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【4】電気を喰らう者

「今夜の獲物は?」


 俺はコートを肩に引っかけながら待機室に入ると、先にいたシスターベロニカに訊いた。十畳ほどの部屋にはOA機器や机などの事務用品が並び、簡素だが作戦室も兼ねている。


 ホワイトボードには周辺地域の地図がマグネットで貼り付けられ、作戦区域が色鉛筆で塗り分けられていた。


 カラフルな付箋がくっついている区域は、駆除作業の終わっていない場所だ。着任したてなので、まだまだ付箋はたくさん残っている。


「新種かもしれん。金属も喰らうらしい」

 そう言いながら、シスターベロニカが書類や写真をまとめて封筒に入れている。


 封筒の下三分の一ほどに印刷された文字部分を読み取ると、地元警察からのようだ。直接持ち込まれたのだろう、表書きもなければ、封をした形跡もない。


「金属? そりゃ悪食だなあ……」と俺。


「昨夜夕方、市の境辺りで停電があった。早速電力会社の職員と市の担当者が原因究明と修理に向かったのだが――」


「食われたと」


「瀕死の技術者が通報、警官が駆けつけた時にはもう、被害者は綺麗に平らげられていた後だった。

 警官が血痕を追っていくと、座り込んで車を喰らっている奴を見つけた。しかし、もう満足したのか、警官が我々に連絡をする前にどこかに去ってしまった。

 彼等が朝になってから周囲を調査したところ、変電施設や架線が食い散らかされていたが、停電の直接の原因はそれだろう」


「で、ソレが調査報告書ってわけか」


 俺は彼女の持っている封筒を指さした。

 シスターベロニカは頷くと、資料の詰まった封筒を手渡した。


「はあ……」


 俺はさほど感慨もなさげに写真だけを見ると、さっさと封筒に戻した。


「食いかけの車、EV車だね。電気が好物なのかな?」


「かもな。念のため耐電装備を用意しておいた。私もバックアップで行く。さあさあ勝利よ、準備を始めろ」


「うえええ…………」

「どうした。そんなにイヤか?」

「暑いのはキライだぁ……」

「安心しろ、私も暑いのはキライだ」


 シスターベロニカは、少しだけ顔を歪ませて笑った。


     ☆


 ワンボックスカーで教会を出た俺とシスターベロニカ、そして教会のシスター二名は、昨夜の現場に程近い金属加工工場にやってきた。


 シスターベロニカとシスターたちは、工場周辺にセンサーを配置して敵に備えた。

 日中こそ高出力の電力を使用しているが、異界獣の出没する夜中には可動していない。この工場の変電施設を、敵のおびき出しに利用する算段だ。


「好物がはっきりあるってのは、かえって処しやすいね」


 俺は車の助手席で棒つきアイスをかじりながら言った。

 出がけに食堂の冷蔵庫からくすねてきたものだ。


「まだ好物と決まったわけではないが、あまり手がかりもないからな。

 防犯カメラの画像を本部に送ってはいるが、特定にはまだ時間がかかりそうだ。

 やはり、新種だろうな」とシスターベロニカ。



 俺は車を降りると、単独で昨日の電力会社の変電施設に向かって進んだ。決戦場は金属加工工場だが、途中で鉢合わせて始末出来るに越したことはない。


 ぽんぽんと、遊んでいるかのように電柱の上を跳ねていく。だが遊んでいるわけではない。移動しながら、高い場所から周囲を警戒しているのだ。


 その途中で、俺は警察による駆除区域の隔離が完了していない場所を見つけた。万一市民に入り込まれては被害が拡大してしまう。


「あー、あそこちゃんと封鎖出来てないじゃん、もー。連絡しねえと……」


 この間の遙香の件は、小さいターゲットを掃討中に、たまたま中型クラスに出くわしてしまったのが原因の一つだった。


 一発で仕留めようと大型用の武器で攻撃したところ、射線上に飛び出してきた遙香が、まともに喰らってしまったのだ。


 最初から大型がいる、あるいは何らかの危険度が高いと分かれば、駆除地域を隔離閉鎖することで被害を最小限に食い止めることも出来る。


 だがあの夜は……。


「ああ、イヤなこと思い出しちまった。しごとしごと。仕事に集中しないと……」


 俺は雑念を追い払うべく頭を左右に振ると、足下の電柱の先端を蹴り、軽やかに闇に舞った。

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