11話 CRESCENT TEA-PARTY
オレたちはチカテツの途中駅をうまく使って大森林にいくことにした。
オレたちがI李から示された条件はソーラーの花採集。花びらがソーラーパネルになった巨大なサイボーグ植物で比較的手に入れやすい。
「うおーっ! すげえなエデンの外!」
機械と緑が混ざりあった世界。ドリル鳥、カブトツノガエル。サイボーグ生物やミュータント生物が走り回っている。
「お兄ちゃんはしゃぎすぎ」
「はしゃぎすぎはよくないよ、リンゴくん。ここはエデンの外だからね。まぁ、気持ちは分からなくもないけど」
ほとんどのメンバーは都市外活動は初心者だ。ジャンクハント経験者はReal-eyesとTAKE-THR3Eの二人だけ。Real-eyes曰くI李自身含め4人が初心者であれば妥当な依頼らしい。
「悪りぃ。ちょっと調子乗ったわ。オレ、初外だからアガるわ」
「そうね、初めて外に出たときはあたしも感動した。今はもう慣れちゃったけど」
TAKE-THR3Eはどこか懐かしむような表情を浮かべた。
「スリーちゃん、だめよ。若さの秘訣は心が老けないことなの♡あんまり懐かしんでいると見た目までオバサンになるわよ」
「そうね、考えておくわ。女の子の悩みはこの際後回しにしましょう。まずはソーラーの花びらを採集するわよ」
TAKE THR3Eはオレたちを先導するように歩き出した。
「あら、なりゆきのチームって言ってたけどあなたたち結構仲いいのね」
「まぁ、原因不明だけど仲はいいね」
チルアウトは照れたように笑った。
「あたしたちの中心はリンゴくんだもの。リンゴくんの人柄に集まってるってことよね」
「そうか? 広告塔してた時はそんなガラじゃなかったぜ? TAKE THR3Eの方がリーダーシップはあるだろ?」
「それは違うじゃん。モーン姐さんはリーダーじゃなくて姐さんじゃん」
「あーそうか」
オレは納得して頷いた。
「でも、お兄ちゃん最近楽しそう。仕事してなくて大変だけど、お兄ちゃん最近笑ってるよね」
「そうなのか?」
「うん。わたしお兄ちゃんが楽しそうにしてるの見ると嬉しいから」
チェリーはそう言って微笑んだ。
オレは妹であるチェリーの前ではいつも気丈に振舞っていた。
でも、それでもこうして心配をかけていたんだな。申し訳ない気持ちになると同時に、その優しさに温かい気持ちになった。
「二人は仲がいいのね♡」
「うん、だって兄妹ですから」
なんだか少しこそばゆい。でもあったけえなぁ。オレは照れ隠しで咳払いをして誤魔化した。
茂みの奥から誰かが言い合いをしている声が聞こえる。
「お嬢様、ちょっと休憩にしませんか?」
「あら、どうしたのサイラス・セバスト」
「お嬢様。やはり、エデンの外で探索するのは無理があります。いったん戻った方がいいかと……」
「じゃあ、守って。ゆっとくけどウチは引かないから」
「僕も無理はよくないと思うよ」
「RAPID-BOY!何言っちゃってるわけ? ウチは大丈夫なの!」
茂みの奥を覗いてみる。一人は鋭角的ツインテール。鮮やかなショッキングピンクのゆるく巻かれた髪。ゴスロリの服。
アリスだった。あとの二人は三日月茶会のメンバーだろう。
「げっ。アリスかよ。Real-eyes、オレら顔出したらヤバくね?」
「んじゃ、また逃げる? チュドーンって」
「あら何?三日月茶会と仲が悪いの? あなたたち」
「だって。アリスってヤツ、性格ヤバいじゃん。なんか上からだし、偉そうだし」
オレもアリスは正直言って苦手だ。なんか鼻につくんだよな。
「そこの茂みのところに誰かいますね。出てこないのなら、こちらからいきますよ」
三日月茶会の一人が短剣を持って茂みに向かって歩いてくる。執事服、アスコットタイ、シルクハット。シルクハットから蒸気が上がっている。
「ウェイウェイ!タンマ。オイラたち怪しいヤツじゃないから」
「じゃあ、手を挙げて茂みからゆっくり10秒数えるうちに出てきてくれる?」
もう一人。白いウサギヘルメットのフェイスシールドには絵文字が浮かぶ。
(`・ω・´)
ラバースーツを着ている。肩にはライフル。小柄だが少年だろうか? こっちは少し怪しんでいる様子だ。
「じゃ、カウントダウンね。10、9……」
オレたちは慌てて茂みから出てきた。
「待ってちょうだい? あたしたちはこの辺りで採取をしているジャンクハンターよ」
TAKE-THR3Eが代表して言う。堂々とした態度。堂々とした口調。こう言った場合は言い切った方が怪しまれないのだ。
「ジャンクハンター。その言い分は認めたげる」
そう言ってアリスはオレたちを値踏みするように見回した。
「あら♡RAPID-BOYちゃんじゃない。元気してたぁ?」
「えっ? I李さん!?」
