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【2】独白 朝と夕

『朝』



 メシの後、俺達は一緒に登校した。


 二人揃って歩いていると微妙に目立っている気はしたけど、俺にとってはどうでもいいことだった。

 いつでも転校生だから、目立つのには慣れている。


 教室に入ると、タケノコがHR前になんか必死に俺に話しかけてたけど、ぜんぜん聞いてなかった。

 ぶっちゃけあんなヤツはどうでもいい。

 俺に駆除されないだけでも有り難く思えってんだ。


 とにかく、ハルカと過ごすこの『特別な朝』を台無しにされたくなかった。

 この、初めての『朝』を。


 今朝は、本当にすごく普通で、すごく嬉しかった。すごく嬉しくて、胸が幸せでパンパンになるほど満ちあふれていた。




 すごく嬉しかったから、――同じくらい悲しかった。




 だから、明日は一人で登校しよう。


 遥香は怒るかな。明日も教会に来そうな気がするけど。




 やっぱり、見殺しにすればよかったのかな。

 そしたら俺、こんなに苦しくならなかったし、ヘマだってしなかった。


 そんなのムリなのわかってるクセに。

 でも俺、こんなに心が揺れてしまったら、もう何も出来なくなっちまう。


 そしたら俺、いつか死ぬ。


 俺だけじゃない。シスターベロニカも死なせるかもしれない。

 俺が死んだら、この街が終わる。遥香も終わる。




 だから、

 ――遥香に嫌われよう。そうしよう。



 明日から。

 今日は、今日までは、いいよね。




     ☆☆☆




『夕』



 前言撤回。やっぱダメだった。


 俺は早々に敗北宣言をする。

 今日限りで遙香と縁を切る、という宣言をたった半日で撤回した。


     ☆


 ムリ――!!

 ムリムリムリ!!


 そうだよ、そんなのムリだよ。不可能だよ。


 ムリムリムリ。

 だって俺、遥香のこと大好きだもん。


 四六時中遥香のことしか考えてないし。おかげで死にかけたし。

 このまま彼氏のフリじゃなくて彼氏になりたいし。



 朝のうちは気取ってあんなムダな決心して、俺、お通夜みたいな顔になってた。でも、昼休みになって、一瞬で決心は木っ端ミジンコになった。


 だってさ。

 タケノコが遥香に色目使うの見るだけで、俺もうキレそうだったもん。


 自分が悲しいからとか仕事に支障を来すとかいって、好きになるのやめるとか、嫌われるとか、そんなん出来るわけなかったんだよ。


 だって相手は『一目惚れ』の女の子なんだぞ!


 俺超バカだった。

 いや知ってたけど。

 でもこれ本能。抗えない。ぶっちゃけムリゲー。


 こうなったら、『気合い』で仕事を全うするしかない。



 とりあえず、学食に行く前にタケノコを渡り廊下に連れ出して少々ボコってやった。まあ、それが出遅れた原因だったんだけど。


 ――そしたら意外な事実が分かったんだ。


 ああ、なんということだ。

 加害者ながらプチショックだよ。


 タケノコのやつ、ホントは遥香のこと前から超好きだったんだ。

 だから、俺が寝取った格好になっちまった。


 ……おお神よ、なんてこった。


 遡ることタケノコが中学の頃、ヤツは遥香にアタックした。

 だが案の定瞬殺された。


 でも諦め切れず、指を咥えてずっと見ていたんだ。

 で、ある日遥香んちの借金のことを知った彼は、それをネタに遥香を自分の物に……というお粗末な話さ。


 DQNの考え、休むに似たり。

 同情するも、手段がヒドイ。


 ……にしても困ったな。

 これじゃあ、俺が町を出ていったら、また遥香にちょっかいを出してくるぞ。


 うーん……。


 徹底的に恐怖を植え付け、監視されていると思わせるのが管理の定石だ、って以前シスターベロニカが言ってたけど、ぶっちゃけどうしたらいいのかな。


     ☆


 結局、己の意思の弱さと欲望に完全敗北した俺は、己自身と過去との戦いを開始せざるを得なかった……とさ。


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