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【短編】シリーズじゃないシリーズ

婚約者が留学から5年帰って来ないのだが

作者: 千東風子



 

 1年、という話で隣国に留学した婚約者。

 それが、更に1年、もう1年、トドメに2年伸ばして、一時帰国もしない。


 うん、これはもう婚約関係の消滅を狙っているんだろうな。

 家同士も本人同士もそんなに悪い関係じゃなかったと思っていたんだがなぁ。

 最後の方はもう諦めというか、ここまであからさまだと、いっそ清々しいというか。


 というわけで、こちらから申し出て、円満に婚約を解消したのだが。


 なんでこうなった???


「う゛あ゛あ゛あ゛~っ!!」


 現在、鼻水と涎まみれになりながら泣きじゃくる元婚約者にしがみつかれている。……この服を洗濯するメイドに申し訳ないな。ぐしょぐしょだ。


「どおじでー!? なん゛でぇ!?」


 鬼気迫る顔で突然訪問してきた元婚約者は、自分を見るなり号泣し「なんでどうして」と繰り返した。


 いや、なんで? って、なんで? もう帰ってくる気、無かったよな? 1年って言って5年も留学して、婚約関係を大事にしなかったのはそちらだ。

 そう言うと、この世の絶望を集めたかのような顔をして、呆然と「違う」と首を振って続けた。


「だって、言われた……。5歳も年下で、このままじゃいつまでも子ども扱いだって。しばらく会わずに、大人になって、意識させてからが勝負だって……っ!!」


 ははぁ。同級生とか、どっかの誰かに適当に焚きつけられたのを本気にしたと。

 それで5年? ……あほくさ。


「で? 今のこの状態がお前の言う『大人』なのか?」


 ぐっ、と言葉に詰まって更にえぐえぐ泣き出した。


「私はお前の泣き虫なところも愛でていたつもりなんだがなぁ」


 8歳の男の子に真っ赤な顔で半分泣きながら求婚されたのは13歳の夏。

 本当は別の婚約がまとまりかけていたが、潤んだ目に射貫かれた。


 12歳で留学し、5年も距離を置かれて。

 国境を守るこの地から離れられずに隣国まで会いに行くことも叶わず。


 17歳の青年は、広い世界を知ったのだろうと、諦めた。

 もう心に蓋をしてしまったのだ。


 武人の家系とは言え、武骨な自分にはこの先伴侶は見つからないかもしれない。領民からは鬼姫とか言われてるしな。

 それでも。

 愛しい人が旅立つのならば、と、手を離した。


 まあ、すぐさま帰国した元婚約者が何を思ったか、再度婚約をグイグイせまって来ることになるなんて思いもしなかったが。


 私の閉じた心の蓋をこじ開けるのに5年くらいかけてもらおうか、なんて思っている時点でとっくに開いているのか、と自分に呆れたのは内緒だ。




読んでくださり、ありがとうございました。



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