Σ(゜Д゜)
RAPID-BOYのウサギメットに驚いた顔文字が浮かぶ。
「あら、そのうさちゃんメットはうまく機能しているみたいね。役に立ってるかしら?」
本人の表情がヘルメットに反映される仕組みらしい。
「はい、おかげさまで!」
「それは良かったわ♡」
I李がRAPID-BOYに微笑んだ。
「はぁ? ウチにもわかるように説明して」
「I李さんは僕のメットの製作者なんだ。お世話になっている大切な人だよ」
「ねえ、何勝手にお世話になってるわけ? バカなの!?」
「えっと〜」
「アリスお嬢様、そこは怒るところではありません。お世話になっているならお礼を申し上げるべきです」
「はあ?なんでウチが頭下げなきゃイケナイわけぇ?」
アリスは不満げに眉をひそめた。
「申し訳ありません、I李様。飛んだご無礼を。お嬢様はクズ中のクズでございまして、私の方からキツく言っておきますので」
「サイラスさん、あなたも大変そうね♡」
「ウチだけに感謝しなチビウサギ。ヨソ様から恩を着せられるとか絶許よ」
アリスはウサギメットの耳を乱暴に掴んで引っ張る。
「アリス、痛いってば!」
「アリスお嬢様、おやめ下さい。彼はお人形ではないのですよ。耳が取れてしまいます」
「セバスト、ウチはRAID-BOYがどーしても欲しいワケ。相手の欲しいもので頬を叩けば一発よオーライ?」
「財力でなんでも手に入るという考えはおやめください。バカがバレます。お金をお渡ししてジャンクハンターとして同行をお願いするのにも限度が……」
「サイラスさん、そのことなんだけど……。僕今日いっぱいで本当に終わりにしようかなって考えてるんだ」
「おい!なんでそんなこと言うの? あっ、わかった。コイツについていくつもりなんでしょ」
アリスは人形を操ってI李に殴りかかろうとする。
オレは咄嗟に飛び出してアリスの人形とI李の間に立ち塞がった。
「はぁ、邪魔! マジどけくそガキ!」
「オイ、やめろ! なにすんだ!?」
アリスは鋭い目つきでオレを睨む。
「は? 決まってるし! 邪魔者を私刑にすんの! って、オタクさぁ。ウチのトラムを壊そうとした電撃ヤローか?」
「ちっ、覚えてたのかよ」
「当たり前。ウチのB地区を勝手に荒らして何様のつもりなわけ?」
「それからもう一人。おい、ホバボヤロー」
「あっ、オイラもバレちゃったか。ちぇー」
「オタクらガン首揃えてウチの前に現れるとか、ヤられに来てんの?」
そう言ってアリスが人形を地面に置く。すると二つの人形は立ち上がった。
「お嬢様、今回は止めません。オトシマエをつけさせるのもレールギャングとして大切なことですから」
「分かってるっつの。ウチお姉さんだし。オトシマエなんてラクショー」
アリスは人形を動かしオレたちに襲い掛かってきた。人形の拳がオレたちに向かってくる。
オレは人形からの攻撃を交わしきれなかった。だが……。
人形はトラムの結界に阻まれ、弾かれて動かなくなった。
「はぁ、オタクらレールギャングなワケ?」
「あたしたちはサンクチュアリ。新興のレールギャングでE地区をシマにしてるの」
「ちょっと!」
アリスが飛びかかろうとしていたのをサイラスが制していた。
「アリスお嬢様、状況が変わりました。落ち着いてください」
「オタクらなんでレールギャングなわけ? ウェルプレイドしなきゃじゃない」
アリスはサイラスに抑えられながらこっちを睨み付ける。
「ウェルプレイド? TAKE-THR3Eどういう意味か分かるか?」
「ウェルプレイドっていうのはトラムのシステムに則った抗争ゲームってところね。レールギャングの各チームが進化の可能性を掛けて戦うの」
「リンゴ様、レールギャングの私闘はシステムで禁じられております。ですので、それでアリスお嬢様の攻撃が弾かれたのです」
アリスは人形を拾い上げると腰に下げた。
「ふん、こいつら全員血祭りにあげてやるつもりだったのに」
アリスはオレたちに向かって悪態をつくと踵を返して歩き始めた。
「サイラス! ウチは帰る! 後でウェルプレイド申請するから!」
「かしこまりました。お嬢様の仰せのままに」
アリスとサイラスはオレたちの前から立ち去っていった。
「はぁ、なんだったんだあのアリスって女……」
「まあ、とことん変な人だったよね」
チルアウトがやれやれと言った表情で首を横に振る。
「なあ、RAPID-BOY。オレの顔に何かついてるか?」
「ああ、いや。なんでもないよ」
RAPID-BOYにずっと見つめられている様な気がしたのだ。
「RAPID-BOY様参りますよ」
「うん、わかったよ」
RAPID-BOYはサイラスに呼ばれたのに答えると、「リンゴくん、またね」と言って駆けて行った。




