10話 SANCTUARY: RAINBOW under the FLAG
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「あたしから乾杯しようって言ったけどまだやることはあるのよ」
「まだあるんですか?」
TAKE-THR3Eはチェリーのグラスに水を注ぐ。
「そ、あたしたちはレールギャングだもの旗印がいるでしょ?」
「あ、そっか!でもさ、このメンツで絵を描けるヤツいる?」
Real-eyesが全員を見回した。確かに、このメンバーで絵心があるヤツはいない気がする。まあ、オレことリンゴ・ロックスターはストリートアートパフォーマーだからな。ここはオレの出番だろ。
「あの……。私、描いてみますね」
チェリーがおずおずと手を挙げる。
「チェリーちゃんが描いてくれるの?」
「はい、ちょっとだけなら……」
そう言って、チェリーは絵を描き始めた。髪に色鉛筆。どうだろう。アイツあんまし絵心なかった気がすんだよな。
まぁ、あんまり期待せずに待ってみるか。
チェリーは一生懸命に絵を描き上げた。チェリーが見せてくれた絵は……。
「何これ? マンボウ?」
「いいえ、これはクラゲね」
Real-eyesとTAKE-THR3Eが口々にそう言った。確かにオレもそう思った。これはどう見てもクラゲにしか見えない……。
「あの、これは鳥さんです。チーム名がサンクチュアリなのでいいかなって思って」
「う〜ん」
みんなの渋い顔。
「フラッグに使うにはちょっとアレだけど……なかなか前衛的だと思うわ」
「他のヤツはどうなんだ?オレはこんな感じだ」
タイトルはサンクチュアリ。オレのハートを込めた自信作だ。
「え、なにこれ? オイラさっぱり理解できないんだけど。チルは分かる?」
「うーん。僕も理解できない。何か形容し難い雰囲気の幾何学模様が描かれているけど」
「はぁ? なんでだよ。ここのくびれてる感じとか色っぽくてめっちゃサンクチュアリっぽいじゃねえか。ここのトガってるトコだって」
「そもそもさ、これ何を書いたの? サンクチュアリーって目で見えないじゃん」
「はぁ? 目じゃなくて心で見ろよ」
「いやいや、マジの意味で前衛芸術なんだってこれ」
「素敵だと思うけど、シンボルとして使うにはちょっと意味わかんないわね。一発でサンクチュアリってわかるものがいいもの」
「じゃあ、次は誰だ?」
「仕方ないね。まあ、僕は絵は得意な方だよ」
そう言ったのはチルアウトだった。さっきから会話に入ってこなかったのはどうやら絵を描いていたかららしい。
「では、見せていただきましょうか」
「僕の絵もいい線いってる」
そう言いながらチルアウトはスケッチブックをめくって見せた。
そこに描かれていたのは……。
「精密に書き込まれた天使の絵だった。確かにこいつは芸術的だ」
「本当に上手ね」
「なあ、けどなんで体が解体されてるんだ?」
「それはもちろん。解剖図だからだよ」
「え、解剖図?」
「まぁ、僕にかかれば解剖図の一枚や二枚朝飯前だからね」
「ヤバっ! チルアウトが解剖図とかベストマッチすぎじゃん。お腹いてぇ」
Real-eyesはゲラゲラ笑っている。
「いやいや。そもそもなんで解剖させてんだよ。ちゃんと体の中身しまっとけよ」
「無理だよ。僕は解剖されてない人の描き方が分からないんだ」
「それはそれで芸術的だけど、フラッグに使うにはちょっとグロいわね」
「そうかな? 僕はこれが一番サンクチュアリーって感じがするんだけどな」
「いやいや、サンクチュアリーって聖なる場所だろ。解剖された天使が聖なる場所ってどういうことだよ」
「まぁ、僕は天才だから……」
「天才だからが免罪符になると思うなよ」
と、オレの突っ込み。
「これはもう誰か知り合いに頼んだ方がいいレベルね。みんな旗に描く絵には向いてないもの」
「やっぱり僕の芸術は理解されないか……」
チルアウトがガックリと肩を落とす。
「あたしは描かないわよ。無駄なことはしない主義なの」
「オイラも別にいいかなー。ホバボと電気があればおけまるじゃん」
まぁ、このメンツじゃ芸術が分かるヤツなんてオレしかいないしな。つってもボツられたんだけどさ。一応オレこれでメシ食ってたんだぜ?
