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【3】終わりの始まり 3

「うりゃあッ!」

 人間二人を抱えたまま、俺は地上四階の踊り場から飛び降り、着地した。


 じいいいいいいいいいいいいん……。


「い、いたい…………ううううううんっ」


 二人を降ろすと同時に、俺は激しい足の痛みで転がりのたうち回った。


「だ、大丈夫? ショウくん」

「いいから、お前等靴履き替えてこい。で、俺のも持ってきて……」


「わ、わかった!」

 遙香は弾かれたように走り出した。


 事態を把握出来ないタケノコは、その場で呆けていた。


「おら、お前も!」

 は寝転がりながらタケノコのスネを蹴った。


「あ、はい!」

 タケノコは遙香の後を追って、バタバタ走り出した。


「ふううううういいいいいいい、いってえええええ……」

 俺は芋虫のように体を丸めて、痛みに耐えていた。

「失敗した……。これ上履きだったわ。仕事用のブーツならここまでは……」



 遙香とタケノコが下駄箱から戻ってくる頃には、俺の足も復活していた。


「お、おかえり……つつつ……」

「はい、靴。立てるの?」

「ああ、なんとか。んじゃ、行くぞ」

「肩貸すっす兄貴」

「あんがと」


 三人が校門へ向かうと、次々と生徒達が下校していく。


「まだ昼間なのにどうして……」と遙香。

「今日は曇りだし、出没してる場所もなんか暗そうな所が多い気がする」

「あの化け物って、夜に出るんスか」


「連中は紫外線を嫌うから、夜に出歩くんだ。だが、あんまり大きくなると、多少の耐性が出来る。悪天候も相まって、車に悪さしてる連中ははきっと……」


 校門前に止まって乗用車の助手席の窓が開いた。

「坊ちゃん、遅くなってすいやせん! 早く乗って」


 朝と同じく、パンチが顔を出した。

 看板は全て使い尽くしたのか、トランクの蓋はちゃんと閉まっている。

 三人が車の後部座席に乗り込むと、車は急発進した。


「どこに向かってる」

「うちの会社です、兄さん、何か問題でも?」パンチが答えた。

「さっきタケノコの携帯で画像を見たが、橋の方から来たんだよな」


「ええ、あっちゃあ大変なことになってるんで、ちょっと渋滞に巻き込まれて遅くなっちまったんですよ」


「とにかく、一旦教会に向かってくれ」

「ういっす!」パンチの相棒、ロン毛が応えた。


 学校から教会まではそう遠くないものの、最短距離にある大通りが橋に繋がっており、大渋滞の真っ最中だった。車は大きく迂回することを強いられた。


「そんで……あれって一体なんなんすかねえ。さっき橋の上で、観光バスの乗客をバリバリ食ってたあの黒いやつは……」パンチが尋ねた。


「異界獣よ」と遙香。「あいつは、以前パパが追っていたネタ。そして、勝利はあいつを倒すためにこの街に来たのよ」


「おい、バラすなよ遙香」


「オヤジさんが借金したのも、行方不明なのもそのせいなのか」とタケノコ。


 遙香はため息で答えた。


「兄さん、やっぱあんた、タダもんじゃなかったってわけか。俺、聞いたことあるよ。この街に十数年前、たくさん人の死んだ怪異現象があったって……」

 運転中のロン毛が語り始めた。


「おそらくそうだろう。異界獣はおよそ十数年周期で湧き出す。その頃俺はまだガキで、ハンターなんかになっていなかったけどな」

 俺は脇のホルスターから銃を取り出し、マガジンの中身を確認した。


「まさか、おじさんの死因ってそれだったのか?」タケノコが訊いた。


「あんな惨い死に方をしたマサタカさんに坊ちゃんを会せるわけにいかなくて、ずいぶん泣かれた記憶があります」


「坊ちゃん、マサタカさんに懐いていたからなあ。まさかあれが……」

 ロン毛とパンチの二人は、昔を思い出してしんみりしていた。


「実際、橋はどうなのさ」

 俺はリアウィンドウから橋の方を見ながら尋ねた。


 スキール音を鳴らしながら、ロン毛がカーブを大きく曲がっていく。路肩に止まった車を避けるためだった。

 すれ違いざまに見ると、何かに追突したわけでもないのに、フロントガラスの内側が真っ赤に染まっていた。


「橋の真ん中あたりで観光バスが横転、ああ、さっきの写真のやつです。それが道をかなり塞いでる格好で、一車線だけ通れそうなんだけど車を放り出してったヤツが結構いたから、それをどかさないと……。今はどうなってるわからないっすね」


「これだけの事件なのに、全くニュースになってないぞ。どうなってんだよぉ……」

「それは報道規制だ、タケノコ。見ろ、報道ヘリも飛んでいない」

「ほんとだ……」


「みんなグルで、あの化け物のことを全力で隠蔽してるんだ。そして、人知れずあいつらを退治して回ってるのが、俺たち『教団』だ……」




 ――五人を乗せた車が教会に着く頃には、街の死者は倍になっていた。

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