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完結【バトルホラーアクション】退魔天使は闇夜に踊る【人外の戦士が記憶を失いながら魔物を屠る】  作者: 東雲飛鶴
第二章 相棒は、シスターベロニカ

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【6】電気を喰らう者 3 ベロニカside

「まったく、所轄は何をやってるんだ? 自分たちの街を護る気もないのか。嘆かわしい連中だ」


「まあ、そうプリプリすると小じわが増えますよ。シスターベロニカ」


「や、やかましい! オフの時にはちゃんとスパでフォローしているのだ、問題ない!」


 検問を抜けた車がいると聞いて、私は腹を立てた。そこにお肌の心配まで上積みされて、私の右眉は若干ぴくぴくしている。


 今夜の現場である、金属加工工場の電源室に陣取った私と、その補佐についているシスターマーガレットの二人は、異界獣をおびき寄せるタイミングを待っていた。


 近くに異界獣が来たときに電源を入れてやれば、高い電圧におびき寄せられるだろう、という算段だ。




 作戦立案者は私だが、正直自信がなかった。

 かの異界獣の好物が電気であるという根拠が、変電所を襲ったことや、VR車を喰らったことくらいしかないのだ。


 教団にとって、そして自分にとっても、民間の工場を囮に使うのは不本意ではあるが、異界獣の拡散を放置するわけにはいかない。

 異界獣による被害には、非公式ながら国家による保障も存在している。


 利用される民間人を気の毒に思っている。その気持ちに偽りはない。

 だが、出来ることなら愛息子に傷を付けたくはない。

 それもまた偽らざる本心だ。




「あの……じつは私、実戦は初めてで。大丈夫でしょうか」

 センサー類のケーブルを束ねていたマーガレットが、急に不安そうな顔で訊いた。


「ん、そうなのか? 冗談を言う余裕があるのだから、そうは思わなかったぞ」


「緊張すると余計なこと言っちゃうんです。昔から」

 アハハ、と困り顔で笑いながら言う。


 私達のサポート役を仰せつかったシスターマーガレットは、近隣の街の出身だ。異界獣により両親を失い、教会で育った。成長して教団の養成所を卒業し、昨年この街の教会にシスターとして赴任したばかりだ。


「案ずるな。今この街にいるハンターを誰だと思っている? 我が教団の最終兵器だぞ」

「そ、そうですよね。勝利さんなら……」

「もちろんだ。ちょっと外の空気を吸ってくる。ここは任せた」

「了解です!」


 私はポンとマーガレットの肩を叩くと、飲みかけのペットボトルを取って電源室を出た。

 何か胸騒ぎがする……。


     ☆


 電源室の前でミネラルウォーターのペットボトルを一気に空にすると、ふいに工場のゲート付近でタイヤの激しいスキール音が鳴った。

 次の瞬間、私はボトルを放り投げ、ゲートに向かって全力で駆けだした。


「ゲート前、何事だ、報告しろ!」

 インカムに向かって叫ぶ。


『こちらゲート前、今トラッ、きゃああああ』


 待機中のシスターの絶叫、そして大きな衝突音が聞こえた。

 例のトラックにでも突っ込まれたのか。


(くッ、派手なお出ましだなッ)


 私は走りながらインカムに呼びかける。

「勝利、すぐ戻ってこい。予定が狂った」


『こちら勝利、了解。さっきの悲鳴は?』


「これから確認する、以上」

 いやな予感を覚えつつ、私は走った。


     ☆


 まもなくゲート前に到着すると、白煙を上げ、運転席をパトカーの半ばまで突っ込んだ貨物トラックが彼女を出迎えた。


「シスターベロニカ! た、た、たすけて」


 私めがけて飛び込んできたのは、見張り担当のシスターチェリーだ。

 すっかり怯えきっていて使い物になりそうにない。


 私は、チッ、と舌打ちをすると、


「貴様は電源室に向かえ! ドアの前でマーガレットを援護しろ」


 とだけチェリーに告げて、自分は白煙を上げているトラックに警戒しつつ近寄った。


 警官たちは皆、道路封鎖で出払っており、こちらの被害はパトカー一台のみ。

 だが、車体前部が酷くひしゃげた、このトラックの運転手は無事では済まないだろう。悪いが構っている暇はない。


「この煙は……?」


 トラックを見ると、荷室側面に冷凍車と書いてある。

 煙はエンジンからではなく、荷室前部の冷却ユニットから出ていた。


(まさか……この電源に釣られたのか?)


 車一台を大きな冷凍庫にしているのだから、使われる電力も大きい。

 万一獲物がこのトラックに引き寄せられたのだしたら――


 私は、背中に担いでいたアサルトライフルを急いで構えると、トラック後方にぐるりと回り込んだ。


 さらにゆっくり回り込むと、車の向こう側に張り付いていた何かが、一瞬で姿を消した。


(これか――)


 私はおもむろに車体の下に爆薬を放り込み、全力でゲートの内側に飛び込んだ。

 次の瞬間、トラックはパトカーもろとも爆発した。


(どうだ?)


 ゲートの柱の陰から体を起こすと、青く炎上する二台の車が視界に入る。

 炎の色が異質なのは、異界獣専用に造られた手榴弾を使用したためだ。


 炎で明るく照らされた周囲には、道路に張り付くように燃える積み荷の残骸や、吹き飛ばされたガラスの破片、冷凍車のちぎれた壁が散乱していた。


「この程度で()れるとは思わんが……」


 私は、敵の死体がないか、注意深く炎の中に目を凝らした。

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