「オレらで描かないなら誰か知り合いに頼むしかないな」
「オイラの知り合いで絵が上手いヤツいるんだけど早速頼んでみるわ」
Real-eyesはそう言うと端末を取り出して番号を打ち込んだ。
「あっ、しもしも。オイラじゃん!」
Real-eyesの軽い口調。
「うん、そう。実はさ。新しい旗作りたいんだよね。うん、そうそう。じゃあさ、旗のデザインってできる?うん、あーなるほど。へぇ〜そういう感じなんだ。分かった。ありがとね」
Real-eyesはそう言うと電話を切った。
「OKいただきましたー。最高じゃん。マジオイラ奮闘だわ。みんなに会いたい感じだからここに呼び出した」
Real-eyesがそう言うと、店のドアが開いて20代くらいの若者が入って来た。
「はぁい♡あなたたちが新しいチームのメンバーね」
そう言いながら、その人はオレらを見てウインクした。
「あんたが絵描きのI李さん?」
「ア、イ、リーよ。よろしく〜♡」
そう言ってI李さんはオレに握手を求めてきた。
よろしくな。どうやら背中で大きな歯車が回っておりサイボーグのようだ。厚い化粧、ラメ入りの虹色のジャケット、大きなピアス、バンダナ。見た目はかなり派手で女性的だ。
「ゆっとくけど、絵描きはわたしの本業じゃないのよ」
「え、そうなんですか?」
「そう。わたしはジャンク屋でぇ、Real-eyes坊やみたいなジャンクハンターからパーツを買ってるの」
「Real-eyes坊や?」
「そうそう。オイラのこと。オイラとI李さんってめっちゃ仲良しじゃん」
Real-eyesがそう言った。
「I李さんはオイラのボディメンテもやってくれるじゃん。すごい器用で塗装とかもやってくれるし」
I李は得意げに微笑んでいる。
「じゃん。ホバボの裏っかわの絵もI李さんのデザインなんだよ」
Real-eyesがホバボを取り出してI李の描いた絵をみんなに見せた。そこには美しい虹。すごく細かく描かれていた。
「そうなの♡ この虹はねぇ、わたしみたいなロボットジェンダーにとってシンボルみたいなものなのよ」
I李がうっとりとした表情でそう言った。
ロボットジェンダー。この時代のマイノリティの一つだ。彼らは人間ではなくロボットとしての性を持つと考えている。この時代においてはジェンダーは旧時代よりももっと複雑。性別が入れ替わる生物や性別のない生物の遺伝子を持つミュータントもいるしな。
「まあ、それぞれの事例においてはごく少数派でもセクシャルマイノリティの人口は4割にも達するかも知れないって言われているからね」
チルアウトは顎に手を当てた。どうやらI李は自分の事をロボットという性別だと思っているみたいだな。見た目上機械のパーツが少ないロボットジェンダーの人もいる。ロボットだと思っているからと言って感情希薄って考えるのはやめるべきだ。
「あの、虹はどういう意味なんですか?」
チェリーが尋ねる。
「ええ、それはね……。いろんな人がいていいわよって意味よ」
「いろんなひと……?」
「そう。個性はとても素晴らしいもの。でもね、人間はみんな同じじゃないから個性がぶつかり合う。だから争いが起こってしまうの。でも、同じじゃないって素敵なことなのよ。他人と自分は違うってことを肯定的に受け入れなきゃね」
I李はそう言うと優しく微笑んだ。
「なるほど……なんか深いですね」
「まぁ、仲間はずれはよくないってことだよ」
チェリーも納得したのか頷いている。
「オレらも虹みたくフリーダムで多様性のあるチームで行きてぇわ」
オレがそう言うと、Real-eyesとチェリーが頷いた。
「でも私は虹を描く気はないわ。これはわたしたちのシンボルで、あなたたちに背負わせる気はないもの」
オレは思わず、「そうか」と言って目を伏せた。
「だから、あなたたちの信念を見せてちょうだい」
「オレたちの信念……?」
「ええ、そうよ。あなたたちが信じるもの、絆それから……愛。そう言ったものをあなたたちの旗印に込めたいの」
「絆……愛……?」
I李の言ったことが理解できず、オレらは呆然としてしまった。
「そう、あなたたちの信念。それがあればきっと素敵な旗が作れると思うのよね」
そう言ってI李はふふっと笑った。
「だから、私を連れて冒険に行ってもらうわよ。エデンの外へ」
I李はそう言うと、オレに向かって微笑んだ。
「わかった。そんな遠いとこまでは無理だぜ?身近な所からで……みんなもそれでいいよな」
オレがそう言うと、みんな頷いてくれた。
「異議はないよ。みんながいれば大丈夫じゃないかな」
「I李さんもオイラたちと一緒に行こうぜ!」
「まぁ、いいんじゃないかな」
「チェリーもいいよな?」
「うん、もちろん」
こうしてオレたちサンクチュアリはI李と一緒にエデンの外へと冒険することになった。
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「紡糸姫の夢」アリス・ヴィヴィッド キャラクターソング
[verse 1]
レースの国の紡糸姫
指先から紡ぎだす運命の糸
白い部屋に閉じ込められた
歪んだ鏡の中 笑う私
[chorus]
La la la... 紡ぐわけぇ
綺麗な嘘で塗り固めた世界
La la la... 編むわけぇ
壊れた人形たちの未来を
[verse 2]
アリスの名を借りた私は
不思議の国に迷い込んだフリ
白ウサギを追いかけるフリ
指先から零れる赤い糸
[chorus]
La la la... 紡ぐわけぇ
綺麗な嘘で塗り固めた世界
La la la... 編むわけぇ
壊れた人形たちの未来を
[bridge]
ねえ、私の糸で縫い止めて
壊れかけた心のほつれを
ドレスの裾を引きずりながら
歩み続ける 終わりなき夜道を
[verse 3]
紡糸姫の夢は覚めない
指先から溢れる黒い糸
白い部屋を染め上げていく
歪んだ鏡の中 踊る私
[chorus]
La la la... 紡ぐわけぇ
綺麗な嘘で塗り固めた世界
La la la... 編むわけぇ
壊れた人形たちの未来を
[outro]
紡糸姫の夢は覚めない
永遠に紡ぎ続ける...




