【12】天使の課外活動 2
監禁三日目。夕方。
晩飯は教会で食べなさいと連絡が来たので、一文字家での滞在は食事前までとなった。
というわけで、遙香が記念撮影をしたいと言い出した。室内を片付け、幕を張り、照明を焚いて、さてどうするのかと思ったら……。
☆
「ショウくん、じゃ、脱いで」
「はい??????」
「はーやーく」
「ちょ、まさか、俺のヌード撮るんか!?」
俺は自分の体を抱き締めて、怯える小動物のような目で遙香を見た。
三脚を立て、でかいカメラを据えた遙香は、獲物を狙うハンターの目をしていた。
――あの晩のように。
「違うわよ。服着てたら、キミ羽を出せないでしょ?」
「え。まあ、これだと専用の穴あいてないから破けるけど……。見たいの?」
「当たり前でしょ。はーやーく。上だけでいいから脱いで」
「じゃ、ちょっとまって」
俺は台所に行くと、キッチンペーパー数枚と濡れタオル、そして、ほうきとちりとりを持ってきた。
「これ、どうするの?」
「すぐ分かるよ」
Tシャツを脱ぎ、自分の周囲を見回すと、俺はう~~んと、いきみはじめた。
「ううう……ぅぅ……」
「え? え? ……大丈夫?」
不安そうに見守る遙香。
「――くッ」
数秒後、部屋は舞い散る羽根、そして俺の広げた大きな翼で満たされた。
「うわあ…………きれい……」
PV撮影のように舞う、純白の羽根を呆然と見つめる遙香。
室内が撮影用照明で照らされているので、羽根自身の放つ燐光は見えない。
「な? ほうきとちりとり要るだろ?」
「バカぁッ、こんな時になに言ってんのよ! ……たく、ムードのないやつ……」
「……なに怒ってんだ。それより、あとこれ」
俺はキッチンペーパーと濡れタオルを差し出した。
「床が汚れる前に、背中を拭いてくれ」
「背中?」
くるりと背中を向けると、翼の生え際から青く血の筋が流れているはず。
遙香は息をのんだ。
「うそ……痛くないの?」
「痛いに決まってんだろ。皮膚破ってんだから。ほら早く拭いてよ」
「う……」
遙香は無言で俺の背中を拭き始めた。
「別に怒ったりしてないから気にするな」
「知らなかった……ごめんなさい……」
「お前のお願いなんだから、聞くに決まってんだろ? それにすぐ治るんだから、気にすることないって。な?」
「うん……」
「それよか、散らばった羽根掃除しろよ。リクエストしたのハルカなんだから」
「…………ごめん」
遙香は俺の背中にすがって、すすり泣きを始めた。
「だーかーらー、大丈夫だって言ってんじゃん。さっさと写真撮れよ」
「ごめん……痛いことさせて……」
「だいたい、お前のためにコレ出すの、三度目なんだぞ。今さらだろ?」
「でも……」
「はーやーくー。メシの時間になっちゃうから、さっさと撮影しろよ」
遙香はぎゅっと俺の腰に抱きついた。
「……ったく。俺、痛みには強いからこのぐらい大丈夫なんだよ」
「そうじゃない。私がショウくんを傷つけたのがイヤなの。……だって三度目なんだよ?」
「……そう、だったかな。あんときゃ骨折だったけど、今日のはかすり傷だ。それに、もーぼちぼち血が止まってきてんだろ?」
「あ、ほんとだ」
――ちゅっ。
遙香が俺の肌にキスをした。
「な、なにしてるの、ハルカさん」
「私の、だよね?」
「うん。……そうだよ」
俺は遙香の手をほどいて振り返ると、彼女を抱き締め、翼で包んだ。
「あの時みたい」
「ああ」
「ん……」
遙香は俺の胸に頬ずりした。
「ホントはこれやって欲しかったんでしょ、ハルちゃん」
「うふ。バレたか。でも写真も撮りたかったのはホントだよ?」
「わかってる。メシの時間になっちゃうから、ほら」
「うん。でも、あと1分だけ……」
「じゃ、5分な。ひんぱんに出し入れするもんでもないから……」
「ありがと……」
「ハルカ。俺こそ、ありがとう」
俺は遙香の髪を撫でながら、幸せなひとときを過ごしていた。