【2】惨劇の予兆 2
俺たちが仕事の準備をしていると、向こうから刑事たちが小声で話してるのが聞こえてくる。
当人たちは聞こえてないつもりだろうけど、俺にははっきり聞こえる。
『教団はこんな子供まで使って、そろそろヤキが回ったのか』
『女と子供だけ送り込んできて、本当にアレを始末出来るんだろうか』
……とか、ナメた台詞が飛んで来る。
(クソッ、勝手なこと言いやがって)
腹に据えかねた俺は一人の中年刑事に近づいた。
どう見てもヤクザという風体だ。近づいた俺を睨んでいる。
「おじさん、こういうの飼うの趣味なの?」
俺はナイフをヒュッ、と刑事の肩口に突き出した。
びっくりした刑事は、目を剥いて二、三歩後ずさった。
「何すんだ!」
刑事は、反射的に腰の拳銃に手をやった。それを脇にいた他の刑事たちが必死に制止している。
彼等は俺が何をしたのか、すぐ分かったからだ。
「そろそろテープの外に出た方がいいんじゃないんスかね」
俺はナイフに貫かれたソレ、野球のボール大の化け物を刑事たちに見せつけた後、ナイフをビュッと振り、赤黒い化け物の死体を払い落とし地面に叩きつけた。
グシャっと音を立てて死体は爆ぜ、赤とも紫ともつかない体液と内臓を撒き散らしたが、目のようなものはまだグリグリと蠢いて周囲を伺っていた。
それを見た刑事たちは、あからさまに顔を引きつらせたりリバースしたり、よく分からない捨て台詞を吐いてバタバタと去っていった。
「あははははははは。帰って寝てろ、臆病者め!」
俺は逃げていく刑事たちに罵声を浴びせてやった。
すこしスッキリしたので、侮辱した件は忘れてやろう、と思った。
元々、たいして害のない種類だったから、ホントはすぐに殺さなくても大丈夫だったのだけど、ムカついたので少々怖がらせてやった。
(なんなんだろうね、ああいう大人って)
「コラコラ、素人をからかうもんじゃないぞ、ですよ、ショウくんさん」
シスターアンジェリカに頭をコツンと叩かれた。
シスターアンジェリカは、追加で教団からこの町に送り込まれた戦闘要員だ。
通信と補給、そして狙撃補助として、今夜の作戦に参加している。
だが戦闘要員とはいうものの、実際は平時にちょっとだけ沸いた小さな異界獣をちょこっと始末するのが、普段のお仕事なのだ。
接近戦や、ハデに数が沸いたときには、あんまり戦力にならないのでアテにするな、とシスターベロニカが、俺にこっそり耳打ちしていた。