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【6】さよなら、わたしの天使 2

 逢魔が時、とは誰が言ったのか。 


 闇の力を得て、奴らが息を吹き返す。

 それは、此の世の異形も、異界獣も、同じであった。



     ☆☆☆



 刻一刻と太陽は沈み、曇天の切れ間を真っ赤に染めていく。

 垂直に垂れた、橋を吊るロープや、橋の上層に点々と放置された自動車などが、路面に長い影を描く。

 異界獣の力を奪っていた陽光が消え失せれば、形勢逆転となる。


 ――急がなきゃ。

 教団屈指の異界獣ハンター、有翼の少年、多島勝利は今、時間と戦っていた。


 橋の上層で人肉や同類の肉を喰らい、歩き回っている連中は、ある程度紫外線に耐性を持つ、比較的大きめの連中だ。


 しかし完全に日が落ちてしまえば、下層に潜む小さな連中が一気に上層へと這い上がってしまう。

 共食いは、近くで発生すると連鎖反応を起こす。加速すれば、手のひらサイズの異界獣があっという間に、牛や馬程度の大きさに育ってしまう。

 種類にもよるが、人を超える大きさの異界獣は、倒す難易度が格段に上がる。大量の中型、大型異界獣が相手では、さすがの勝利でも苦戦は必至である。



「こちら勝利、観光バスに到着した。焼いてもいいか」

『A班だ。念のため、生存者の確認だけしてほしい』


 さきほど乗り越えてきた、橋の起点付近にいた連中だ。


(ちッ、めんどくせえな。食われてるに決まってんだろ。何年やってんだ)


「時間ねえんだよ。ったく……。りょーかい。ま、期待すんなよ」


 俺は重装備を物ともせず、一飛びで横転したバスの上に飛び乗った。

 中身を見る前から分かっている。

 ここには死臭しかないことを。


「あー、生きてる人、いたら返事してくださーい。いないと思うけど」


 俺は聞き耳を立てた。


 万一生存者がいれば、自分の声に反応して、わずかな呼吸や動きで見つけられる。人ならざる俺だからこそ、出来る芸当だ。

 人間なら大仰な機械でも使わなければ同じことは不可能だ。


「はい、いませんね。つか、腹パンパンにした獣がうようよいますね。じゃー焼きます。みなさん、お疲れ様でした。また来世!」


 俺はコートの胸を少々はだけると、着込んだタクティカルベストから、異界獣用に調整された特殊な手榴弾を数個外し、割れた窓の中にポイポイと放り込み、すぐさま遠くへ飛び降りた。

 その瞬間、背後で大爆発が発生、異界獣を焼き尽くす、青白い炎を吹き上げた。


「あのさー、A班の人、此の期に及んで、生存者なんて気にされても困るんだよね。一体、あんたら何人救いたいの?

 俺は、数百数千を救うために来てるんだ。あんたらは、一人? 十人?

 だったら教団なんてやめちまえ。ここはお花畑の来る所じゃない。悪いが海外ボランティアにでも行ってくれ」


『わ、わかった。君に一任する』

 苦虫を潰したような顔をしているのが、声音から伝わってくる。


 ――チッ。どいつもこいつも。

 渋い顔したいのはこっちの方だよ。



 バスを破壊し、そのまま橋の向こう側へと走っていくと、遠くに終着点が見えてきた。正確には、橋の出口で警察が煌々と、異界獣避けの灯りを焚いているのだ。ないよりはいい。

 乗り捨てられた乗用車の処理が対岸で始まっているようだが、使用している重機に見覚えが。


 ――ありゃ教団の重機じゃないか。


 なるべく危険を冒さない範疇で、警察のフリをした教団関係者が事後処理に動いている。照明器具の手配も恐らくそうだろう。警察にしては手際が良すぎる。


 近寄るにつれ、点々と異界獣の死骸が落ちている。処理出来る範疇のものは、対岸の部隊がこっそり駆除していたようだ。


 俺の接近に気付いたのか、対岸から車の間を縫ってバイクが接近してきた。警官を装っているが、恐らく教団の人間だろう。

 平然と異界獣の死体を踏みつぶしながら走ってくる。そして俺の目の前でバイクが止まった。

 やはりそうだ、警察にはない武器を装備している。二十代半ばほど、精悍な容貌の青年がヘルメットのバイザーを上げて話しかけてきた。


「勝利様、伝令に参りました。チャンネルを」

「ああ」


 現場では強力な電波障害を発生させているため、教団の無線機以外ほとんど使い物にならない。橋のあちらとこちらで共通チャンネルを開き、連絡を取り合おうという算段のようだ。


「ここから先はどうなっている? 橋の下層は?」


「は、Sサイズ、Mサイズまでは駆除済み、下層もこちらから三分の一ぐらいまでは駆除済みです。半分ぐらいはブロワで川に落としましたが、おおむね溶けている頃でしょう」


「なるほど、考えたな……。あったまいーい」


 偽装警官は、テヘっと可愛く笑った。


 ――となると。


「そっちは照明の使用を続行、ただし深追いする必要はない。みんなこちらに集めてしまうから。もし援軍を寄越すなら、船を使ってこちらの内陸側に。かなり疲弊している、負傷者も多い」


「了解しました。では!」

 笑顔がキュートな青年は、バイクを駆って元の方向へと去って行った。

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