◇1
「おーい!帰ったぞ!」
街の広場でジャイと訓練をしていると、大通りの方から叔父さんたちの声が微かに聞こえてきた。上を見上げるとちょうど日が頂点に来たくらいだった。いつもなら見回りをしている時間帯のはず。でも、途切れ途切れに聞こえてくる会話に、獲物、素材なんて単語が混じってるから、なんかを狩ってきたんだろう。
「あれ? いつの間に狩りに出てたんだろう?」
「ジャイ、オレらも見に行くぞ。」
オレは言うが早いか大通りに向かって駆け出した。ジャイも、慌てて訓練用の矢を回収し追いかけてくる。大通りに出ると、叔父さん以外にナタリーや他の黒部隊のメンバーがいて、大きな塊を囲んでいた。
「おう、シェーク、ジャイも。ほら見ろ! 俺が仕留めたんだぜ?」
「でっけぇ! ボスすげぇな!」
「ジャイ、何もすごく無いわよ。ボスったら、俺が適任だお前らは下がってろーとか言って、一人で突っ走っちゃうんだもの。最後、私がいなかったらどうするつもりだったのよ。」
周りに指示を出していたナタリーが呆れたように首を振りながら会話に入ってきた。頭の動きに合わせて揺れるポニーテールが叔父さんにバシバシ当たってる。いや、わざと当ててんのか。ナタリーはボスのサポートとして、常に叔父さんと一緒に行動しているから苦労も多いんだろうな。
「あれぐらい一人でも対処出来るさ。でも、楽ができるならそれに越したことはないだろ?」
叔父さんはそう言うと、ハッハッハと大きく口を開けて笑った。ナタリーの髪の毛の攻撃も全く耐えた様子がねぇ。ナタリーがまた呆れたようにため息をついていた。甥っ子としてちょっと申し訳なく思うけど、オレが言ってもどうにもなんねぇしとっくに諦めてる。
一連の流れはいつもの事だから、オレもジャイもサラッと流して会話を続ける。
「叔父さん、これどうするんだ?」
「これはな、角は薬に羽は武器になるんだ。んでもって、肉が美味い。とにかく美味い。」
「マジで! 俺食べてみたい!」
「もちろんジャイにもいっぱい食わせてやるよ。でも、その前に暇してるヤツら呼んできてくれ。解体すんのにこれじゃ人手が足りねぇからな。」
「わかった!」
返事をすると、ジャイは唐突に紐付き矢を弓に番えた。そんで思いっきり引き絞ると、勢いよく矢は飛んで建物の壁のはるか上の方に突き刺さった。矢に繋がっている紐をジャイが持ってるから、矢に引っ張られる形で体が宙に浮いて屋根の上まで運ばれていく。そのまま、紐を離すと屋根の上を飛び移りながら去っていっちまった。
建物に刺さった矢の揺れが収まる頃には、ジャイはもうだいぶ遠くに消えていた。
大きい弓が使えるようになったから最速の移動方法教えてもらったんだ、 緊急の時に使うんだって、ってにっこにこの笑顔で言ってたのはどこのどいつだっての。今のどこを見ても緊急時では無いだろ。
「ジャイ!ったく、矢がもったいねぇだろうが。あれじゃもう使えねぇ。」
「ハハッ、子供はあれくらいでいいんだよ。」
叔父さんはそう言うが、オレらの住んでる地域では常に物資が不足している。無駄遣いは出来ねぇはずだ。矢はそもそも消耗品で減りが早いってのに、壁にぶっ刺したら壊れるに決まってるだろ。
体を引っ張れるくらい思いっきり飛ばすなら、せめて空中にやれっての。ボスがそれを注意しねぇから、ジャイも本気で治そうとしねぇんだろうが。
叔父さんの強さは尊敬してるが、こういう適当なとこはボスとして大丈夫なのかたまに心配になる。まぁ、周りが優秀だからどうにかなってんのか。そういう人が集まんのも、ある意味ボスに必要な才能なのかもな。
一旦ジャイは後で1発締めるとして、あいつ程ではないがオレも叔父さんが狩ってきたハンクが気になって観察してみる。別に肉が気になるとかじゃねぇからな。初めて見るハンクだから、そう知的好奇心ってやつ。
ん? そういえば、昨日読んだ本にこのハンクに似た動物がいた気がする。なんだっけ……。あ、思い出した、あれだ。
