19話 wanna YELL 3 KNOCK
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オレたちはハイウェイに沿って歩き始めた。チルアウトとチェリーは興味津々といった様子で辺りをキョロキョロしている。
蜃気楼が蠢き。道路の上はさらさらと流れていく赤土。サボテンがポツンポツンと立つ。根無し草がコロコロと風に吹かれて転がっていた。
「さ、行くわよ」
TAKE-THR3Eは先頭に立って歩き出した。
「お兄ちゃん、すごいね。さっきの人たち」
「ん?あぁ、そうだな」
「なんか……ちょっと大人って感じだね」
「そうか?ずっとケンカしてたじゃねえか」
「そうだよ、うん。だけど、あの人たちは……なんて言うか、その……オトナの匂いがするっていうかさ……」
「はぁ!?」
「あの二人って基本ケンカしてるけど尊重し合ってるもの。二人の関係にちょっと憧れるってのは分かる気がするわ」
「うん」
「ねえ、そこに倒れてるバイク……」
TAKE-THR3Eが指をさす方向に一台のバイクが横倒しになっている。アメリカンスタイル。ミラーコーティングされて光を反射する。ハーレー・ヘンドリクソンのロゴが光っている。
「あのハーレー、あの子のじゃん?」
Real-eyesはホバーボードで近づくと、しゃがみこんでヘルメットを持ち上げた。青いメタリックなヘルメット、Y3Kのものだった。
「ねえ、リンゴくん。どうしてバイクが横倒しになっているのかな?」
RAPID-BOYがしゃがみ込んでオレに訊いた。RAPID-BOYはオレの肩越しに覗き込んでいる。
「なんでだろうな。轢かれたとかじゃないと思うんだが……」
「ねえ、ここを見て! パンクしてるじゃん」
Real-eyesは後輪を示す。そこには、タイヤのゴムの部分が破裂していた。そして、タイヤチューブも破れている。パンクっていうよりズタズタにされていると言ったほうがよさそうだった。
「誰かにパンクさせられたってこと?」
「多分チェーンソーカブトの仕業じゃないかな?」
「チルくん、チェーンソーカブトってあの?」
「街にもたまに出るあのチェーンソーカブトだと思う。彼らは基本的に夜行性のはずなんだけどな」
チェーンソーカブトは電気で動くサイボーグを狙う害虫だ。
「あれ?オイラ狙われちゃう感じ? ヤバいじゃん」
「大丈夫だよ、Real-eyesくん。いざという時は僕が守ってあげるから」
「RAPID-BOY。まじイケメンだわ」
「ありがとうReal-eyesくん」
「うぇーい!オイラたち友情芽生えたってやつっしょ」
「うぇーい?」
「そう、でハイタッチすんの」
Real-eyesはRAPID-BOYと手を叩き合わせる。
「おい、バカやってる暇はねえ。もしかするとY3K襲われてるのかもしれねえだろ?」
「だとしたら一刻の猶予もないじゃん、すぐにでも探しに行こうか!」
「ちょっと待ちなさい。エコロケーションを使うわね」
そう言うとTAKE-THR3Eが耳に手を当てた音波であたりを探っているようだ。
「あちらの方向で音がするわ。この方向に向かってちょうだい」
TAKE-THR3Eの指示に従って進むと、Y3Kが虫の大群に襲われていた。青いメタリックな体、直径20センチぐらい、ツノの代わりにチェーンソーの刃がモーター音を立ててグルグル回っている。
「やっぱり。チェーンソーカブトじゃん」
Real-eyesがホバーボードを噴かすとチェーンソーカブトがReal-eyes目掛けて飛んで来る。
「うわぁ、なんでだぁ!」
Real-eyesはチェーンソーカブトを引き連れて荒野を逃げ回るハメになった。
「まあ、そうなるよね。チェーンソーカブトは電磁波を捉えて襲って来る習性だし」
チルアウトは淡々とそう告げると、メスをチェーンソーカブトに向けて投げる。
「Real-eyesもすごいね」
(3・Д・)
RAPID-BOYのウサ耳ヘルメットには驚いた表情が浮かんでいた。
「僕も参戦しなくっちゃ。動く的だけど頑張るね」
RAPID-BOYはライフルに弾丸を込め始めた。
「弾は散弾でいいわよ。トラムシステムのバリアでReal-eyesくんもY3Kちゃんも傷つかないから」
