【14】天使の課外活動 4
普通の生活ってなんだろう?
普通の生活ってどんなだろう?
☆
「……んでさ、何でアンジェリカがついてくんのさ?」
放課後、ファーストフード店の前で俺は毒づいた。
「いいじゃありませんか、みなさんの飲食代は教団で負担するんですから」
一緒にいた遙香と竹野が顔を見合わせた。
「やっぱあれっすか。兄貴のボディーガードとか……」
「察しがいいですね竹野君、その通りです。彼はまだ先日の鉄砲玉から受けた傷が癒えておりません。学校外では私がお守りせよと姐さんより仰せつかっております」
(半分合ってて半分間違ってる……)
ドヤ顔のアンジェを見て、うんざりした。
「……とかなんとか言って、期間限定のシェイクが飲みたかっただけじゃないのか? きのう食堂のテレビで見てたの俺知ってんぞ」
「はぁ? 何言ってんだコラ、ショウくんさん?」
思わぬ身内の暴露に、俺を睨むアンジェ。
「んだコラ、ママンに言いつけるぞアンジェ」
「は、はわわぁぁぁッ」
彼女が敬愛する、シスターベロニカの存在をチラつかされ、アンジェリカは狼狽した。
「そ、それだけは、それだけはあぁぁ」
二人の漫才を傍観していた遙香がしびれを切らした。
「ねー早く入ろうよー。席埋まっちゃうよ?」
「俺、地下の席押さえときますよ。えっと俺の注文はこれで。ドリンクはコーラ」
タケノコはポケットからクシャクシャのクーポン券を出した。
「はい、お預かりします竹野さん」
アンジェは仰々しくタケノコのクーポンを受け取った。
☆
アンジェとタケノコ、そしてハルカ。
三人が、ドリンクやポテトを脇にどけ、俺がデジカメで撮影した写真を見て談笑している。
とても楽しそうだった。アンジェリカまでも。
それを俺は、向かいの客席からぼーっと眺めていた。
――これが、普通ってこと?
でも何故か、自分はそこに入っちゃいけない気がしている。
入ろうと思えば入れる。だけど、その振る舞いはシミュレーション、脳内エミュレータで作り上げた、擬似的な若者の行動でしかない。
そんな嘘をまとってまで彼等に混ざろうとするのは、己の倫理に照らしても不誠実だという回答が出てくる。
サシで遊ぶのには慣れている。
休暇中は、シスターベロニカと親子水入らず、温泉や観光地などで過ごしているのだから。
だけど、複数での楽しみ方がいまひとつ分からない。
どう立ち回ればいいのか分からない。
俺が複数に対応出来るのは、相手が異界獣の時だけだから。
「これから勉強しないと、かな……」
ぽつりとつぶやいた。
「なんか言った? ショウくん」
「なんでもないよ、ハルカ」
☆
夕食の時間に遅れると厨房係に怒られるので、適当に切り上げてファーストフード店を後にした俺たちは、途中の道でタケノコと別れ、遙香を家まで送り届けた。
一文字家から教会へ戻る途中、俺はアンジェに語りかけた。
「なあ、メシの後、俺とデートしない?」
「はぇぇぁッ?!」
「俺、夜の街で写真を撮影したいんだ」
「しゃ、写真ですか……」
「俺が残すべき写真、そして――俺だけが撮れる写真だ」