表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/85

【5】何もかもが同じという恐怖 3

 ――万一教団クビになったら、ヤクザになるのも悪くないかなあ、と思ったけど、最近はヤクザも肩身が狭いので、シスターベロニカみたいに外国で傭兵とかするのもカッコイイかなあ――


     ☆


 タケノコも帰宅してしまい、話し相手もなくなって暇をもてあました俺は、万一の際の身の振り方をぼんやり考えていた。

 そして、いいかげん待つのに飽きたころ、遙香が教室に戻ってきた。


「おまたせおまたせぇ~~」

「お待たされだよ。ったく鍵取りに行くだけでどんだけかかってんの」

「だってぇ、緊急職員会議で先生がいなかったんだもん。しょうがないじゃない」

「そっか。じゃ、しゃあねえな」

「んじゃ、いきましょ」


 遙香に連れられていった先は、部活棟だった。

 もちろんその位置は把握している。

 だが、さすがにここだけは学校ごとに違う気がした。


 いくら部の配列がある程度同じだったとしても、廊下に積み上げられている荷物や壁のポスターまでは、さすがに同じにはならない。


(よかった……。ここは、違う場所なんだ)


 自分が存在しているのは、あくまでも現実であってゲームのサーバー内なんかじゃない。だから、箱が同じでも中身の人間は全部違う。

 細かいところまで一緒にはならない。

 この事実を目の当たりにして、とてもホっとした。


 急に自分のいた場所が異常な空間だと認識してしまったら、気がおかしくなりそうに思うのは、当たり前じゃないか。


 俺すごく恐かった。ホントに恐かった。

 なんでこんな恐ろしいことに今まで気付かなかったのか……。

 その事実そのものが、恐ろしかった。


     ☆


 俺と遙香が部活棟の雑然とした廊下を歩き、到着したのは文化部ブロックにある写真部だ。どうやらここが目的地らしい。

 この学校に都市伝説部とかオカルト部がないのなら、彼女にとって次の候補は、多分ここなのだろう。


 遙香に続いて部屋の中に入ると、現像液のツンとした臭気が鼻に刺さる。


 部室内は、スチール製の棚に詰まった大量のアルバム、印画紙のダンボール箱や現像用の薬品の瓶、ガラス戸つきの棚に飾られたトロフィー、壁の上の方には額装された賞状が何枚も飾られている。


 そして、窓際の流しの所には、干物のようにヒモから吊された大量の現像済みのフィルム。部屋の隅には暗幕で囲った簡易現像室もあって、いかにも一昔前の写真部ってカンジだ。



「やっぱり不思議? ……よね。今どき写真は、みんなデジタルだもんね。アナログにこだわるのは顧問のポリシーでもあるし、部の伝統でもあるし、ってところかな」


「ねえ、他には部員いないの?」

 手短な椅子に腰掛けて彼女に訊いた。


 俺は、室内が蒸し暑いのでブレザーを脱ぎ、椅子の背もたれに掛けた。

 脇のホルスターが丸見えだが、急に人が入って来ることもなさそうだから、問題はないだろう。


「私以外はみんな受験だから、実質ひとり」


 そう言うと、遙香は窓をかたっぱしから全開にして換気を始めた。

 少し酸っぱくて蒸された空気は徐々に排出され、室温も下がっていく。


 そして彼女は、流し台の端に掛けてあった雑巾を濡らして、白くほこりの積もった会議テーブルの上を水拭きしはじめた。


「そっか……大変だな」


 俺は、雑巾がけをしてゆらゆらと揺れる遙香の髪を、なんとなく眺めていた。

 それだけで、少し不安や恐怖が薄くなっていく気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