「そうさせてもらうよ」
RAPID-BOYはライフルの銃爪を引く。
「そりゃ!」
RAPID-BOYの放った弾は回転しながら、周囲のチェーンソーカブトムシたちにヒット。そして、それらは一斉に爆散した。
「オレ、今回はただのエサだわ」
オレの能力はチェーンソーカブトと相性が悪そうだった。電気を餌にしているチェーンソーカブトに電気を与えてもヤツらを喜ばせるだけだろう。
「今回は私もやることなさそうね。こんなに大きく動き回っているとエコロケーションも分散しちゃうもの」
「ねえ、モーンさん。私Y3Kちゃんとお友だちになりたい。でも、ここで助けるために動かなかったらお友だちになれないと思う」
チェリーはさっきのY3Kの冷たい態度が軽くショックだったみたいだ。
「ねえ、モーンさん協力してくれる?」
「まあ、仕方ないわね。でどうすればいいの?」
「ただ痛いのに耐えるだけでいいの」
「なあ、それ、オレじゃダメなのか?」
チェリーは恥ずかしそうに顔を横に振る。
「あんまりジロジロ見ないであげて。男の子に見られると恥ずかしい能力って言ってたでしょ?」
「じゃあ外すか?」
「ダメ!」
そう言うとチェリーは涙を溜めてこっちを見ている。黙って見てろって? 男は辛いぜ。
「分かったよ」
「じゃあ、行くよ?」
チェリーがレッドエヴォルヴを飲むと目を閉じた。チェリーの背中に白い翼が現れる。
「モーンさんあなたのお腹に赤ちゃんが宿りました。その赤ちゃんは大きな鳥の姿でチェーンソービートルを食べます」
「受胎告知!」
「うっ、ううぅ」
突然TAKE- THR3Eが痛そうにお腹を抑えてしゃがみ込んだ。彼女は顔を歪めて苦しそうに呻いた。彼女は体を起こすこともできず、その場に倒れていた。
どうやら立って居られないみたいだ。彼女は手でお腹を押さえて、息を切らしていた。
彼女は痛みに耐えるために、目を閉じて唇を噛んだ。しばらくするとお腹の部分に大きな卵が現れた。
「さあ、卵から出て成長して!」
卵の殻が割れて中から大きな鳥が現れた。青い翼、鋭いクチバシ。目は緑色だ。
神々しい。オレはため息をついてしまった。
「この子自体は私の能力じゃないの。私は相手を選んで伝えるだけ。聖なる存在が私の能力が続く限り子どもを通して手を貸してくれるの」
「すげぇな」
「うう、でも、やっぱり恥ずかしいよぉ。こんな能力」
「チェリーちゃん頑張ったわね。良かったわよ。さあ、その子は飛び立てるぐらいには成長したのかしら?」
「うん」
大きな鳥は羽ばたいてTAKE-THR3Eの周りをぐるぐる回るとチェーンソーカブトに強烈な体当たりを仕掛ける。大きな鳥につつかれたチェーンソーカブトたちは大爆発を起こした。
「へえ、なんかすごいじゃん」
「旧時代の神話がモチーフになっている能力は珍しいと思うわ。大事にするといいと思うわよ」
「うん、ありがとう」
「よかったな、チェリー」
「うん!」
チェリーは嬉しそうに笑っていた。
チェーンソーカブトの大群は全滅したようで、先程まで逃げ回っていたY3Kは顔を上げるとこちらの方をじっと見つめて来た。
「やったか!?」
TAKE THR3Eは体を起こすこともできずその場に倒れている。
「でも全く動けそうにないわ。能力的な現象だからレッドエヴォルヴが切れたらある程度は治ると思うけど……」
「そうか、それなら安心だな。でも、ハイリスクハイリターンな必殺技みたいだな」
「モーンさんありがとう。ちょっと恥ずかしいけど嬉しかった」
チェリーはモーンさんに抱き着いた。
Y3Kはその様子をしばらく見ていたらしい。
「あの……。ありがとう」
「今回の立役者はチェリーだからチェリーに言ってやってくれ」
オレは、チェリーの頭を強く撫でるとチェリーは困惑気味に笑みを浮かべた。
「あの……。ありがと」
「ううん、私は助けたいな、お友だちになりたいなって思ったからやっただけだから」
「あっ、うん……」
「Y3Kちゃん。お友達になろ?」
「うん……。よろしく」
Y3Kはチェリーに手を差し出すとチェリーもその手をぎゅっと握ったのだった。
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