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協力者


手に持っている棍を片手で振るいいとも簡単に斬撃を打ち消す。


「それじゃあ、俺の番だよな~」


その言葉と共に男は再度、加速する。


何とかもう一度、この飛ぶ斬撃を放とうとするが、正直間に合いそうにない。


積み、だろうか?


その言葉が脳裏をよぎる。


しかし、男から目を離さない。


すると、自分と男との間に誰かが割って入ってくる。


「おっと、いたいけな少年に意地悪するのはやめたまえ、アイアン」


「ちっ、オブザーバーか、こんな所で何してやがる?」


黒羽は突如現れたオブザーバーと呼ばれた男により九死に一生を得た。


「そんなの決まっているだろう。正直、こんな所で問題を起こされたくないんだ。大規模な戦いに僕たちまで巻き込むきかい?」


「おいおい、人聞き悪いことを言うんじゃねぇよ。あくまで、能力者が肩を寄せ合って助け合おうとしてるだけだろ?ただの互助組織じゃねぇか」


「たとえ、君たちがそう思っていても周りはそう思わない。それは君が一番わかっているだろう?」


オブザーバーと呼ばれた男は柔らかい口調とは裏腹にアイアンと呼ばれた男をじっと睨む。

それに対し、アイアンと呼ばれた男も肩を竦める。

「はぁ、そうだよ。確かに分かってはいたぜ?今後どうなるのか。勿論、うちのボスもな。わかってねーのは他の能力者と戦ったことのねぇぺぇぺぇだけだろうよ。だがな、それがどうした?誰も困ってねぇ。それにぺぇぺぇどもも力を振るえる場所を求めてるって点じゃあ俺と同じだ。みんなハッピー、Win-Winってやつじゃねぇか。……ああ、お前は困ってるんだっけか?だったらなぁ。」


