16話 But they are outside.
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「さて、ここらへんだな」
オレとチルアウトは街を走る線路の途中で立ち止まった。道路はひび割れ、車は走っていない。オレはレールの上で立ち止まり、ゲームエリアの壁を見た。赤いオーロラのような壁がすぐそこに迫っていた。
「まずいね。早く中心に向かわないと」
チルアウトは息を切らせて言った。
「分かってるって」
オレとチルアウトは焦っていた。エリアの外に追い出されてしまったら敗北だからだ。ゲームは終了だ。ゲームは続くが、傍観者となるのは戴けない。
オレたちは誰も住んでいない倒壊寸前のアパートメントを抜けて、錆びたブランコのある児童遊園を横目に見ながら走った。
「そろそろ中心じゃねえか?」
「そうかもね」
そしてオレたちは中心にある広場に到着した。
他のメンバーは残ってるか?TAKE THR3Eは?チェリーは?チェリーは無事だろうか。オレとチルアウトが周りを見渡すとそこには信じられない光景が広がっていた。
「これは……」
TAKE-THR3Eが肩から血を流して立っていたのだ。
「あんた、まだしぶとく立ってるワケ?もう諦めたら?」
アリスが蔑んだような声で言った。
「あたしに挑発は無意味よ」
TAKE-THR3Eは大きく飛び上がると、キレイな踵落としを人形に加えた。ブリーチングだ。衝撃波が生まれて地面が振動した。
「アタシはね、どんな相手でも手加減しない。どんな強敵も叩きのめす」
しかし、ボロボロになったアリスの人形たちはそれぞれ手に持ったナイフを持って振りかぶった。
『ねえ、お姉さま!あいつなんか言ってるよ』
『ねえ、お姉さま!あいつなんか怒ってるよ』
対になった二つの人形はそう言うと、一斉にTAKE-THR3Eに向かって襲いかかる。
『わたしはディー』
『わたしはダム』
『『二人そろってお姉さま親衛隊!』』
ディーとダムはそう宣言すると、TAKE-THR3Eに飛びかかった。
TAKE-THR3Eは身動きが取れなくなっているように見えた。
「おい、TAKE-THR3E大丈夫か?」
オレは慌ててTAKE-THR3Eの側に駆け寄り、小声で聞いた。
「問題ないわ。ちょっと肩がばっくり持っていかれたぐらいよ」
確かに傷口からは血がダラダラと流れていた。しかし、彼女自身はそれを全く気にしていないようだった。
「あんたボロボロじゃねえか」
オレはTAKE-THR3Eの体を抱き起こすと、倒れ込んでいた彼女を引っ張った。
「助けてくれてありがとう。でも大丈夫よ、自分で立てるわ」
TAKE-THR3Eはオレに引っ張られて立ち上がった。彼女は額から血を流そうともそれを気にしている様子はなかった。
「それより、チェリーちゃんがトラムの影にいるわ。行ってあげて」
TAKE-THR3Eはオレの後ろを指差して言った。オレは言われたとおりにチェリーの方へ向かった。
「あ、お兄ちゃん……」
彼女は消え入るような声で呟いた。どうやらかなり怯えているらしい。無理もないだろう。ゲームとはいえここは戦場だ。オレが守ってやらないと……。
「もう大丈夫だ、安心しろ」
オレは優しく彼女の髪を撫でてやった。彼女は安心したようにオレの胸に顔を押し付けるのだった。オレは再び気になってTAKE THR3Eの方に目を向けた。
まだ、戦いは続いてるようだ。
「ちっ、しぶといわね。あいつ」
アリスは舌打ちをした。
『ねえ、お姉さま!』
『ねえ、お姉さま!』
すると二体の人形はTAKE-THR3Eにナイフを向けた。そして再びTAKE-THR3Eに飛びかかって行った。
「また来るのね。いいわよ、何度でも相手してあげる」
人形たちはTAKE-THR3Eに向かってナイフを振り回す。だが、そのことごとくをTAKE-THR3Eは躱していく。
「ちょっとは楽しませてよね」
そう言ってTAKE-THR3Eはパイプから泡を吐き出す。泡は目眩しをするように人形たちを襲う。
『もうっ!邪魔!』
『お姉さま!もう疲れたぁ』
人形たちはそれを振り払おうとするが、ナイフが泡で濡れて滑る。
「コレで終わりよ!」
TAKE-THR3Eはそう言って人形二人にブリーチングを食らわせた。ディーとダムは粉々になって砕けてしまった。
人形の糸につながっていた糸がTAKE-THR3Eに絡みついてくる。TAKE-THR3Eはエコロケーションで操り糸をほぐしてばらけさせると、拳を構え直した。
「これで終わり?」
「はぁ、終わってるわけねえし。ウチはオタクのこと超ムカついてんの。本体だって強いんだから。たかがゲームで本気出すなんてダサいけどさ、マジでやらせてもらうから」
「で、あなたの本体はどこ?」
TAKE-THR3Eは尋ねる。
「ほ、本体?なんのことよ。ウチが偽物だって言うの?」
「とぼけてるの? エコロケーション使ったけれどあなたから心臓の音もモーターの音もわからないもの」
TAKE-THR3Eはどうやら戦いながらエコロケーションを使って相手を分析しようとしていたらしい。
