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名前




今回はほのぼの回です。


オブザーバーはサファリジャケットについているポケットの一つから菱形の鉱石を取り出し黒羽のわき腹に押し付ける。


「動かないでくれよ?」


オブザーバーが黒羽にそう告げると菱形の鉱石から眩い光が放たれる。

黒羽はその光に咄嗟に顔を腕で覆う。


「あれ?」


黒羽は自らの体の変化に気づく。

ただ、それは体に違和感が生まれたからではない。

むしろその反対に急激にわき腹の痛みが引き、今まであった違和感がきれいさっぱり無くなった。


「一体、何を?」


黒羽は自分の体に起こった出来事が未だに呑み込めていないのかわき腹の辺りを触っている。

「ああ、回復効果を持つ遺産だよ。貴重なものだけど、使い捨てなら一応野良の能力者でも手に入れられるんだ。」

その発言を聞き、黒羽は先ほどのアイアンとの戦いでわき腹に攻撃を食らい肋骨を持っていかれたことを思い出した。

それと同時に黒羽は自分の中でのオブザーバーに対しての警戒度を少し下げた。


「その、ありがとう。」


黒羽は自分の中にある感謝の気持ちを伝えるため直角九十度のお辞儀をする。


「いやいや、いいんだよ。働きで返してくれればね。まあ、正直こんな前哨戦で使い捨ての回復用の

 遺産を使うことになるとは思わなかったけど……」


オブザーバーは声のトーンを先ほどより幾分か下げると黒羽にそう告げた。顔を見ることが出来ないため憶測でしかないが恐らくネックウォーマーの下ではそう言いながらも力なく笑っていることだろう。

その様子に黒羽は若干の申し訳なさを感じたが、それとは別に一つの疑問が浮かんできた。

(遺産?痛みが消えたのはこの人の能力か?いや、使い捨てってことはゲームとかの不思議な消費アイテムみたいなものなのかも……)


黒羽がそう考えていると落ち込んだ気分を振り払うように首を横に振るう。


「いや、見てたのに介入しなかった僕にも責はあるか……」

「ん?……ちょっとまて、見てたのか?いつから?」


オブザーバーのとんでもない爆弾発言に黒羽は先ほどの思考を放棄して聞き返してしまう。


「え?初めからだけど……あれ?気づいてなかったの?ヘルメットの男と鬼の面の男の話した時に勘づいていると思ってたんだけどな?」

然も気づいていて当然というようにオブザーバーは首を傾げる。


黒羽としてはあの状況でそんなもの気づけるかと思わずにはいられなかったが、確かに今になって考えてみれば会話の内容から見ていたのは明白だったのかもしれない。


(………いや、あの状況で気づけっていうのはやっぱり理不尽だろ。こちとら身バレで最悪、命が危ないって言われてたんだぞ?)

そんな黒羽の内心を知ってか知らずかオブザーバーは重要なことを聞いていなかったという様子で黒羽に問いかける。

「そう言えば、君、こっちの世界での名前は決めたの?」

内心で毒づいていた黒羽オブザーバーの突然の質問に一瞬詰まりながらも答える

「い、いや、特にそう言うのは決めてないけど……」

「ふ~ん、なら明日までに決めておきな。ああ、後明日は他の仲間とも会うから、顔は隠すこと、話し方とかも作っておいた方が素性バレしないけど……そこら辺は君に任せるよ。じゃ、明日、深夜の1時、二丁目の廃墟で待ってるよ」

二丁目の廃墟……その言葉が示す場所は黒羽が昔から通っていた廃墟だけだ。そこで待つという言葉がどういう意味なのかは分からない。ただ、そこで待つとだけ告げると、オブザーバーは跳躍し、十五メートルほどある建物に飛び移り、そのまま姿を消してしまう。


それを見届けた黒羽も家に帰るために走り出した。


☆☆☆

「名前か……」

昨日言われた名前を考えてこいと言う言葉。

その言葉に従い現在黒羽は自分のナイトネームとでも呼ぶべきものを考えていた。

(……やっぱり、自分の名前からブラックフェザーとかか?それとも、死神という意味のグリムリーパー?どっちも捨てがたいな……)

黒羽は自分のノートに名前の候補を書き連ねていく。


「……は君。黒羽君」


その声でハッと前を向く。


すると、口橋先生の顔が近くにあった。

「その……ね。今、授業中だから、そう言うのは後でやろうね。」

黒羽は口橋先生に自分のノートを見られたことを悟り、恥ずかしさのあまり穴に入りたくなる気持ちを感じながら謝罪する。

「す、すいません。」

幸い、内容については口橋先生は黙っていてくれたのでクラスメイトに知られることはなかったが、隣の席の真人は内容を覗き見ており、口に手を抑えながら必死に笑いを堪えていた。


☆☆☆

「やっと、昼休みだな、ブラックフェザー」

最後のブラックフェザーを自分たちにしか聞こえないように小声で話す真人に対し、黒羽はじっとりとした目を向ける。

「茶化すなよ」

「悪い、悪い、でもどうしたんだ急に、昨日までそんな素振り見せなかったのに」

真人が首を傾げて問いかけてくる。


「まあ、あれだ、これから入るグループで必要になったというか、なんというか」

黒羽は何とかナイトメア能力者などについて触れずに説明しようとしたが、最後の方は尻すぼみしてしまう。

しかし、真人は得心言ったとばかりににやりと笑う。

「お前、さてはネトゲ始めたな。」

「お、おお、よくわかったな」

真人が勝手に勘違いをしてくれたので黒羽はそれに乗る

「成程な、だったらお前のキャラにあった名前でもいいんじゃないか?勿論、ブラックフェザーとかグリムリーパーとかでもいいけど、キャラ性能にあった名前にすれば相手も覚えやすいし、ボイチャとかの緊急性の高い場面で支持が通りやすそうじゃないか?」

その言葉には黒羽も一理あると感心する。

「もしかして、真人って何かネトゲやってるのか?」

「ふっ、まあな、ああ、俺ネットにリアル持ち込まないから、流石にタイトルまでは教えられないけどな‼」

待ってましたとばかりに話し出す真人だが、黒羽は大して興味がないのか聞き流す。


「それより、お前名前は何にしてるんだよ」

黒羽はにやりと悪戯小僧のような笑みを浮かべる。

「それよりってお前が聞いてきたんだけどな……。まあいいか、耳をかっぽじって聞いておけ、俺のネットでの名前は視善の視るに真人の真と書いて、トゥルーアイズだ‼

……あ、もし、俺のアバター見つけても知り合いとして話しかけるなよ……絶対だぞ‼」


うっかり、プレイヤー名を話してしまい焦る真人であったが、それよりも黒羽には引っかかるところがあった。


「いや、お前のネーミングセンス、俺と同等じゃねぇか‼」

その言葉に真人は自らの黒髪を掻きながら「はっはっは、そうか?」と笑い誤魔化すのであった。



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