そこまで言うとアイアンは棍を構えて好戦的に笑う。


「てめぇをその下らねぇ悩みごとぶち殺してやるよ‼」


その言葉と共にアイアンは加速し、そのままの勢いで突きを放つ。

一撃目は胴目掛けた中段突き、二撃目は頭を狙った上段突き、三段目は胴を打ち据える薙ぎ払い。

オブザーバーはそれらを全て凌いでみせた。一撃目と二撃目は手に持つナイフの腹で、三撃目の薙ぎ払いはナイフの刃で防ぐとともに横に飛んだ。


その光景には流石のアイアンも舌打ちをする。


「これじゃあ、てめぇはやれないか……。」

「そろそろ諦めてくれたかい?アイアン」

オブザーバーがそう問いかけるが、アイアンはむしろ好戦的な笑みを深める。

「いやむしろ、あったまってきたぜ。」

そう言うとアイアンは再度構えを取る。


しかし、その構えは今までと全く違うものだった。

今までの構えは多少腰を低くしていたがそれでもどんな状況にも対応できる構えだった。

しかし、今の構えは前までの構えをより低くし、更に棍の末端を地面につけている。

あれで一体何が出来るのか、ずっと戦いを見ていた黒羽は首を傾げてしまう。

しかし、その答えは直ぐにアイアンによって齎される。


「インパクトッ」

ドンッ



アイアンの掛け声とともに地面につけていた棍の末端から衝撃波が発生し、その体を今まで以上に加速させる。

その速さは少し離れて戦いを見ていた黒羽ですら姿を見失う程だった。


しかし、

オブザーバーと呼ばれた男はその攻撃の全てに対応して見せる。

顔を狙われた突きも胴を狙われた突きも態勢を崩すための足払いも全て紙一重で

受け、躱し、いなす。


自分の攻撃を全て対応されたアイアンはにやりと笑い距離をとる。

「流石だなぁ。じゃあ、これなら、どうだ‼」

すると先ほど同様、姿勢を低くし、地面に棍の末端を付け、インパクトという言葉と共に衝撃波を発生させることで加速する。


そして、オブザーバーの胴体を狙った中段突きを仕掛ける。

ただ、先ほど同様、その攻撃はオブザーバーによって止められた。

だがここで、アイアンは棍を引くことはしなかった。



「インパクトッ」


ドンッ


その言葉と共にオブザーバーが受け止めていた棍の先端から衝撃波が発生する。


「クっ、っそ」

先ほどまでは何とか受けきれていたオブザーバーだったが、流石に予想外の攻撃に反応することが出来なかったのかバランスを崩す。

アイアンはその隙を見逃す事はせず、突きを放とうとする。


だが、


プルルルル


その音が聞えたと同時にアイアンは攻撃を辞め、ポケットをまさぐり携帯を取り出す。

「はい、アイアンです。え⁉もうそんな時間なんすか?え~、じゃあ今から行きます。は~い了解で~す」

そう言うと電話を切る


「わり、お前との戦いはおあづけってことで」


それだけ言うとアイアンは姿を消す。


アイアンが完全にこの場から消えたことを確認するとオブザーバーと呼ばれた男は数度深呼吸をすると臨戦態勢を解除した。

そして、黒羽と目を合わせる。

「ふぅ……どうやら、俺たちは助かったみたいだね?」

オブザーバーと呼ばれた男はわざとらしくため息を吐き、黒羽に話しかけてくる。


助けてくれたから、一先ず敵ではないだろう。


とは言え、相手の素性が分からい以上無暗に信用することも出来ない。

そう考え、黒羽はいつでも逃げられるように距離をとる。

「おいおい、そんな警戒しないでくれ、別に俺は君に何もしないよ?」

オブザーバーと呼ばれた男は肩を竦め、そう告げる。


更に意思表示のためか態々武器を地面に置き、手を挙げて無害であることを示す。


黒羽はその姿をつま先から頭のてっぺんにかけて注意深く観察する。

オブザーバーと呼ばれた男は上着にサファリジャケットを着ており、下はカーゴパンツを履いている。

そのため、ポケットがやたらと多く、どこに武器を隠し持っているか分かったものではない。その上、顔もスキー用のゴーグルとネックウォーマーのようなもので隠れているせいで容姿についてその特徴を知ることが出来ず、嫌でも警戒してしまう。

唯一見えているのは、その茶色い髪くらいのものだろう。


相手もそのことについて気づいたのか、首を振りながら話しかけてくる。

「まさか、顔を晒せなんて言わないよね?素性がばれるのはナイトメア能力者にとって致命的なんだ。むしろ君は良いのかい?顔がばれれば能力が使えない昼に仕掛けてくる奴がいるかもよ?」


その言葉で黒羽は気づく、現状がいかに危険であるかを……


だが、そうなってくると一つ疑問が残る。


それは


「た、確かに、でも、さっきの棒使いの男も顔を隠していなかったはず……」


アイアンと名乗った男も顔を隠していなかった、という点だ。


「そうだね。でも、思い出せる?アイアンの特徴をさ、こんな服装してた、とか、目つきが鋭かった、とかさ、あっ若いっていう以外でね?」


オブザーバーの言葉を聞き、黒羽は記憶を掘り返す。

しかし、

「……全然思い出せない。」


若そうだというのは分かる。多分十代から二十代だろう。ただ自分が何故そう感じたのかわからない。

何故、だっただろうか?


その疑問にオブザーバーは答える。

「それが答えさ、基本的に顔を隠さず活動している人は、大体、認識阻害の遺物を使っているんだ。そうすれば素性がばれることもないからね」


(成程、そう言うことか……)

オブザーバーの語った内容はストンと黒羽の中で腑に落ちる。


ただ、それと同時に体全体から冷や汗が噴き出るような錯覚に陥った。


「もしかして、今の俺の状況ってかなり不味い、のか?」


オブザーバーは表情こそ見えないが、真剣そうな雰囲気と共にこくりと頷く。

「うん、ただ、今のところは大丈夫、だと思う。十分な夜集が出来てないから。」


「夜襲?」


黒羽は聞きなれない言葉に首を傾げる。

「そう、夜の集まりと書いて、夜集さ。俗に言うナイトメア能力者の集団だね。」


「成程、それで、夜集。でも、それと俺が安全なのと関係があるのか?」


この男とも次いつ会えるかわからない。

面がばれたことにより起こりえる危険に対しての不安を必死に隠し、出来るだけ平坦な声で黒羽は尋ねる。


「それはね、自分たちの夜集がちゃんと出来るまでは他の夜集にばれないように、目を付けられないようにするためさ。元々、僕ら田舎で暮らすナイトメア能力者は個人で活動するのを望む人、少数ではあるけど地元から離れたくない人、都会では力不足だった人、都会で問題を起こして身を潜めてる人、都会に出る度胸がない人の五通りに分かれてるんだ」