「叔父さん、これってもしかして鶏?」
「お、よくそんな大昔の動物知ってたな。確かにこれは鶏だよ。まぁ、もはやそう呼んでいいのかもわからんがな。」
「どういうこと?」
叔父さんの言い方に引っ掛かりを覚えて問いかける。そしたら、叔父さんは俺の方をどこか悩んだふうに見てきたから、黙って見つめ返した。しばらく悩んだあと、周りを見回して何かを確認すると、ひとつ頷いて言葉を続けた。
「そうだな、お前はもっと強くなるだろうし、ここのボスになれるだけの才能がある。教えてもいいだろう。」
「ちょ、ボスって何のこと言って――」
なんかやな予感がして慌てて話題をそらそうとするが、それを遮るように叔父さんが口を開いた。
「ここにいる生物はな、全部異常な突然変異を起こしているんだ。」
告げられた言葉に思考が全部もっていかれた。頭ん中が叔父さんの言ったことを理解するのでいっぱいになる。
異常な突然変異……。生き物ってのは突然変異を繰り返して進化していくもの。だから、体が変化していくこと自体はおかしなことではないはずだ。そうやって教わったし本にも書いてある。
だが、叔父さんは異常なとわざわざつけた。それはどういう意味なのか。叔父さんは基本なんでも考えてることをそのまんま言う人だ。だから、この言葉もそのままの意味と取っていいはず。
何が異常なのか、本に載っていた鶏の記述を思い出す。それを今目に前にいるハンクと見比べると……。確かに明らかに突然変異では片付けられないような違いがある。
百年経ったくらいで、頭から角が生え、羽が武器に出来るほど硬くなり、体が五倍以上のデカさになるのは普通じゃねぇ。叔父さんが言いたいのはそういうことだろう。
考えるのをやめないまま、顔を上げて問いかける。
「きっかけは?自然災害、いや人間が原因の可能性が高いか。」
「はぁ、全く優秀すぎて我が甥っ子ながら将来が怖いねぇ。正解、原因は人間だよ。直接的ではないけどな。」
「詳しく教えて。」
さっき感じたいやな予感なんて全て忘れて、気づけば好奇心のままにさらなる情報を求めていた。
「そうだな、まず昔はもっと人間がここにもいたんだ。そこには身分っつう価値観が存在して、主に貴族と呼ばれる、俺たち平民ってのよりも身分が高いやつが社会を支配してた。
当時は今と違って、電気が全ての場所に通っててな。ほかの技術もちゃんと活用できるものとして生きてたらしい。
だから、だろうな。人口が増えすぎて地球だけでは土地が足りなくなった。そこで貴族たちは、月への移住計画を立てたんだ。」
「月?」
月と聞いて思わず空を見上げる。まぁ今は昼間だから見えるわけはねぇけど。月は確かに他の星に比べれば、近い。だからってそう簡単に移住できるほどの距離では無いはずだ。いや、それが可能なくらい昔の技術は発展してたっつうことか。
「そんなことほんとに出来たのか。」
「まあ、最初のうちは上手くいったらしいぜ。移住計画を立てた貴族たちは、物資を運び込むことには成功したらしい。
だが、そこで問題が起きてな。詳細は分かんねぇが、でかい爆発を起こしちまって月がだいぶ欠けちまったんだとか。ま、そのせいで引力がどーたらこーたらして月は離れ、地球上の生物は突然変異を始め大混乱。」
なるほど、昔はもっと月が近かったから移住が可能だとされたのか。というか、月が欠けてる理由がそんなもんなんて結構ショックかもしれない。
にしても、その当時の貴族とやらはマヌケ過ぎるだろ。取り返しつかねえほどの失敗やらかしてんじゃねぇか。
それに問題はそれだけじゃねぇ。
「その貴族たちはどこへ行った? さっきの言い方からすると、ここにいるのは全員平民。もしかして、たまに攻撃してくるあいつらか。なら、貴族たちは普段どこにいるんだ?」
