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【7】電気を喰らう者 4 ベロニカside

 ガス火とも異なる、若干緑がかった青い炎が、車の残骸を涼やかに包んでいる。

 ガソリンにも引火しているはずなのに、何故か青い炎の方が勝っているようだ。


     ☆


 我々の使う赤い炎では、異界獣を焼き尽くすことは出来ない。

 彼等の表皮はこちらの世界の武器では傷をつけるのは難しく、掃討には特殊な技術や秘術が用いられる。


 それらを独占しているのが超法規的集団の『教団』であり、故に異界獣の駆除も一手に引き受けているのだ。


     ☆


 パチパチと爆ぜる音の他に、聞こえるものはない。

 死骸は落ちていないか。どこかに吹き飛んでしまったのか。

 破片は落ちていないか。


 それともまだ生きているのか。

 五感で得られる情報から、あらゆる可能性を思考する。


(どこだ)


 視線を向こう側に滑らせると、反対車線のガードレールがひしゃげて、植え込みの低木を押しつぶしている。


 ぐにゃりと曲がった鉄パイプ状のガードレールには、トラックの銀色の外装板と共に、ぼろのような何かが引っかかっている。


「む……」


 私は、アサルトライフルの銃口を向けながら、ゆっくりと近づいた。

 軍靴に踏みつけられて、細かく砕け散ったガラス片が微かに鳴いている。


「なんだ、人間か」


 ぼろのようなソレは、運転手のなれの果てだった。

 胴のあたりで千切れていたが、衣服がくっついていることで、かろうじて人間だと判別出来た。


 死体を確認していると、道路封鎖中の警察官が数人、血相を変えて工場まで戻ってきた。


「シスター、爆発があったようですが、大丈夫ですか?」

「馬鹿者ッ、戻って来るな!!」


 一体彼等は上司から何を聞いていたのか。

 若い警官だから知らぬのもムリはないのかもしれない。だが――


「戻れ! 今すぐ!」

 私は警官たちの足下に銃弾をバラ撒いた。


 己に向けて発砲されたことがないからだろう、悲鳴を上げて走り去っていく者や、その場で恐怖に震え上がる者もいた。


 中年の警官が、腰を抜かした警官のベルトを引っ掴み、裏返った声で、

「ひッ! わ、わかりました!」

 と叫び、現場から慌てて走り去っていった。


 彼等を見送ると、私はぽつりと呟いた。

「一人、喰われたか」


 道路脇で黒い生き物が、頭から警官をむさぼり喰らっていた。


 リズミカルに骨をかみ砕く鈍い音が、夜の湿気を伴って耳の奥に次々と投げ込まれてくる。警官たちは恐怖に我を忘れ、仲間が減っていることにも気付かなかったようだ。


「これだから警察官は……」

 吐き捨てるように言うと、私は銃に特殊弾を装填した。


 その食事中の黒い生物は、上半身がカエル、下半身がサルのような姿をしていて、二本足で直立していた。


 大きな口の中に、人間を丸ごと突っ込んでボリボリと咀嚼している。

 腹のあたりから音が聞こえるから、本来の歯や顎は口の奥にあると思われる。

 彼の悲鳴も聞こえなかったのは、一瞬で頭部を喰われてしまったからだろう。


「マズい……これで仕留めなければ――――」


 次に喰われるのは自分だ。

 十数年前、左手、左足を生きながらにして喰われた恐怖がよみがえる。


 その結果、私は義手と義足を着けることになってしまった。もう、かつてのように異界獣と対峙することは出来ない。


 造りモノの手足では、現役だった頃の機敏な動きが出来ないのだ。それはすなわち、ハンターとしての死を意味している。

 その私に教団での二度目の生を与えたのが、他ならぬ勝利の存在だった。



 私が銃に装填したものは、主に大物に使う対異界獣用グレネード弾だ。弾頭の特殊金属が異界獣の外皮を裂き、内部で爆散して対象を破壊する。


 対異界獣戦において、通常兵器が効かないのは外皮だけ、そしてそれを破壊出来る武器は、同じ異界獣の素材を使った武器と、教団で精製される希少金属だけなのだ。



 幸いまだ化け物は、今宵のディナーを楽しんでいる。

 警官の腰のあたりまでカエル口の中に収まったころ、私は銃の狙いを定めた。


『サンキュー、お前はよくやった』


 そう心の中で警官に声をかけると、引き金を引いた。


 鈍い発射音と共に打ち出された弾は、食いかけの警官の足とともに、化け物と焦げたパトカーを吹き飛ばした。

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