後日譚
「ちょ~~っといいかな、シスターハルカちゃん?」
ドカッ!!
俺はシスターハルカに向かって、足で壁ドンをした。
正確に言えば、書類ロッカーに向かって、だが。
教団本部でのシスターハルカとの出会いから一週間後、俺様こと多島勝利は資料室で待ち伏せをしていた。
尾行を続けること数日、彼女がほぼ一日置きにこの部屋に一人で来ることを突き止めたのだ。
「な、なな、なんのご用ですか、勝利様」
無人かと思われた資料室の中で、しかもこんなセクハラまがいのことをされて、シスターハルカは、ロッカーに背中側からべったりと張り付いた。
シスターハルカは、いまの自分の状態に何か既視感を覚えていたことだろう。
「なあ……、シスターハルカ? こんなこと、俺にした覚えないかなあ?」
「い、いえ、ぞぞ、ぞん、存じませんが……」
俺はシスターハルカの胸ぐらを掴んで、ぐっと顔を近づけた。
シスターハルカは必死に下を向いて俺を見ないようにしている。
「こーんなことも、した記憶ねえかなあ~?」
「あ、ありません……」
俺はシスターハルカの胸ぐらから手を離すと、今度は顎を掴んで、ぐいと上を向かせた。
「俺を見ろ。ハルカ。目をつぶってもダメだ。見ろ。じゃないと口では言えないようなことをしてやるぞ」
シスターハルカは数センチ飛び上がると、怯えながら俺の目を見た。
「こ、こうで、よろしい……ですか。勝利、サマ」
ここまでドSキャラで通してきた俺だったが――。
死ぬほど切ない声で、シスターハルカに語りかけた。
「もう、とぼけなくても、いいだろ……ハルカ。怒ってないから」
「……思い出しちゃったんだ。せっかく消したのに」
「思い出させたくなかったら、なんで俺の前に現れたんだ」
「私のこと、忘れててもいいから、キミのそばにいたかった。それじゃあ、理由にならないかな?」
シスターハルカ――遙香は苦笑した。
「汝の罪を許す……まえに、いろいろお仕置きをしないとなあ。なにせ、俺がお前を思い出すジャマをしてくれちゃったわけだしな?」
俺は、とびきり邪悪な笑みを浮かべた。
「ごめん……でも、あの時は」
「言わなくていい。お前も苦渋の決断をした。それは分かっている。だから、もう」
遙香の唇を、そっと自分の唇で塞いだ。
遙香は俺の首に腕を絡め、目を閉じた。
長い口づけのあと、俺は遙香の腕をほどいた。
「ちょっと待ってな」
「う、うん……」
俺は司祭服のポケットから携帯を取り出し、電話をかけた。
「あ、多島です。あの……シスターハルカ、午後は半休ということで」
「え?」
「ちょっと手伝ってもらいたいことがあるんで、はい、申し訳ないんですが、そういうことで、じゃあ」
俺は電話を切った。
「ちょっと、ショウくんどこ掛けたの」
「キミの職場。じゃ、行こうか」
俺はいきなり遙香を抱き上げた。
「や、ちょっと、なに、どこ行くの」
「――お仕置き部屋」
それだけ言うと、俺は遙香を抱いたまま、一目散に自分の部屋へと走っていったとさ。
(おしまい)