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【1】混沌の廃病院

 ……決めたんだ。もう遥香とは会わない。

 俺は学校にも行かない。一日も早く遥香のこと、忘れる努力する。

 遥香のために。俺のために。


      ☆


 俺は遙香と竹野を見送り、ひとしきり落ち込んだ後、なんとか立ち直ると、駆除作業の準備をし始めた。

 だが先日の戦闘で、下半身の装備品を、アンモナイトに一切合切溶かされて使えなくなってしまった。

 仕方ないので、予備の戦闘服やベルト、ポーチ類をクロゼットの段ボールから引っ張り出した。


「ちっ……、気乗りしねえなあ……」

 俺はぶつくさ言いながら、予備の編み上げブーツを取り出した。


「ったく、ヒモ結ぶのがイヤだから、ワンタッチで履ける奴を買ったのに。しゃーない、また後で注文しようっと」


 コンコン、とノック音。返事をするとドアがちょっとだけ開いた。


「ショウくん、食べられそうだったら夕飯……あら、もう仕事して平気なの?」


 シスターが俺を見て驚いている。

 なんせ昏睡状態から目覚めて、まだ一日しか経っていないのだから。


「一週間も休んじゃったし……遅れたぶんを挽回しないと。食事、頂きます」

「じゃ、用意するからすぐ食堂にいらっしゃいね」


 シスターはにっこり笑って言った。

 ドアが閉じ、足音が向こうに消えた後、俺は足首をくるくる回してみた。


「やっぱりか……」


 微妙に思うように動かない。全力でいくのはまだムリっぽい。

 悔しいけど、ここはなるべく動かずに仕事が出来る装備をチョイスするしかないか……。メシ食った後で考えよう。


 俺は身支度を中断して食堂に向かった。


     ☆


「あ、間違えましたー…………」

 俺はそっと食堂のドアを閉めた。


「あ~あ~、ごめんごめん、です。ショウくんさん、まだ当分お部屋でおかゆかと思ってたから、ちょっと羽伸ばしちゃってて~」


 シスターアンジェリカが、閉まりかけたドアの端をガッシと両手で掴み、一気に全開した。


 中は、女子会の真っ最中だったのだ。

 俺、入れない。

 つかメンズ俺だけだし。


 食堂中央のテーブルは、甘甘な花柄テーブルクロスや山盛りスイーツ、イタメシ、ヌーベルキュイジーヌ、サングリアのボウルには自分への見舞いにもらったと思しき高級フルーツの細切れがプカプカ浮かんでいる。


 これを女子会と言わずして何という。


 フルーツを食っちゃったことをとやかく言うつもりはないけども、マジで自分の入る隙間がミジンコどころか微粒子レベルで存在しないんだけど、これってどうしたらいいの。ねえ。


 結局、末席にちょこんと座らされた俺は、お子様ランチのメガ版のようなディナーを提供され、女子会にむりやり連れてこられた小学生みたくなっている。


 ま、メシの味には全く不満はないし、プリンもあるからいいんだけど。

 ああ、サングリアはアルコールが入ってるから、浮き実のフルーツだけしか食わせてくれなかったのが唯一の不満。


     ☆


 炭水化物的な意味で高カロリーをしこたま摂取した俺は、微妙に胸焼けしつつ、今夜の打ち合わせのためにシスターベロニカの部屋を訪れた。


 室内にはシスターアンジェリカの姿もあり、相変わらず雑然とした作業机の上で大きな紙――町の地図を広げていた。


「今日はどこ掃除するんです?」

 俺は二人に尋ねた。


「足は大丈夫か、ですか? ショウくんさん」

 アンジェリカが不安そうに俺を見る。


「あーもう平気平気」

 俺はその場で、ポンポンと軽く跳びはねてみせた。

 エンジェルスマイルを造ってみたけど、着地の度に足首とかアキレス腱とかがビシビシ痛くて、見えないように太股をギュっとつねって耐えた。

 やせ我慢は柄じゃないんだけど。


「どうせ休めと言っても聞かないだろう。これにでも座っていろ」

 シスターベロニカが彼にパイプ椅子を勧めた。


「では、改めて本日のブリーフィングを行う」

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