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【4】終わりの始まり 4

「状況はどうなってる!?」

 教会に着くと、俺は作戦室と化した娯楽室のドアを開けて怒鳴った。


 タケノコたちは安全のため、シェルター代わりの礼拝堂に押し込んできたが、遙香だけは、俺についていくと言ってきかなかった。


「ああッ、ショウくんさん! ドえらいことにッ」

 フル武装のアンジェリカが半泣きで駆け寄ってきた。


「橋だろ。ハンパには聞いてるけど――」

「あっちに映像が届いてます。……撮影者は戦死しましたが」

「わかった。俺の装備出してきてくれ」

「でもッ! 私にはそんなこと出来ません。姐さんに殺されます」


 俺はチッ、と舌打ちをした。


 アンジェリカは背後で指揮を執っているシスターベロニカをチラと見ると、小声で話し始めた。


「あの橋……かなりマズイです。何を考えてか込み入った上下二重構造で、上は道路、下は鉄道と通信ケーブル等のインフラが通っています。獣たちは道路の下側、つまり下の階の天井の暗がりに貼りついて増殖してしまったんです」


「誰だよそんなバカなもん作ったヤツは……」


「しらんがな、ですよ。で、補充部隊が撃ち漏らした連中が、川に近い高速高架下とか橋の下に集まってしまって共食いを……。

 油断したわけではないのですが、なにせあの人手不足です。水辺に近いエリアを後回しにしていたら、こんな大変なことに……」


 後ろで聞いていた遙香が首を突っ込んできた。


「あの橋が出来たの割と最近なの。きっと前回異界獣が沸いたときのこと、覚えてる人がいなかったのかもしれない……」


「うああ……最悪だあ」

 俺は頭を抱えた。


 俺は橋で撮影された映像を見て、

「もうこれ橋落としちゃえば、だろ」


「言わんとすることも分かる。だが丈夫過ぎて現状の装備では火力が足りない」

 シスターベロニカが小さく頭を振る。


「なによそれ。教団なにやってたんだ」


「……私にもわからん。きっと古い方の橋のデータしか本部になかったのだろう。作り替えられた後、強度が増した分の装備が送られて来なかったのが、現実だ」


「……で、念のために聞いてみるけど、応援は?」


 シスターベロニカはまた首を振った。


「だろうな。じゃ、軍は。橋落とすぐらい手伝ってくれるでしょ?」


「それも無理だ。警察ががんばって向こう側を封鎖してくれているが、それ以上は無理だ。そして、橋のこちら側は妨害電波やケーブルの通信遮断で情報封鎖をしているが、さすがに軍を出してしまうと一切合切が明るみに出てしまう……。

 我々だけでどうにかするしかない」


「そんで……此の期に及んで、まだ俺を出す気がないわけ?」

「ああ。死んでも出す気はない」

「バカだろ」

「かもな。だが、連中と差し違えてでも仕事はやり通す。そして、お前を護る」

「本気でバカだろッ! なんだよそれ、罪滅ぼしのつもりかよ!」


 室内がしんと静まりかえった。

 皆が俺を見ている。


「俺には、俺にはここで指を咥えて見てろってのかよ? あといくらもせずに日が落ちる。そしたら、今の戦力で止められるヤツはもういなくなるんだぞ!」


「そうかもしれない。橋を落とさないまでも、やつらの数を減らす方法がないか検討していたところだ。下の段だけでも破壊すれば、多少は水に落とせるかもしれない」


「自分で言ってて、その作戦どう思うわけさ」


「正直呆れている。軍にいた時なら、撤退命令を出している。だが、ここは日本で、我々は教団の傭兵だ。……立場が違いすぎる」


 二人の間にしばしの沈黙が流れた。


「橋のデータを。あるんだろ」

 先に口を開いたのは俺だった。


「ダメだ。絶対ダメだ」

「ただでさえ複雑な構造で、今は車だのなんだのでぐちゃぐちゃになってる。データなしでこの状況ひっくり返せると思ってんの?」

「……そんなことをしたら、今度こそお前は」

「なんだよ」


「私は医者ではないから、何が起こるのか正直よく分からない。だが、さらにひどい記憶障害が発生するのは間違いない……」


「結局、俺一人のことなんでしょ。だったら気にする必要はない」


 後ろで黙って聞いていた遙香が、俺の腕をぎゅっと掴んだ。


「行きたいんだよね? ショウくん」

「ああ。ごめん、ハルカ……」

「いいよ。いっといでよ。それがキミの住む世界だっていうんなら、私は止めない」


「遙香ちゃん、君はそれでいいのか?」

 シスターベロニカが訊いた。


「ショウくんの行きたい場所が、ショウくんの生きる場所だと思うから、だから、好きにさせてあげたいんです」


「ハルカ……」


 こいつは俺の心が読めるのか、と驚いた。つい昨晩、アンジェと話したことに似ていたからだ。


「大丈夫、私のこと忘れても、写真があればまた思い出せるよ。だから、行きなさい、勝利。この街を護って」


「ああ。必ず思い出すよ、お前のことも、俺のことも――」


 俺達はは人目も(はばか)らず、強く抱き合った。

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