞こえやすい声だし」
「私がやる……」
そう言ったのはY3Kだった。
「あんたたちはいい人たちだからそのお返し」
「わかった。Y3K、お前に任せるぜ!」
オレがそう言うとY3Kがクスッと笑った。
「なんだよ。なんか面白いことあったか?」
「あんたとHOT-ROUTEって似てると思って……。リーダーする人ってそんな感じなのかな」
「知らんけど」
Y3Kは「カシャッ」と音を鳴らした。すると「ウィーン」と音が鳴って彼女の目の前に真っ黒なウェンディゴの子どもが現れた。
「少ししたら本物そっくりに動き出すから……」
オレたちは廃車の影に隠れて様子を伺った。ウェンディゴの子どもたちは興味津々で真っ黒なウェンディゴの子どもを見たり触ったりしている。
ウェンディゴの子どもたちは真っ黒なウェンディゴに興味津々で抱きついてみたり、短い手足を触ってみたりしてはしゃいでいる。
しばらくすると真っ黒だったウェンディゴの子供に色がついて来て動き始めた。まるで本物のような動きだ。ウェンディゴの子どもの姿をした何かはウェンディゴの子どもたちに声をかけると彼らを連れてどこかに去って行った。
「Y3Kちゃん、大手柄だね!」
RAPID-BOYがはしゃぐと彼女もはにかんだ笑みを浮かべた。
「危なかったぜ。他のウェンディゴと出くわす前にとっととどっかに身を隠そうぜ」
「ええ、そうね。夜明けまでにこれ以上危険な生物に出くわさないように祈りましょう」
オレたちははそれから警戒しながら夜明けを待ったのだった。
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