【4】わがままボディとホットデリ 2
「それは、えらい難儀だったな……ハルカさん」
「ハルカ、でいいわよ。多島君」
「じゃあ、俺もショウって呼んでよ」
と答えると、遥香はニコニコしながらこくりとうなづいた。
その笑顔と渦巻き虹が妙にマッチしていて、写真に収めておきたいくらいだった。
☆
しかし、生活のためとはいえ、己の姿を撮影されてしまったのは失敗だった。
とにかく今は彼氏として遥香のご機嫌を取り続け、その間にシスターベロニカの判断を仰ぐのがいいだろう。
金のことは自分じゃどうにもならないが、策はあるかもしれない。
どのみち、この町での駆除作業が完了すれば俺たちは別の町に行く。
だから、「彼氏を演じる男」を演じなければならない。
本当は、どんなに彼女が好きだったとしても。
☆
「じゃ、いこっか」遙香がベンチから立ち上がった。
結局『夢のらせん階段』は彼女の長話のせいで冷めてしまい、ピンと張り詰めていた極彩色の皮には少々シワが寄っていた。
俺がじっと見つめていると、遙香が差し出してきた。
「いや、そういうワケじゃ……」
「男子なんだから食べなよ」
「それ言うなら、金ないんだから君が食べなよ」
「ふうむ……んじゃ半分コで」
「どうやって」
「こうよ」
言うなりガブリと噛みついた。二、三口ほどで半分を胃の腑に納める遥香。
「うへえ……」
豪快な食いっぷりに、身内のあの女性を思い出す。
「はい、あとキミのね」と、下半分を差し出す。
「ああ~油が垂れてるよ、ちょっと待ってろ」
遙香の口元からはソーセージの汁が筋を描き、顎先まで届きそうだ。
ウェットティッシュで彼女の顔をぬぐってやった。
普段は異界獣の体液か、己の血液を拭くために使っているのだが。
「えへへ~さんきゅ」
俺は、肉汁跡を舌で舐めとりたくなる衝動を抑えつつ、丁寧に顔を拭いてやった。遙香は嬉しそうに、なされるがままにされている。
(……ダメだそんな顔で俺を見るな……)
「ほ、ほら、終わったぞ」
「さんきゅ。んじゃ、半分」
俺は彼女の顔を拭いたウェットティッシュを畳んで内ポケットに仕舞うと、残り二分の一になったソーセージを口の中にねじ込んだ。
「ごっそさん」
「どうも。また食べようね」
「ああ」
――また? 好物なのかな。
☆
ようやくコンビニを後にして帰路につくと、ランニングをして戻ってきた運動部の連中とすれ違う。ちらちらと自分たちを見る生徒もいたが、ほとんど無視して走っていった。
コンビニの店頭でもそうだ。それなりの人数の生徒が出入りしていたにもかかわらず、仲良くソーセージを食べていた俺たち二人をじろじろ見る者はいても、冷やかす者は無かった。
この中には遙香の知り合いはいないのだろうか。それとも――
あんなチンピラに絡まれているせいで友達がいないのか、と口に出しそうになったが、俺はなんとか言葉を飲み込んだ。
この街に滞在中は自分が彼女の盾になる。多くの生徒の目にするところとなれば、いずれその答えは分かるだろう。
でも、俺がいなくなってしまったら彼女はどうなるんだろう……。
自分のいる間に金を工面する、もしくは父親を見つけ出すことが出来れば、憂いを残さずこの街から去ることが出来るのに。
しかし、教団の誰かに話せば、口封じのために遥香を始末しろ、と言われるのかもしれない。
でも、そんなこと出来るもんか。
――彼女を『二度』も殺すなんて。