【10】電気を喰らう者 7
「さて、どうしたもんかな」
間合いを取りつつ呟いた。
目の前の地を這う毛むくじゃらな生物が、自分をなめ回すように見ている気がした。だが、どこに目があるのかよく分からない。
多分、四本の足の接続部分、胴に相当するパーツのどこかにあるのかもしれないが……。
『状況を報告しろ、勝利』
シスターベロニカからの通信が、迷走する思考を止めてくれた。
「ああ、えっと……ちょっとヤバいかも」
『はっきりしろ。援護は必要か』
「というか……こっち来たら死ぬかも」
『なら尚更――』
「分からないんだ。どうすれば倒せるのか」
おっと。
黒い毛むくじゃら野郎が突進してきたのを、ハイジャンプでかわす。
敵はそのまま直進し、道路脇の柵に突っ込んだ。
柵の隙間に足が絡まって、ジタバタしている。
「ん?」
『どうかしたのか』
「いやちょっと、気付いたことがあって。――やっぱこっち来て。銃持って」
『了解』
自分の想像が正しければ、多少は何とか。……いや、それだって、ただの糸口にしか過ぎない。でも。
俺は腰から、ウインチのアンカーを引っ張り出した。ワイヤーを数メートル引き出すと、ジタバタしている敵の足に投げつけた。
ヒュン、と空を切って飛んだアンカーが異界獣の足に届くと、勝利はクッと軽く手繰ってぐるりとワイヤーを巻き付けた。
「おっしゃ!」
柵の隙間から脱出した異界獣が足をもつれさせながら、ぐるりと方向転換をした。表情は分からないが、なんだか苛だっているように見える。
「カモン!!」
異界獣を挑発する。
不思議と意図が伝わったのか、異界獣は猛牛のように体をぶるりと振るわせると、地響きを立てながら、俺に向かって突進してきた。
俺は突っ込んできた異界獣をギリギリまで引きつけると、ヤツの頭上高く飛び上がり、ワイヤーを街灯のてっぺんに引っかけ、つるべ落としのように、そのまま飛び降りた。
ギィィァヤアアアアアアアアッ! と、ワイヤーがけたたましい音を立てて、火花の雨を降らせる。
俺が地面に近づくと、その逆に、宙づりになった異界獣がどんどん上へと昇っていく。ヤツがもがくので、街灯がひどく揺れる。
(くそ、もってくれ!)
祈る気持ちで着地すると、俺は地面に倒れんがばかりに全体重をかけてワイヤーを引き、愛用の銃を抜いて獣のある場所を狙ってトリガーを引いた。
「よし!」
『ヴヴヴルルルルゥウウウウウウッ、ヴァアアアアッ』
夜の空気を揺らす、この世ならざる生き物の絶叫。
勝利の体に、水色の体液がボタボタと滴り落ちてきた。
口の中にまで入り込んできたので、ベッと吐き出した。
「うぇッ、にがッ!」
あまりの不味さに体制を崩した瞬間、とうとう街灯が壊れ、異界獣がズドンと目の前に落っこちてきた。
「ぅ、やべッ。もたなかったか」
外れたワイヤーを急いで巻き取って、俺は化け物に再び弾丸を撃ち込んだ。
だが、巧みに足で防御され、胴体部分に当てることが出来ない。
(やっぱあそこか……弱点は)
狙ったのは胴体部分だ。
銃弾がヒットしたのはその裏側だった。
もしそれでダメなら上部についている口の中でも狙おうと思っていたのだ。
それでもダメなら……その時は取っ組み合いでもして足をもぐしかない。
なんせ銃も刃物も通らないのでは、それしかないじゃないか。
ともあれ最初の予想が運良く当たり、一般的な異界獣と同程度のダメージを与えることに成功した。
四本の脚部分はとても頑丈だが、胴部分の外装の強度はあまり高くない。
外皮を破り、体液を噴出させられたのなら勝機はある。
そしてもう一つ、気付いたのは――