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【11】天使の課外活動

 軟禁三日目。早朝。


 今朝は自分の方が先に起きた。


 家の前をパトカーがサイレンを鳴らしながら通過していったからだ。

 正直言って、補充の人が心配だ。


 まだ俺が駆除していない地域はそこそこあったし、この町に出現した大型異界獣は、群を抜いてヤバいのばっかだ。

 新種までいた。あの電気を喰らうやつだ。


 幸い、俺とシスターベロニカが戦った際のデータは教団に送られているだろうから、他の職員にもフィードバックはされるだろう。だが、人の身でヤツとやり合うのは大仕事だ。


 アンモナイトにしたってそうだ。釣り役が過去何人も喰われている。未だヤツが残っていたら、それはそれで厄介なことには違いない。


 別に自惚れてるわけじゃない。だけど、目の前で死んでいった同胞をたくさん見てきた。だから、ヤバイ獣から俺がやらなきゃ、死ぬヤツが増える。


 貧乏くじだなんて思ったことはない。しんどいと思ったことならある。だけど、ここが俺の居場所だから、そこにいる仲間は、死なせたくない。

 ……あっちがどう思ってるか知らねえけどさ。俺人間じゃないし。


 俺以外の人外が、教団で腫れ物扱いされているのを知らないわけじゃない。

 恐らく俺も死なない化け物、とでも思われてるかもしれない。


 だけど、遥香は違う。

 俺の正体、分かってても、好きでいてくれる。

 だったら。



 あーあ。

 なんか急に、教団のために戦うのばからしくなってきちゃったな。勝利様は戦わなくても誰かが獣と戦ってくれるんだもんなー。俺、要らないじゃん。


 このままハルカのヒモになろうかな。

 なーんて。やっぱ俺も働かないとかな。


 技術を生かして、タケノコんちで取り立てのバイトでも……。


 んー………………やっぱイヤだな。


     ☆


 二日目の晩は、ほぼハルカ先生によるデジカメの講習会で終わった。

 ……というか、昼間整理して出て来た不要品を、ネットオークションに出品するための撮影を強制的に手伝わされた格好だったが。


 俺にとってのネットオークションは、本部にいる時たまに買い手として利用する程度で、自分が何かを出品することはなかった。

 俺が買うものといえば、仕事で使用する軍装品関係が多い。官給品は使いにくい、と小遣いであれこれ買うのだ。


 先日アンモナイトに食われ、使い物にならなくなったブーツも、オークションで購入したものだ。入手が面倒なうえに愛用していた物だったから、獣への怒りもひとしおである。



「おはよう、今朝は早いんだねショウくん」


 まだ眠そうな顔をした遙香が、二階から降りてきた。

 UMA柄のパジャマの図柄が、可愛いというよりも少々痛々しい。デフォルメ具合を加減すれば、男児用特撮怪獣パジャマぐらいにはなれたのに、と残念である。


 ダイニングテーブルの上には、昨晩夕食と共に、朝食用にと教会から差し入れられたフランスパンや粗挽きソーセージ、葉野菜類、それと俺が自分で焼いた目玉焼きなどが並んでいた。


「おはよ。朝飯用意しといたよ」

「やだあ、奥さんみたい」

「だって俺、一文字家の主夫になるんだろ? で、紅茶とコーヒーどっちがいい?」

「んじゃコーヒーで」

「はいよ」


 キッチンのカウンター越しにやりとりする俺。普段遙香が使っているのだろう、花柄のエプロンを着けて、やかんに水を入れ、コンロにかけている。


「……で、今日は何すんの?」

「梱包よ」

「梱包?」


「今朝オークションをチェックしたら、かなり入札があったから、先に梱包しとくのよ。全部代引きに設定してあるから、落札者が決定したら送るだけ」


「結構手慣れてるね」

「お父さんがよくやってたから。出品目的で取材先で買ってきたグッズとかをね」

「ああー……」


 そうやって取材費の足しにしてるわけか。



 食事を終えると、遙香の宣言どおり荷物の梱包作業が始まった。とはいえ、専門的な知識や技術が必要なものでもなく、人手だけあれば済むような作業だ。


 俺が商品をビニールに入れたり、緩衝材のプチプチでくるんだりしている横で、遙香がお礼状をしこしこ書いている。大したことをしているわけではないが、遙香がいることを除いても、俺にとっては楽しい時間だった。


 作業が一段落する頃には、即決で落札者が決まった商品もあったので、遙香は宅配業者に家へ集荷に来るよう依頼した。


 さすがに教団の黒服がうろついていては不審がられてしまうので、一旦彼等をリビングに上げて、遙香だけが玄関で応対して無事出荷が終わった。



「みなさん終わりましたよー……って、くつろいでるし」


 遙香が荷物の世話や宅配業者の対応をしている間、みなダイニングに腰掛け、俺を含めた全員でお茶菓子を楽しんでいた。


 テーブルの端や椅子に自動小銃を立てかけている様を見た遙香は、ちょっと自分のカレシをナメ過ぎてるんじゃないの、と軽くムっとしていた。

 勝利なら、こんな至近距離に武器があったら、すぐ制圧してしまう筈、と。


「いやー……勝利様にお茶を入れて頂ける機会なんてなかなか貴重ですから……」

「なんかすみません~」


 見張りの任務を忘れ、すっかりご機嫌になっている教団兵たち。


「おかわりあるから言ってくれよな」

「あんたたち、たるんでるわよ」

「まあまあ、お前も座ってクッキー食えよ。昨日教会で焼いたやつだぞ。今お茶入れてやっから」


 俺がキッチンへ行こうとすると、遥香が、急に腑抜けられるのも、なんだかなあ……、と複雑な顔で言っていた。

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