「へぇ、さすがミュータントじゃん。でも残念でした!ウチが本体だし」アリスはにやにやと笑いながら言った。
「そう。なら、あたしがあなたの周りを一周しても大丈夫ってことね。あたしはボロボロだけど締め殺される前にいる方向を仲間に教えるか競争してみる?」
「やだぁ!ふざけないで! ウチが本体なのぉ!!」
アリスは必死になって叫ぶ。どうやら本体は子供のようだ。アリスは駄々っ子のように暴れ始める。流石にそれだけ暴れさせれば糸も絡む。人形アリスはコントロールを失って倒れた。
「じゃあ、本体のとこ行って抱きしめてやっか」
オレはアリスの方に向かって歩き出す。
「お兄ちゃん、それは私の役目だと思う。私に任せて」
「さっきまで泣いてたのに大丈夫か? チェリー」
「うん、もう大丈夫だよ」
チェリーは笑顔で答えると、相手のトラムの中に移動した。どうやらウェルプレイド中だけは別のチームのトラムに入れるようだ。オレは護衛のためにチェリーに付き添った。
中には人形が並んでいる。その中の一つがアリスの本体のはずだ。「アリスちゃん、出ておいで。もう怖くないから」
チェリーが優しく語りかける。すると一つの人形がピクリと動いた。
「アリスちゃん、みーつけた!」
大きな人形……いや、小さな女の子だ。人形のような仮面やボディパーツをつけているがその髪の毛が艶やかで人形のものとは思えない。
「アリスちゃん、チームの為に大人になろうって頑張ってたんだね」
チェリーはそう言ってアリスの頭を撫でた。
「ウチのこと許してくれる……?」
「うん、もちろん。これから一緒に遊ぼう。友達がいなかったら寂しいよ」
「よし、じゃあそのためにもサレンダーを宣言してくれないか?」
オレはアリスに言った。
「えっ?」
「今はまだゲーム中だ。このゲームでは敵同士だけど、ゲームが終われば仲良くできるだろ?」
チェリーはアリスと友達になりたいようだ。
「うーん。わかったよ。そのかわりウチのこと怒ってない?」
「ぜんぜん怒ってないよ。これからは仲良く遊ぼうね」
アリスは笑顔を見せた。
「じゃあ。ウチ、サレンダーするよ!」
アリスはそう言うと両手をあげてサレンダーを宣言する。これでゲームクリアだ。オレはそっと胸をなで下ろした。
「サレンダーするから、もう放してよー」
アリスは頬を膨らませながら言った。どうやらずっとチェリーに抱きつかれたままだったようだ。
「ゴメンゴメン、アリスちゃんの髪の毛がすごいふわふわだからつい……」
そう言ってチェリーはアリスから手を離す。
「Winner Sanctuary!!」
フィールドエリアの壁は虹色に輝いてから花火のように弾けた。花火の下でTAKE-THR3Eがチームのメンバーたちと握手して喜び合っている。
こぴー★きゃっとやサイラスも現れて祝福してくれている。
「今回の立役者はチェリーだな。ありがとな」
「お兄ちゃん、ありがとう」
チェリーは嬉しそうに答える。アリスがチェリーの方を振り向いた瞬間だった。チェリーがアリスにハグする。そしてそのままアリスの全身を愛おしそうに抱きしめる。
「えっ?」
アリスはいきなりの出来事に驚いているようだった。
「これから一緒に遊ぼうね!」
チェリーは笑顔で言うとアリスの頬っぺたにキスした。
「あっ、もったいない!ウチの本当の顔はこっちなのに!」
アリスがそう言って仮面を剥がすとそこには10歳くらいの女の子の顔があった。どうやら人形のサイボーグじゃないみたいだな。
「あのね、ごめんなさい。ウチ、本当はクモのミュータントなの」
そう言ってアリスは目をあかんべえするように見せる。そこには赤い目が確かにあった。
「教えてくれてありがとう」
チェリーはそう言ってぎゅっと強く抱きしめた。
「えへへっ。ウチ、こんなに優しくされたの初めて」
アリスは嬉しそうに言うとバイバイと手を振った。
サイラスは深々とお辞儀をすると
「チェリー様、お友達になってくださってありがとうございます。チェリー様は甘えたかったのですよ。私は使用人ですし、こぴー★きゃっと様も行儀見習いですので、心底甘えるには気持ち的に複雑なのでしょう」
使用人は街のものから採用した労働者、行儀見習いはカルテルの子供がやるものらしい。こぴー★きゃっとの家は星の一家と呼ばれている。
彼らは星印食品というミュータント用の缶詰を取り扱っている会社でレッドエヴォルヴ社と並ぶ規模がある。
「では、お嬢様がヴィヴィッド家にご招待をさせていただくこともあるかも知れません。その時にはまた、よろしくお願いします」
そう言い残して去って行った。
「ヴィヴィッド家って……あのヴィヴィッド紡績の?」
「チェリー。対等に接してやってくれよ。それがアリスが望んでることだからな」
「う、うんっ。そうだよねお兄ちゃん。ありがとう」
チェリーはそう言うとアリスの去って行った方をじっと見つめているのだった。オレはそんなチェリーの様子を眺めながら、ほっとした笑顔を浮かべた。これでよかったんだ。そう思うのであった。
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