(つまり、烏合の衆ってことか。)

その言葉を黒羽は飲み込みオブザーバーに質問する。


「……あなたはどれに当てはまるんだ?」

「僕かい。僕は個人で活動したい人間だね。都会だとさぁ。どこかの夜集に入るか、自分で夜集を立てるかしかしないと活動できないんだよね。そして、そんな僕たちからすれば、夜集を組まれるのは非常に困るんだよ。夜集同士の抗争に巻き込まれるかもしれないからね。」


オブザーバーは「はぁ」とため息を吐きながら目頭を揉…もうとしてゴーグルに当たる。


「それに関しても俺は無関係じゃないのか?」

「ああ、君が個人のナイトメア能力者として活動したいなら、ね。というか、君は何でこんな所をふらふら歩いているんだい。ナイトメア能力者についての常識も知らないのに。」


その言葉で黒羽は思い出す。

元々、自分は紅翔さんを探しに来ていたのだ。

この短時間で色々なことがあったため記憶の奥の方に押し込まれていた。


「おれは、探している人がいて、それで……」

「成程ね~。それであいつらに絡まれたと……。もしかしたら今回の件と関係あるかもね?なんせこの街の能力者たちは都会にでる度胸がない人が大多数を占めていた筈なのにやたらと好戦的になってるし……思考干渉系の能力者がいるとかかな?」


そこまで言うとオブザーバーは顎?ネックウォーマーらしきもののせいで断定はできないが顎がありそうな場所に手を当てて考え始める。

そして、暫くぶつぶつ言った後にこちらを向く。


「もし、君が良ければだけど、手を組まないか?君の素顔を見た鬼の面の男とヘルメットの男、彼らはそれぞれ、都会に出る度胸がない能力者と都会で実力の差を感じて帰ってきた能力者さ。何故あれだけ行動的になっているのかは知らないけど、元々の気性から考えて、昼に君に害をなすどころか、まともな後ろ盾、つまり夜集に属していない状況で誰かといざこざを起こすのは避けると思う。アイアンに関しては自分の戦った相手をべらべら話すタイプじゃないから一先ずは安心じゃないかな?それで僕らの目的なんだけど、実をいうと夜集がこれ以上でかくなる前に叩き潰す事なんだ

つまり‼君からすれば僕と手を組めば探している人の手掛かりが手に入るかもしれないうえに、自分の安全も確保できる、そう一石二鳥さ」


「さあ、どうする?」オブザーバーが目でそう問いかけてくる。


それに対し、黒羽は目を瞑り考える。

正直、この男のことはそこまで信用できない。

自分が聞いた質問は今の所答えてくれるが、それが本当のことであるという保証はどこにもないし、何より自分の素顔という弱みを握っている一人だ。

ただ、だからこそ、友好的な関係を築いておきたいという思いもある。

何より、夜集。そこに紅翔さんが囚われているのなら俺一人ではどうしようもない。


なら、俺の出せる答えは一つだろう。


「わかった。俺にも協力させてくれ」

その言葉に対し、オブザーバーは笑みを浮かべ、握手を求めてきた。

それに対し、俺はオブザーバーの手を握ることで答える。

するとオブザーバーは

「これからしばらくの間、よろしく頼むよ。」


すると、その瞬間わき腹から途轍もない痛みを感じた。

俺はわき腹を抑えうずくまった。


どうでもいい補足


①はい、ということでナイトメア能力者は基本的に認識阻害の夜の遺物を使っています。使っていないのは主人公と焔ちゃんくらいです。主人公はナイトメア能力者としての常識がないため、焔ちゃんは昼でも玉座の悪夢の力で返り討ちに出来るからです。


②一応、相手を殺さないようにする際は戦闘不能に追い込んでも認識阻害の夜の遺産は取らないのが鉄則です。何故ならナイトメア能力者の素性を知るというのは完全な敵対行為だからです。


③夜集に関しては時代や地域、どこに所属しているかで呼び方が変わってきます。オブザーバーが夜集と呼ぶのは彼が野良の能力者だからですね。


④オブザーバーやアイアンは名前ばれを防ぐための偽名ですので(ゲームのプレイヤー名のようなもの)なため、人によっては適当に付けます。アイアンはその典型ですね。オブザーバーは能力や請け負う仕事から名前を付けています。


誤字脱字報告、感想等お待ちしております。

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