「質問の答えを自分で言うんじゃない、まったく。あいつらは、地下に潜ってるよ。長い間地上で喋ってくれるやつがいないから、どう暮らしてんのかは想像もつかんがな。
何故かあいつらは、いまもまだ俺らを支配してるつもりみたいだし、謎の機械を使ってくることだけはわかってんだけどなー。」
地下。まさかオレたちを支配しているつもりなのに、自分たちは隠れているとはねぇ。随分と臆病みたいだなぁ、貴族ってやつは。
それはそうと、叔父さんはこんな話をオレにしても良かったのか? 周りの人からも、これまでに一切聞いたことがねぇような話だったけど。それは知ってる人が少ないからだよな。
聞いちまって今更だが、やっぱりさっきの嫌な予感は正しかったように思える。それぐらいには衝撃的な話だ。正直、自分もどこまで理解出来てんのか分かんねえけど、この話が広まってたらやばいことだけは分かる。
「あぁ、別に構わねぇよ。なんとなくのことなら、大人はみんな知ってる。貴族を恨む原因になりそうなことは、一部しか知らないがな。」
「そこもオレに話してんじゃねぇか。」
「お前はいいんだよ。感情的になることもないし、なんだかんだ面倒見もいい。きっとボスに選ばれるさ。まだ子供の部分もあるが、お前なら話しても大丈夫だ。どうせ、遅いか早いかの差だしな。」
信頼の証ってことなら嬉しいんだけど、叔父さんのことだから、ここでの思いつきだろーな。きっとボスに選ばれるって、どっからそんな考えが出てきたのか。まだまだ叔父さんは現役だし、あるとしても遠い未来の話だ。
なんか新しい情報と叔父さんの適当さで頭ん中ごっちゃごちゃになっちまった。ナタリーはいつもこんな気持ちなのか。よし、今度マッサージしてあげよう。思わず、少し離れた所で解体を始めてるナタリーに憐れみの視線を向ける。
「おぉ!こりゃデケェな。これで一ヶ月は肉にこまらないな。」
「皆来てくれたか。ありがとな、ジャイも。解体始めるぞ。子供たちは、手伝えるとこは手伝ってわからんとこは見学してな。」
色々と頭を整理しつつナタリーを憐れんでいると、皆がジャイに引き連れられて近づいてきた。話はここまでか。一応、今度他の人にも聞いてみっか。
「シェーク、君も手伝って!」
「ジャイ、お前は先にオレが絞ってやるからこっち来い。また、無駄に矢壊しやがって。」
「シェーク? あれは、れっきとした移動手段でね? 」
「急ぐ必要性はどこにもなかっただろうが!おい、逃げんじゃねぇ! 」
広場を逃げ回るジャイを追っかけて、追いかけっこが始まる。それを見て、皆が笑っていた。
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「……夢か。」
懐かしいな。あれはまだ、叔父さんが生きてた時だったっけか。結局叔父さんとあの話をしたのはあの時くらいだったな。
あの1年後、叔父さんがハンクに殺られて、何故かオレがボスになっちまった。オレより年上のやつなんて何人もいたから反対するやつがいると思ってたが、結局誰も何も口を出さず、全会一致。
多分叔父さんがなんか言い残してったんだろうけど、おかげでオレは突然みんなをまとめなきゃいけなくなった。まあ、特に不満もないから別にいいけど。
空を見ると、日が頂点を過ぎたとこだった。そういや今は休憩時間だったか。昨日夜の番だったのもあってまだねみぃ。次の番までまだあるし、もうちょい寝るか。
とまぶたを閉じかけたその時、ピーッという笛の音が鳴り響いた。瞬時に意識が覚醒する。この吹き方は、ヨイだな。あいつは今確か地下の出入口の警備なはず。
「なーんか嫌な予感がすんな。」
ヨイはいつものやつらが来たくらいじゃ笛を鳴らさねぇ。それが街全体に響くように音を鳴らした。なら何かが起きたと見ていい。さぁ、鬼が出るか蛇が出るか。助太刀に行ってやるか。
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