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【9】天使の休日 4

「どこに行かれるのですか、勝利様」

 一文字家の玄関ドアを開けた途端、鼻先に銃口が複数出現した。



 軟禁初日の晩、リビングで遙香とテレビを見ていた時、サイレンを鳴らしたパトカーが一文字家の前を通過していった。


 その瞬間、俺は弾かれるように玄関に飛び出し、急いで鍵二つとチェーンを解除して外に出ようとした。体に染みついた習性が、落ち着くことを許してくれない。


「だって……獣が……」

「それは我々の仕事、勝利様の現在の任務は休養です。どうぞお戻りを」


 闇の中から姿を現したのは、普段の俺と同じ、黒ずくめの戦闘服を纏った教団兵たちだった。



     ☆☆☆



 俺は、様付けされるのには慣れているが、これが自分から他の教団関係者を遠ざける原因になっていることも自覚している。玉の輿を企む女性を除いては。


 俺は教団の広告塔――扱いとしては、教団の王子様である。


 美しい礼服を纏い、翼を広げた俺の姿は、教団の求心力を強める役目を担っていた。他の教団所属の人外ハンターとは、扱いに天と地の開きがある。


 だが、それは表向きの話だった。


 実際の俺は、他の人外とは真逆に、幼少期から度重なる人体実験、兵器開発の被験体等々、非人道的な扱いを受け続けてきたのだ。当人にそうとは悟らせずに。


 教団への依存心が強いのも一種のマインドコントロールの結果であるし、情報を与えず、他の人間からやんわりと隔離し続けてきたのは反乱を起こされぬためである。


 ただ一つ、教団の誤算は、教育係のシスターベロニカの存在だ。彼女がいたからこそ、俺は自我を失うことなく生きていくことが出来た。教団にとってシスターベロニカは諸刃の剣である、と正しく認識している者は果たしてどの程度いるのか――。



     ☆☆☆



「怒られちゃった……」

「怒られちゃったね」

「うん……」


 ドアを閉め、振り返ると遙香が立っていた。

 俺に手を差し伸べている。


 俺の行動が悲しい条件反射であることを分かっているから、彼女にはもう俺を(いさ)めることは出来なくなっていた。


「ねえ、お風呂はいろっか」

「……まさか、一緒に?」

「ふふふ」

「……ハルちゃん、顔がエロいおっさんだよ」

「いいじゃん。キミの親公認で三日間独占出来るんだから。ふふふふふ」


 遙香は邪悪な笑みを隠そうともせず、握った俺の手をぐいっと引っぱった。


(もしかして、いやもしかしなくてもヤバい子なのでは……)


 俺はナニな場所がキュっとした。


     ☆


「足、ホントにキレイに治ってるんだね」

 遙香は湯船の中から、シャンプー中の俺に声をかけた。


「溶けて骨まで露出してたとは思えないだろ、フフン」

「ショウくん、ちゅごーい♥」

「だろ☆」

「これなら、どんな扱いしても大丈夫だねっ」


 俺の手が止まった。


「いまお前、すごい邪悪な顔してっだろ」


 シャンプー中なので、彼女の顔が見られない。


「やだなあ~そんな顔してるわけないじゃん」

「いや、してる」


 俺は急ぎシャワーで泡を流すと、遙香の両頬をぎゅっと掴んだ。


「ひぁややあわわわ~」

「この口かっ、ろくでもないこと言うのはっ」


 ぎゅうう~~っ。遙香のほっぺが左右に伸ばされる。


「ひははひいはぁあへふへはあひいい」


「ったく、ヒモになったらなったで、ひどい目に遭う気しかしねえぞ、このっ、一文字遙香め!!」


「うぇえええええ~~~ゆゆひへええええ」


 俺はニヤニヤしながら、しばらく遙香の顔を気が済むまでオモチャにし、それから彼女の頬を両手で包み、これまたしばらく濃厚なキスをした。


 遙香が風呂から上がる頃には、すっかりのぼせていたのは言うまでもない。

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